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アラスカで陸上自衛隊と航空自衛隊が多国間合同訓練実施

 2019年6月、陸上自衛隊と航空自衛隊は恒例の合同訓練をアラスカで実施しています。陸上自衛隊は「アークティック・オーロラ」、航空自衛隊は「レッドフラッグ・アラスカ19-2」。それぞれの訓練名が異なるので別々に実施しているようですが、実は航空部隊と陸上部隊が一緒に行う訓練もあるのです。

  •  陸上自衛隊の「アークティック・オーロラ」は、アメリカ陸軍との実動訓練。千葉県・習志野駐屯地の第1空挺団第1普通科大隊を基幹とする約110名が参加し、5月22日~6月28日(現地時間)の期間にアラスカの訓練場で実施しています。今回はアメリカ陸軍の砲兵部隊が155mm榴弾砲M777を使用し、初めて実射をともなう火力誘導訓練を行うことが特色です。アメリカ陸軍の火力支援を受けながら、陸上自衛隊の普通科部隊が戦術訓練を行うというわけです。アメリカ陸軍の155mm榴弾砲M777は、UH-60ヘリコプターでも空輸できるほど軽量なため、空挺作戦でも使用できるのがメリット。

     航空自衛隊の「レッドフラッグ・アラスカ19-2」は、アメリカ空軍をはじめとする恒例の多国間合同演習。6月7日~22日(現地時間)の期間に実施され、航空自衛隊からは青森県・三沢基地の第3飛行隊に所属するF-2A/B戦闘機6機、静岡県・浜松基地の第602飛行隊に所属するE-767早期警戒管制機1機、愛知県・小牧基地の第401飛行隊に所属するC-130H輸送機2機が参加しています。

     陸上自衛隊は第1空挺団の普通科部隊が参加しているので、いわゆる歩兵戦闘の訓練。その中にはスナイパー(狙撃手)の訓練も含まれます。狙撃要員の隠密行動用戦闘装着セットに含まれるギリースーツ(携帯偽装網)を装着し、射撃を行う狙撃手と、目標を発見し射撃の指示をする観測手の2名がチームとなって行動します。銃は対人狙撃銃(M24 SMS)のほか、89式小銃も使われています。使用する装備の中には民生品がそのまま採用されているものもあり、観測手のスポッティングスコープ用三脚などはその代表例。スリックやベルボンといった国産品や、イタリアのマンフロットなどが使われています。

     ギリースーツには、さらに周辺の植物を絡めて装着し、より違和感のない形にしていきます。人の形も判別しにくくしているので、ちょっと離れると素人目にはどこにいるか分かりません。それでも息を潜めて射撃し、撃ったら位置が特定されてしまうので、すぐに移動する必要があります。狙撃が成功してもその場を離れるまで、気は抜けません。



     その動きを評価する側もなかなか大変。しかしそこはプロ。ちゃんと狙撃手の位置を見極めているようです。訓練の前後には指導も入ります。



     航空自衛隊はアメリカ空軍のほか、韓国空軍とタイ空軍の部隊とともにF-2戦闘機を使った各種訓練を行います。空中戦の訓練ではアメリカ空軍の仮想敵(アグレッサー)飛行隊のほか、民間の訓練会社も仮想敵として訓練に参加しています。





     また、空中給油も三沢からアラスカまでの往復や、アラスカでの訓練中に日本のKC-767のほか、アメリカ空軍の空中給油機から受けています。それぞれ大きさが異なるので、接近する際の感覚も異なります。どの機種からも受けられるよう、訓練を重ねることでより任務時の選択肢が広がるわけです。


     そして航空自衛隊の「レッドフラッグ」と陸上自衛隊の「アークティック・オーロラ」が重なる訓練は、第401飛行隊のC-130Hを使用した第1空挺団の空挺降下訓練です。これはアメリカ陸軍部隊との合同。



     着地したら落下傘を小さくまとめ、89式小銃に銃剣を取り付けます。そして速やかに集合場所へと移動。個人装備を体の前後に装着したザックに満載しているため、この状態で歩くのはなかなかキツい訓練です。




     アラスカも遅い春を迎え、空挺降下訓練場はタンポポの花盛り。とはいえ、訓練中はのんびり花を見ているわけにはいきません。陸上自衛隊ではまだいませんが、アメリカ陸軍には女性の空挺隊員も在籍しており、今回の訓練にも参加しています。


     航空自衛隊と陸上部隊の訓練が重なる、もうひとつの要素は近接航空支援(CAS)。陸上部隊の火力支援を行う航空部隊に対し、地上から目標まで誘導する誘導員が連携する訓練が行われています。これにはアメリカ陸軍のほか、NATO加盟国からイギリス陸軍の人員も統合最終攻撃統制員(JTACS)として参加しています。



     この訓練では航空自衛隊のF-2のほか、アメリカ空軍のF-16とA-10が参加。地上からの誘導に従い、空からの火力支援の訓練を行なっています。

     合同訓練とあって、参加部隊間の親睦を深めるのも重要な要素。陸上自衛隊員の中には、参加の思い出としてともに訓練したアメリカ軍の人々のサインをもらう光景も見受けられました。このような交流を通じ相互間の理解を深めることで、共同で任務にあたる際にスムーズな現場での連携がとりやすくやるわけですね。


     航空自衛隊が参加した「レッドフラッグ・アラスカ」はすでに終了し、帰国の途につくところ。陸上自衛隊は今週末まで「アークティック・オーロラ」の訓練が続く予定となっています。

    <出典・引用>
    陸上自衛隊 プレスリリース
    航空自衛隊 プレスリリース
    アメリカ空軍 プレスリリース
    Image:USAF/U.S.Army

    (咲村珠樹)

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