おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

大正ロマンの映画劇場で懐かしの映画を観るぜいたく 福島の「ニュー・シネマ・パラダイス」

 福島県本宮市には、日本でも唯一無二の築100年を超える映画館があります。その名も「本宮映画劇場」。レトロな雰囲気を漂わせるピンク色の外観が、その歴史を物語っているようです。

  •  大正3年に設立された当初は映画館としてではなく、公会堂のような役割を果たしていた施設だとか。当時は、プロレスや選挙演説、芝居や踊りなども行われており、場内の2階、3階の最大1000人まで収容できる桟敷席には、客が寿司詰め状態になるほどだったそうです。現在では2、3階席は壁でふさがれ、当時の賑わいは影を潜めていますが、そこには佐田啓二、石原裕次郎、宇津井健、芦川いづみなど往年の銀幕スターの顔写真や、懐かしい映画のポスターが壁一面に貼られていました。



     年季の入った木製の椅子に、うす暗い場内、黒々とした昔ながらのカーボン映写機。そんなレトロな映画館が100年以上に渡り存在し続けられたのは奇跡に近いこと。1963年に閉館後、45年もの時を経て2008年にみごと復活させた本宮映画劇場の館主、田村修司さん。父親から受け継いだ映画館を昭和38年にやむなく閉館したそうですが、その時「いつか必ず再開する」と心に決め、定年過ぎまで自動車販売の仕事をしながら、定期的に建物や各種機材の保全に努めていたそうです。そんな田村さんも御年82歳。

     「よく「2,3分、映画やって」と言われるけど、2分も3分も2時間も…準備する時間は同じなのよ。フィルム映写するにはいろいろ準備あんのよ」と真剣な表情で準備をされている田村さん。今でもメンテナンスをしている映写機の作業の一コマを写したツイートが印象的でした。そんな「本宮映画劇場」の館主兼映写技師でもある田村修司さんの娘さんの優子さんに取材をさせて頂きました。

    ――現在は、年にどのぐらいカーボン式映写機は稼働しているのですか?

     メンテナンスを日々しておりますので、いつでも上映できる状況です。数は数えてませんが、上映会や団体旅行、イベント時にお願いされた時など上映をします。

    ――現在、本宮映画劇場のスタッフは何名いらっしゃいますか?

     館主の父と娘の私だけです。

    ――そもそもカーボン映写機は、どのような仕組みで映像として投影されるのでしょうか?

     フィルムを光に当て、その透過光をレンズを用いてスクリーンに映すというところです。その光を出すものが、今ではキセノンランプという電球なのですが、うちではキセノンランプができる前に主流だったカーボン棒を使って光を発するタイプで、このカーボン棒を使った映写できる所は現在日本でほぼうちだけとなりました。

    ――Twitterで、2分の映画も2時間の映像も準備の作業時間は変わらないという言葉が印象的だったのですが、具体的にはどのような準備をされているのでしょうか?

     上映することは、すぐ出来なくもないのですが、フィルムをチェックしたり、映写機の状態を確認したり、場内を掃除したりと…丁寧に接客をしたいという気持ちからになります。フィルムチェックを怠ると、フィルムが切れたりアクシデントが発生しやすく、無料だからといっても、お客さんには「やっぱり古いから」など言われないようにしたいという、館主の職人魂といえると思います。

    ――本宮映画劇場では、現在どのような映画が上映されているのですか?

     手持ちのフィルムのいい場面を館主が編集してお見せしています。

    ――遠方からこられるお客様も多いと聞きました。映画を見られた方の反応はどうでしたか?

     古い映写機で見る映画の良さを感じてくれる方が多いです。デジタルのように、キレイすぎる映りではないですが、あたたかみがあると言ってくれます。日本全国、古い映画館、劇場がなくなっているので、みなさんとても喜んでくれます。

    ――これから本宮映画劇場をどのようにしていきたいですか?

     できるかぎり守っていけたらと思います。

     カーボン式映写機は、光源が現在主流のキセノンランプではなく、2本のカーボン(炭素)棒を電極として用いる「カーボンアークランプ」というもの。これは電極の間で放電現象を起こし、その際に発する光を利用しているのですが、同時に発する熱で少しずつ電極のカーボン棒がうっすらとした煙を出しながら消耗して短くなっていき、電極の間が離れて放電が起こらなくなってしまうという欠点があります。このため、上映中も放電を維持できるようカーボン棒の間隔を常に調整し続けるという技術が必要。まさに「映写技師」のテクニックを駆使する映写機なのです。

     また、キセノンランプのように電極がガラスに封入されている「電球」ではないため、上映中は映写機の周辺にかなりの熱が出て、特に可燃性のセルロイドを使っている古い映画フィルム(1984年に東京国立近代美術館フィルムセンターで火災が発生し、収蔵していたセルロイド製の貴重な映画フィルムが多数焼失したことがあります。現在は難燃性のポリエステル製フィルム)の場合、引火しないよう注意する必要もあったといいます。もちろん、映写室の中はかなり暑くなるので、夏は汗だくになってしまうとか。

     最後に「閉館後も、田村さんは定年を迎えられるまで自動車販売をしながら、映画館をキレイに維持してこられ、70歳を迎えた際に上映会を開かれたとのことですが、それまでに挫折しそうなことはなかったのでしょうか?」と伺ったところ「たぶんないです」とのこと。館主の田村さんは、つまらない映画でもお客さんが喜ぶように見どころのある場面を自分でフィルムを編集して作ってしまうそうです。まるで映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のラストシーンのようなお話ですね。貴重なものなのにそんなことしていいの? と、ちょっと筆者的には心配してしまいますが……。映画を通して、これからもたくさんの方の思い出に残る映画を上映し続けてほしいと思います。

