2023年2月28日、JAXAは新しい宇宙飛行士候補者2名(諏訪理さん・米田あゆさん:50音順)の決定を発表。同日に2名が出席しての記者会見を行いました。

 記者会見では宇宙飛行士を目指した動機や、これからの抱負など、さまざまな質問に答えていたのですが、家族などに関する質問をされた際、米田さんが「プライベートなことですので」と、しっかりした口調で回答を控えた点が注目を集めました。

 今回のJAXA宇宙飛行士候補者選抜は2022年4月より始まりました。これまであった「大学の理系学部卒」という条件を撤廃したこともあってか、応募者は過去最高の4127名。20代以下から60代以上まで、幅広い世代が応募しています。

 書類選抜から第0次選抜、第1次選抜、第2次選抜を経て、最終の第3次選抜に進んだのは10名(20代以下1名/30代7名/40代2名)。その結果、世界銀行で上級防災専門官を務める諏訪理さんと、日本赤十字医療センター(2022年10月より虎の門病院に派遣中)の外科医である米田あゆさんが選ばれました。

■ ライブ配信された記者会見

 記者会見の様子は、JAXA公式YouTubeチャンネルでもライブ配信されました。なお、諏訪さんはアメリカのワシントンD.C.在住のため、リモートでの参加となっています。

 選抜の過程は外部に漏れないよう、徹底した情報管理がされているため、お2人がマスコミの前に姿を見せるのはこれが初めて。そのため出席した記者からは、さまざまな質問がなされました。

 その中で、海外の通信社に所属する日本人記者が「人となりをうかがいたい」とし、家族やパートナーの存在など、プライベートに立ち入った質問をする場面が。

 諏訪さんは家族構成について回答したのですが、米田さんは「大変申し訳ないんですけども、プライベートなことで、回答するのは差し控えさせていただければと考えています」と断り、はっきり自分の意思を示しました。

 ライブ配信をしているYouTubeのチャット欄では、この質問に対し「米田に彼氏いるか聞きたいんだろ」や「社会がそれを聞きたいと思ってるのかな?」といった否定的な反応。米田さんの返しについては「はい、米田さん、最高」「うん、それでいい。わざわざ答えなくていいもんね」「毅然としてるね」と、おおむね好意的な反応が並びました。

 同じ記者からは「若い女性という観点から、ご自身が宇宙開発に持ち込めること、どんなことが貢献できるか」という質問もありました。これに対し、米田さんは次のように答えています。

「もちろん年齢のこと、性別のこともあるとは思うんですが、私自身は特に若い女性であるっていうことに対して、それを意識してというのではなく、一宇宙飛行士候補生として頑張っていければなあと考えています」

■ NASAの場合はどうなの?

 では、NASAの宇宙飛行士候補者発表についてはどうなのでしょうか。日本とは違い、NASAでは定期的に選抜をしているのに加え、多くの人数(直近の2021年12月選抜で10名)がいるため、発表会では記者から個々への質問機会はなく、宇宙飛行士室長からの質問(今後の抱負など)に答える形になっています。

 また、NASAの宇宙飛行士紹介ページに掲載されるバイオグラフィーも、両親をはじめとする家族などのパーソナルデータは個人ごとに詳しさが異なっており、それぞれの意思で「公表しても良い」とするものだけを記載していることがうかがえます。

 逆に、宇宙飛行士候補者に選抜されるまでのキャリアについては詳しく書かれています。アメリカでは「人となり」よりも、宇宙飛行士の任務に直結するであろう「経験と能力」を重視しているようです。

 この違いについては、仕事とプライベートを明確に分ける、という文化や、言いたくないことは言わなくてもいい、という考え方が背景にあるのかもしれません。もちろん、プライベートでのトラブルが仕事に影響するようなことがあれば、その限りではありません(かつて宇宙飛行士の不倫トラブルがスキャンダルになったことがあります)。

 日本では宇宙飛行士が少ないこともあり、より「特別な人」として受け止める人が多いのかもしれません。どこまで詳しく紹介するべきか、メディアによって取り組み方が違い、人によっては任務とは関係ないプライベートな面に踏み込みすぎる質問をしてしまう傾向があるようです。

 今回、米田さんが家族構成などについて明言を避け、自身の年齢・性別についての質問を上手にかわしたのは、場の雰囲気に流されず自身の考えを明らかにする、また任務にあたっては性別に左右されない、という宇宙飛行士にとって不可欠な資質を示したものといえます。JAXAにおける選抜過程の一端を感じられたような気がしました。

<参考>
JAXA プレスリリース
NASA プレスリリース
※画像はYouTubeライブ配信映像より。

(咲村珠樹)