東京・汐留の商業施設「カレッタ汐留」にある異色の立ち食いそば屋「そば さやか」がSNSで話題です。
極限まで固く締めたそばをラー油たっぷりの辛いつゆに浸し、噛み締めることで味わう暴力的なまでの旨味。手軽でいてとことん深い「没入そば体験」を味わってきました。
■ 雑多な表から一歩入ると「漆黒の立ち食いカウンター」が出現
新橋駅の汐留口を出て、地下通路を5分ほど歩いたところにある商業施設「カレッタ汐留」。劇団四季の劇場や大企業のオフィスが入居する建物の地下部分は、エスニックな食堂やバルなどが並ぶ飲食店エリアとなっています。
全体的にカジュアルな雰囲気の中、独特な存在感を放つのが、地下2階にある立ち食いそば店「そば さやか」。漆黒の内装で包まれたその外観は、真っ昼間にも関わらず深夜のバーのような重厚さを醸し出しています。
照度を落とした店内は黒とグレーで統一され、黒くつややかに光る石のテーブルにはモダンなオブジェがぽつんと置かれています。外の喧騒とは対照的な、はりつめた静けさ。ここは私たちの知る「立ち食いそば店」なのでしょうか?
注文はタッチパネル式の券売機で行うスタイルとなっており、はじめて訪れても迷わずに済むのが便利。食券を購入した後は、そのまま店内のカウンターに並びます。
カウンターにはそばを茹でる大きな釜と盛り付け用のスペースがあり、注文したそばが作られていく様子をつぶさに観察することができます。
この部分は撮影NGのため文字のみで表現せざるを得ませんが、店員さんの手つきには無駄な動きが一切なく、洗練されたパフォーマンスを見ているよう。待ち時間が苦になりません。
■ 固ゆでのそば×ラー油仕立ての辛味つゆが激突! ひと噛みひと噛みが鮮烈な没入体験
今回はお店の看板メニューという「冷し肉そば」(1150円)を注文しました。
丼いっぱいに盛られたそばは、一般的なもりそばの3人前ほどはあろうかという大ボリュームです。
箸ですくい上げるとずっしりと重く、持つ手が思わずプルプルと震えるほど。何やらただものではない雰囲気がびんびんに伝わってきます。
そんなハードコアなそばを待ち構えるつけ汁は、ラー油のたっぷり浮かんだ、これまたハードコアな見た目です。そばって、こんなに激しくていいものなんだ──すでに食べる前から、自分の中の「そば観」がパタパタと書き換えられていきます。
そばの上にたっぷりと盛られた豚ばら肉を一緒にとって、つけ汁の中へ。いったん水面に沈んだ箸が再び浮かび上がると、真っ赤なラー油をまとっていっそう凶悪な姿に変身しました。紅に染まったこのそばを慰める奴はもういない──。いただきます。
豪快にすすり上げ、口の中に入れてひと噛みすると、ワシワシとした固ゆで食感の先制パンチがやってきます。アルデンテでもバリカタでもない、「ハードコアそば」。こんなに細いそばのどこにこんなパワーが秘められていたんだ、というくらいのコシに圧倒されます。
いわゆる「芯の残った食感」ではなく、粉のブレンドから相当にこだわって練り上げられたということが感じられる、みっちりと詰まったモチモチの噛み応え。ひと噛み、もうひと噛みと進めていくうちに、しっかり地に足のついたそば粉の旨味と甘みが立ち上ります。
ここでさらにいい仕事をするのが、そばに添えられた豚ばら肉。茹でて適度に脂が抜かれ、肉として力強い旨味がそばの食べごたえにプラスされ、ものすごい満足感です。まるで味の巨人と相撲を取っているかのよう。気づくと丼にすっかり没入している自分がいました。
トッピングメニューの温泉卵を追加すると、先程までの荒々しい食べ口に「仲裁」が入り、一転してまろやかな味わいに。
カウンターの上に置かれた入れ放題の揚げ玉を入れると、今度はクリスピーな食感と香ばしさが加わって、多方面な味を楽しむことができます。この揚げ玉がまたなんとも美味しい。どうもただものの揚げ玉ではないようです。
■ 豪快な「黒舞茸天ぷら」に撃ち抜かれ、“スープ割り”に優しく包まれる
続いてサイドメニューの「黒舞茸の小天丼」(350円)。希少な「黒舞茸」が豪快に丸ごと天ぷらになっています。「小」といっても、その大きさは大人の握りこぶしほど。没頭したまま、何も考えずにかじりつきます。
食べごたえのあるジューシーな衣を通り抜け、ドドンとやってくる舞茸の旨さ。食べ進めるうち、ほんのりまぶされたタレの味が徐々に浸透し、味が鮮やかになっていきます。これはすごい。ランチに限らず、ディナーとしても通用する奥深さです。
お楽しみはこれだけでは終わりません。食べ終わったつゆに卓上のポットからそば湯を注ぐと、なんとも香ばしく、滋味に満ちたスープが完成。一口すすると、ここまでの激しい戦から一転、そっとブランケットをかけられたような優しさに、涙がポロリとこぼれます。
ここでふと手元の時計を見ると、わずか15分ほどしか経っていませんでした。刺激的な体験をすると時間がゆっくりに感じるといいますが、まさかそれをランチタイムの立ち食いそば店で味わえるとは。手軽でいて、なんとも奥深い、不思議な食事体験でした。
■ 漫画家・なぐも先生直筆、シズル感たっぷりの看板が目印 つゆのキラキラまで再現
そんな魅惑の体験に満ちた「そば さやか」ですが、外観から見える情報が極限まで絞り込まれているので、初見でその味を想像するのはなかなか難しそう。ですが、お客さんの流れが途切れることはありません。
その秘密が、店頭にありました。漫画家のなぐも先生によるメニューPOPです。
「冷やし肉そば」や「黒舞茸の天ぷら」の大きなイラストとともに、ポニーテールのキュートな女性キャラクターがその食べごたえを紹介しています。
つゆの水面に光るラー油のきらめきまで、写真かというほどリアルな書き込み具合。なぐも先生のほとばしる愛を感じます。こんな美味しそうなイラストが表に出ていたら、入りたくなること間違いなし。ついさっき食べ終えたばかりなのに、もう一度食べたくなってしまいました。
わずか15分ほどのランチタイムで、舌も心もすっかりトリップ。立ち食いそばの概念が変わる「ハードコア立ち食いそば」、一度飛び込んでみてはいかがでしょう。
「そば さやか」は、新橋駅汐留口から徒歩5分、カレッタ汐留(東京都港区東新橋1-8-2)の地下2階。昼・夜の2部制で、昼の営業が11時30分〜17時、夜の営業が17時30分〜20時。詳しい情報はお店のXアカウント(@soba_sayaka)で発信されています。
取材協力:そば さやか
(天谷窓大)