    <取材協力>
    本宮映画劇場(Twitter:@motomiyaeigeki/Facebook:@motomiyaeigeki

    (黒田芽以)

    あわせて読みたい関連記事
  • 伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信
    エンタメ, 映画

    伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信

  • テレビ神奈川の新番組「第三学区」が想像以上にエモかった 加藤茶さんが自身登場のゲームに挑戦
    ゲーム, ニュース・話題

    テレビ神奈川の新番組「第三学区」が想像以上にエモかった 加藤茶さんが自身登場のゲ…

  • 加藤茶、伝説の“カトケンゲーム”に挑戦 新番組「第三学区」放送開始
    エンタメ, 芸能人

    加藤茶、伝説の“カトケンゲーム”に挑戦 新番組「第三学区」放送開始

  • 昭和・平成の人気ガム「イブ」「ドナ」復刻登場 “香りをかむ”ガム再び
    商品・物販, 経済

    昭和・平成の人気ガム「イブ」「ドナ」復刻登場 “香りをかむ”ガム再び

  • 学生時代の“謎文化”が続々集結!「○○してたら恋人募集中」アンケート結果まとめ
    ライフ, 雑学

    学生時代の“謎文化”が続々集結!「○○してたら恋人募集中」アンケート結果まとめ

  • ポップコーンに顔をうずめ… 109シネマズ港北が謝罪、SNSで不適切動画拡散
    インターネット, 社会・物議

    ポップコーンに顔をうずめ… 109シネマズ港北が謝罪、SNSで不適切動画拡散

  • かつてヤンキー文化を彩った「裏ボタン」が大量発見 これは懐かしい……!
    インターネット, おもしろ

    かつてヤンキー文化を彩った「裏ボタン」が大量発見 これは懐かしい……!

  • 福島とTOKIOの絆、続くか 県が解散後も連携希望
    エンタメ, 芸能人

    福島とTOKIOの絆、続くか 県が解散後も連携希望

  • 金曜ロードショーの初代OP映像がプラキット化 BGM脳内再生余裕でした
    商品・物販, 経済

    金曜ロードショーの初代OP映像がプラキット化 BGM脳内再生余裕でした

  • 画像提供:架空昭和史作家 西川真周さん(@mashunishikawa)
    インターネット, おもしろ

    家のトイレが巨大ロボのコクピットに!昭和とSFが融合した「架空昭和史」の世界に夢…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 当時、イベント関係企業のSNSに投稿された告知画像
    社会, 経済

    “マジックミラー号”展示などで波紋 中野駅前大盆踊り大会が謝罪声明

  • 「走る先には何がある!?京成スカイライナーキャンペーン」オリジナルQUOカード
    イベント・キャンペーン, 経済

    京成電鉄、中島健人QUOカードが当たるキャンペーン 9月10日から

  • 鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    ロッテ、「鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>」を10月21日発売 シリーズ第5弾

  • タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で
    商品・物販, 経済

    タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で

  • コレコレチャンネルより
    エンタメ, 芸能人

    コレコレさん「LINEで謝罪」も…稲田直樹さんは声明で“間接否定”

  • 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え
    エンタメ, 芸能人

    松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超…

  • トピックス

    1. 隣家からの怒号を音痴で撃退!母と娘が歌声響かせた、1週間の脱力戦記

      隣家からの怒号を音痴で撃退!母と娘が歌声響かせた、1週間の脱力戦記

      隣家から毎晩のように聞こえてくる喧嘩の怒鳴り声。文句の1つでも言ってやりたくなりますが、平穏なご近所…
    2. コレコレチャンネルより

      コレコレさん「LINEで謝罪」も…稲田直樹さんは声明で“間接否定”

      暴露系YouTuberのコレコレさんは、9月6日の配信でお笑いコンビ・アインシュタイン稲田直樹さんを…
    3. 脂肪と好奇心は人一倍!体重110キロ記者、ゆで太郎「倍盛り鍋かつ丼セット」に挑戦

      脂肪と好奇心は人一倍!体重110キロ記者、ゆで太郎「倍盛り鍋かつ丼セット」に挑戦

      ゆで太郎で期間限定提供されている「倍盛りかつ丼セット」。そばにセットでついてくるかつ丼は、丼ではなく…

    編集部おすすめ

    1. 当時、イベント関係企業のSNSに投稿された告知画像

      “マジックミラー号”展示などで波紋 中野駅前大盆踊り大会が謝罪声明

      中野駅前大盆踊り大会の実行委員会は9月9日までに公式サイトを更新し、前夜祭での演出をめぐり区民や行政から批判を受けた件について声明を発表した…
    2. ポケモン公式Xで「逆転」現象 「メガカラマネロ」登場の匂わせ?

      ポケモン公式Xで「逆転」現象 「メガカラマネロ」登場の匂わせ?

      ポケモンシリーズの最新情報を伝える公式Xアカウント「ポケモン情報局」に何やら不穏な動きが。プロフィールや投稿がすべて逆さまに「逆転」する現象…
    3. 鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>

      ロッテ、「鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>」を10月21日発売 シリーズ第5弾

      アニメ「鬼滅の刃」とロッテの人気菓子「ビックリマン」が再びタッグを組む。株式会社ロッテは、絶賛公開中の「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 …
    4. タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で

      タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で

      株式会社タカラトミーは9月8日、7月19日に発売した玩具「グランドモールトミカビル(トミカ55周年記念特別仕様)」について、子どもの指を挟む…
    5. 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      エイベックスの松浦勝人会長は9月4日、自身のX(旧Twitter)で新たに「松浦顧問制度 シーズン1」を立ち上げたことを報告した。内容は「月…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト