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日大芸術学部OB・OGが馴染みのラーメン屋&後輩たちを救済 「#五十三家おごってやるよ」がスタート

 新型コロナウイルスの影響で客足が鈍り、経営面でピンチになった学生街のラーメン店を救おうと、日大芸術学部の卒業生が「後輩たちにラーメンをおごる」ことで売上を上げようというユニークな救済プロジェクトを開始。発起人とお店にお話をうかがいました。

  •  話題となったお店は東京都練馬区、西武池袋線江古田駅前にあるラーメン店「五十三家(いそみや)」。2010年に開店した、都内の横浜家系ラーメン店でも評価の高い、知る人ぞ知る名店です。


     おいしいラーメンをリーズナブルに味わってほしいと、店主の五十嵐恵三さんはスープをはじめ、具材や味の決め手となる鶏油(チーユ)などを手作りしているにもかかわらず、ラーメン(並)を税込720円で提供。これは開店当時から消費税の税率アップ分しか値上げしていません。それに加え、ガス釜炊きのご飯を1杯無料でサービスしています。

     学生に人気なのも納得なのですが、カウンター6席のみという狭小店舗ということもあって利益が少なく、多くのお客さんが来店しないと採算は厳しくなってしまいます。そこへ新型コロナウイルスの流行に伴う「外出・外食の自粛」が直撃してしまったのです。

     ちょうど店舗を移転した際、予期せぬ設備投資が重なって経営面での体力が低下していただけでなく、店主である五十嵐さんの体調不良にも見舞われてギリギリの経営状態になっていたものですから、五十三家にとって新型コロナウイルスによる影響は甚大でした。そんな窮状をTwitter(@isomiya)でつぶやいたところ、学生時代に通っていた近くの日大芸術学部(日芸)卒業生が見つけ、これまでの恩返しも兼ねた救済プロジェクトを立ち上げたのです。

     プロジェクトの呼びかけ人となったのは、現在コンテンツプランナーをしている柏原平志朗さん(@kossori123)。周りの日芸OB・OGに声をかけ、3月24日のスタート時点で16万円を集めました。

     集まったお金を五十三家にカンパする……という形にしなかったのがユニークなところ。これは「先払いのラーメン代」ということにして、後輩である日芸の現役学生に「おごる」という形式をとったのです。名付けて「#五十三家おごってやるよ」。


     柏原さんにとって五十三家は、学生時代に通い詰めたお店。その苦境をTwitterで知り、力になりたいと思い立ったといいます。しかし「みんなで食べに行こう!」と呼びかけても影響力には限界があり、しかも社会人になって江古田を離れた今となっては、足を運ぶ回数にも限界があります。そこで、お金はあるけどお店に行く余裕のない卒業生有志がお金を出しあって代金を先払いし、お店には行ける現役生が、日芸の学生証を提示すれば五十三家の「らーめん(並)」を1杯無料で食べられるようにしたのです。

     代金は「先輩が先払い」しているので、そのプールしたお金が続く限り実施されます。店主の五十嵐さんによると、プロジェクトが柏原さんのTwitterアカウントで告知された3月24日、さっそく2名の現役学生が食べに来てくれたそうです。

     そして3月26日現在、さらにOB・OGからの「先払い金」はさらにプラスされ、なんと35万円に。プロジェクトを知った卒業生が、次々と柏原さんのTwitterアカウント(@kossori123)に協力を申し出ているそうです。

     柏原さんからこのアイデアを聞かされた際、店主の五十嵐さんは正直、半信半疑だったとか。しかし、多くの人が「五十三家がなくなっては困るんです」と言ってくれたことで「自分がおいしいと思うラーメンを一生懸命作ってきた思いが、お客さんに伝わっていたんですね」と感激の面持ちでした。

     日芸の学生証を提示してくれた学生に提供されるというラーメン(並)は、長時間炊かれて旨味やコラーゲンが溶け込んだ豚骨スープに醤油ダレ、具はチャーシュー、ホウレンソウ、海苔という横浜家系ラーメンの基本を踏まえ、さらに自家製の鶏油(チーユ)がアクセント。麺は正統派家系の流れを汲む店にしか卸していないという、酒井製麺のものです。


     スープはどっしりとした豚骨の旨味に、熟成された醤油ダレが調和。そこに、調理経験を生かして香りづけされた鶏油がまろやかに味をまとめていきます。もちもちの中太麺は、独特のコシとともに小麦の旨味がじんわり。お腹が幸せになる味でした。

     この「#五十三家おごってやるよ」は、寄付ではなく「代金の先払い」のため、店にとっては通常の売上金になるうえ、ちゃんとラーメンを食べてくれる人がいるというのが大きな特長。今回のコロナ騒動では、学生たちもアルバイトが減るなどそれなりの影響をうけています。

     学生にとっては無料でラーメンを食べられ、お店は通常の売上となり、出資した卒業生たちは五十三家への恩返しになる……という「三方よし」のサイクルです。

     柏原さんは「この企画に参加してラーメンを奢られた後輩達も、楽しみながらSNSにシェアしてくれたら嬉しいですね」と語り、おごられた分は、またその後輩におごることで輪を広げてほしいとのこと。

     なお、「日芸OB・OGが五十三家おごってやるよ」の該当者は、「#五十三家おごってやるよ」のハッシュタグをつけてSNSに投稿し、その画面をお店で見せると追加で味玉110円が1個サービスされるそうです。味玉つきが今回見出しの写真のもの。ラーメン(並)には本来ついていませんのでご注意を。

     日芸の学生にとって大切な五十三家で、卒業生たちが現役学生のために「おごる」お金を先払いしておく、というこのシステム。江古田の新たな学生文化として定着すると面白そうです。

    <記事化協力>
    横浜家系ラーメン 五十三家(@isomiya)
    かしわばら(@kossori123)さん

    (取材・撮影:咲村珠樹)

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