テレビアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」で注目を集めるレシプロ機。大空を縦横無尽に駆け巡る空戦アクションに、心奪われる方も多いでしょう。ところで、この「レシプロ機」と同じように使われている言葉に「プロペラ機」というものがあります。詳しくない方からすると「プロペラ機=レシプロ機」と思っているかもしれませんが、実は違うのです。
語感がなんとなく似ている「プロペラ機」と「レシプロ機」。中には区別なく使っている方も見受けられますが、結論から言うと「プロペラ機=レシプロ機」ではありません。「プロペラ」は推進方式を、そして「レシプロ」はエンジンの形式を指す言葉なのです。
プロペラは見るとすぐに分かると思いますが、エンジンの回転軸に取り付けられた複数枚の羽で構成される、一種の風車です。扇風機と同じように、回転することで気流を生み出し、その反作用で航空機は進みます。プロペラ機は、プロペラが生み出す気流で推進する航空機のことを指します。ちなみにロケットなどの燃料を「プロペラント(推進剤)」といいますが、これはプロペラと同じく「Propel(推進させる)」という言葉から派生したもの。
これに対し「レシプロ」というのは、ピストンがシリンダー内を往復(レシプロケーション)する形式のエンジンを指しています。いわゆるピストンエンジンのことで、海外では一般的にレシプロ機のことを「ピストン」と呼んでいます。
たとえば、レッドブル・エアレースで使われているレース機は、ピストン(レシプロ)エンジンを使ってプロペラを駆動する飛行機なので、プロペラ機でありレシプロ機。つまり「プロペラ機=レシプロ機」という形が成り立ちます。
しかしプロペラを駆動するのは、ピストンエンジンだけとは限りません。ジェットエンジンをはじめとするガスタービンエンジンの中には、ターボプロップエンジン(ターボシャフトエンジン)というものがあります。圧縮機で圧縮された空気で燃料を燃やし、その燃焼ガスでタービンを駆動して圧縮機の動力とする……という点はジェットエンジンと変わりませんが、タービンを駆動した排気ガスを推進力(排気ジェット)として使用するのではなく、タービンを駆動する力を取り出してプロペラを回すという仕組みです。タービンでとことんまで燃焼ガスの勢いを利用するため、排気ガスの持つ推進力はプロペラが生み出す推進力に比べると、非常に小さなもの。
現在のプロペラ機、それも大型機は、従来のレシプロエンジンに比べて出力重量比に優れる(小さくて高出力)ターボプロップエンジンを使ったものが主流です。航空自衛隊で使用しているC-130輸送機や、海上自衛隊のP-3C哨戒機、US-2救難飛行艇などもターボプロップエンジンのプロペラ機。「プロペラ機=レシプロ機」ではない飛行機となります。
現在の自衛隊では、ジェット機と燃料を共通化できるターボプロップエンジンを使ったプロペラ機を使用しています。これらの飛行機を見てみると、同じプロペラ機でもレシプロエンジン機に比べ、プロペラのある機首周りが細くスッキリしているのが分かります。レシプロエンジンに比べてターボプロップエンジンは小さいため、このようなデザインとなるのです。
航空自衛隊で使用しているT-7練習機のプロペラ付け根の方をよく見てみると、レシプロエンジンとは違い、エンジンの空気取り入れ口がジェットエンジンのようになっているのが確認できます。圧縮機の最初の羽根車が見えていて、ガスタービンエンジンであることがよく分かります。ちなみにT-7の開発作業に携わった航空自衛隊のパイロットに聞いてみると、ターボプロップエンジンはレシプロエンジンに比べて、スロットルレバーの操作からエンジンの出力が変わるまでのタイムラグが大きく、ジェットエンジンに近い特性を持っているとのこと。このことからも、将来ジェット機に乗るパイロットの卵たちが、その特性に最初から親しんでいた方がいい、という面もあるようです。
航空機にそれほど興味のない人からすると、気動車(ディーゼルカー)を「電車」と呼んでいるような感じで、ターボプロップのプロペラ機を「レシプロ機」と呼んでいるかもしれませんが、駆動するものは同じでも、動力源が異なる電気自動車とエンジンで走る自動車のように全く異なるものだ、ということを理解していただけると幸いです。……でも、電気自動車もエンジンで走る自動車も、世間ではどちらも「クルマ」と呼ばれてるんですよね……。
(咲村珠樹)