地球と国際宇宙ステーションを往復するアメリカの民間宇宙船の1つ、スペースXの「クルードラゴン」が、人が乗る初飛行を前にした最後の関門、ロケット打ち上げ中の緊急脱出試験を2020年1月18日(現地時間)に実施。この様子はネットでも生中継されます。
民間企業が開発・運用する再利用型有人宇宙船に乗って、宇宙飛行士が国際宇宙ステーションへ往復するというアメリカの「コマーシャル・クルー」計画。スペースXの「クルードラゴン」と、ボーイングの「CST-100スターライナー」が使用されることが決まっています。
すでに2019年3月に無人での初飛行を実施し、国際宇宙ステーションへのドッキングと地上への帰還を無事に終えたクルードラゴン。次は実際に宇宙飛行士を乗せた飛行試験が行われます。
無人の飛行試験では、主に宇宙船の機能や飛行制御システムなどがチェックされました。しかし、人を乗せるにあたっては、重要な要素をチェックしなければなりません。それが各種の脱出システムです。
宇宙飛行士の脱出システムは、大きく分けて2種類があります。打ち上げ直前に緊急事態が起こり、発射台にあるロケットから脱出するものと、ロケットが打ち上げられ上昇中に緊急事態が起こって脱出するものです。
発射台での緊急脱出システムは、速やかに宇宙船から出て、発射台に備え付けられているゴンドラに乗るというもの。これでロケットが爆発しても安全な距離まで待避します。この脱出システムの試験は2019年9月18日、フロリダ州ケネディ宇宙センターの39A発射施設で実施されました。
もう1つの打ち上げ中における緊急脱出システムは、上昇するロケットから宇宙船を切り離し、パラシュートで降下するというもの。このシステムでは、宇宙船をロケットから切り離すためのロケットモーターと、切り離された宇宙船を安全に着地させるパラシュートの2つの装置で構成されています。
パラシュートは通常の帰還時にも使われるものですが、打ち上げ中の緊急脱出の際には、もっと低い高度でも確実に開き、安全に宇宙船を着地させなければなりません。このため、宇宙船を様々な高度から落下させる試験を何度も行っています。通常は4つのパラシュートが使われますが、1つが開かなかった場合でも安全に着地できるよう設計されており、実際に3つのパラシュートで降下する試験も実施し、能が確認されました。
パラシュートとともに重要なのが、ロケットから宇宙船を切り離すためのロケットモーター。宇宙船の周囲に設置された16基の「ドラコ」スラスターロケットを1秒ずつ2回噴射してロケットから切り離します。続いて8基の「スーパードラコ」スラスターを9秒間噴射してロケットから遠ざかり、パラシュートが使用可能な高度まで上昇させます。このエンジン試験は2019年11月に実施されました。
そして今回、総仕上げとして実際に無人のクルードラゴンをファルコン9ロケットで打ち上げ、上昇中に宇宙船を切り離して着地させるという「飛行中断試験(In-Flight Abort Test)」が行われるのです。試験では打ち上げ90秒後に脱出装置を作動させ、宇宙船をロケットから切り離して着地させます。
試験が予定される時間帯(打ち上げウインドウ)は、アメリカ東部時間の2020年1月18日朝8時(日本時間18日22時)から4時間。打ち上げから宇宙船が切り離され、大西洋上に着水するまでは、およそ10分程度の予定です。1月16日現在、気象条件は90%の確率で問題ないと判定されています。
この様子はNASAの公式サイトやTwitter公式アカウント(@NASA)、YouTubeのNASA公式チャンネルで、日本時間の1月18日21時45分から生中継されます。実際には起きて欲しくない、打ち上げ時の緊急脱出(これまでのアメリカにおける有人宇宙飛行で起きた例は皆無)が見られるのは非常に貴重な機会ですので、興味のある方は視聴をお勧めします。
※初出時、クルードラゴン飛行中断試験のネット生中継開始時刻を「日本時間の1月18日19時45分」としていましたが、正しくは「21時45分」開始となります。お詫びして訂正いたします。
※初出時の「これまでの有人宇宙飛行で起きた例は皆無」とは、アメリカにおける有人宇宙飛行で打ち上げ時の緊急脱出例が皆無であることを示すものです。1961年4月25日のアトラスロケットによるマーキュリー宇宙船無人飛行試験が、アメリカにおける唯一の事態であり、ソ連においては1975年4月5日のソユーズ18a(7K-T No.39)が、緊急脱出システム投棄後に機体に不具合が発生し、宇宙船のロケットモーターで宇宙船を分離して生還、1983年9月26日のソユーズT-10-1(7K-ST No.16L)が打ち上げ後に緊急脱出システムで生還、ロシアにおいては2018年10月11日のソユーズMS-10で、緊急脱出システムでの生還事例があります。
<出典・引用>
NASA ニュースリリース
Image:SpaceX/NASA
(咲村珠樹)