庵野秀明監督の「シン・ウルトラマン」が劇場公開され、怪獣映画への注目が再び集まる中、とある自主制作怪獣映画のプロジェクトが進んでいます。
監督は、2021年の第18回全国自主怪獣映画選手権で優勝した「海鳴りのとき」の佐藤高成さん。その制作資金を募集するクラウドファンディングが、5月20日よりCAMPFIREで始まっています。
庵野監督も学生・アマチュア時代に携わるなど、自主制作の怪獣映画はプロの映像作家が生まれる土壌として大きな役割を果たしてきました。アイデアと技術で非現実的なシチュエーションを映像化する特撮は、見るものの心をワクワクさせてくれます。
佐藤高成さんは、庵野監督が通っていた大阪芸術大学で、映像制作を学んでいる学生。2021年に制作した「海鳴りのとき」は、初めての怪獣映画だったにも関わらず、ストーリーと特撮を含む映像表現が評価され、第18回の「全国自主怪獣映画選手権」で優勝作に選ばれました。
受賞後初の作品として制作されるのが、今回クラウドファンディングを実施する「失われた夜に」。前作の反省点、改善点を克服し、さらに楽しめる作品にするべくエンタメ性をより重視した作品作りをテーマに掲げています。
作品について、佐藤さんにうかがうと「今作のモットーは『アイデア全放出』です!」とのこと。
「前作『海鳴りのとき』は怪獣が1体のみの描写でしたが、今作は2体のバトル構図にしていて、幼少期からウルトラ作品に強い思い入れのあった私にとって、今回こそ本番という意気込みでいます」と、ひとかたならぬ思いを打ち明けてくれました。
今作は、佐藤さんの大学における卒業制作という一面ももっています。「海鳴りのとき」では学生の身分で出せるお金を持ち寄り、総制作費は50万円ほど。特撮は造形など費用がかかりがちですが、アイデアで切り抜け「相当に抑え抑えて」完成させたのだとか。
資金調達に苦労したこともあり「卒制は規模を抑えた低予算特撮に変更する案も」あったといいます。しかし、それを覆したのは「海鳴りのとき」に寄せられた大きな反響でした。
「前作を超えた物語を作らなければいけないというスタッフの総意から、よりスケールアップした物語をクラウドファンディングを活用しながら実現できないかという方針になりました」と方針を転換。妥協せず、より良い作品を作り上げようと思いを新たにしたそうです。
自主怪獣映画「失われた夜に」は、多くの人に楽しんでもらえるような王道エンタメ作品を目指すといいます。家出した中学生を主人公に、公園で出会った「宇宙人」を名乗る女性との交流を通じ、怪獣と「謎の巨人」との戦いを描きます。
あらすじは次の通り。家出し、行き場を無くした中学生の高岸誠二は、公園で「宇宙人」を名乗るお姉さんに拾われます。彼女との交流の中で荒んだ心を癒やしていく誠二でしたが、ある時お姉さんが大事にしていた「箱」を持ち出してしまいました。
何かに誘われるように、箱を開いた誠二。中には巨大怪獣ペエルキウスの心臓が封じられており、箱を開けたことで怪獣が復活し、街を襲いはじめます。
ペエルキウスの出現により、街は破壊と大混乱に見舞われます。誠二の身にも危険が及びますが、彼をかばうように突如謎の巨人が現れ、怪獣と戦いを繰り広げていくのでした。
クラウドファンディングの目標金額は150万円で、集まった資金は主に特撮で使用する造形物などの費用と、プロの役者さんに出演してもらうための費用に充当されます。特に今回、怪獣と巨人2体の着ぐるみが必要となるため、ミニチュアや美術、機材と合わせて大きな金額が必要です。
リターンについては、エンディングに希望する名前がクレジットされる(1000円)ものから、本編映像(1万円)、怪獣ペエルキウス頭部型抜き模型(10万円)、撮影に使用した着ぐるみ本体(50万円:ペエルキウス、巨人の各先着1名のみ)など、金額に応じて様々。
なお、このプロジェクトはAll-In方式となっており、目標金額に届かなくても全額がファンディングされて制作予算に組み込まれます。
佐藤さんは「夜の大都市で怪獣と巨人が繰り広げる激闘と、1人の少年の成長劇に是非ともご期待いただければと思います」とのメッセージも寄せてくれました。
前作「海鳴りのとき」とは違い、現在のところネットでの一般公開は考えていないとのことですが、映画祭に出品する計画があるそうです。「すべてはクラウドファンディングの結果にかかっていますが、大きなスクリーンでご覧いただける日が来るかもしれません」という本プロジェクトは、CAMPFIREで公開されています。
<記事化協力>
佐藤高成さん(@deletoku)
(咲村珠樹)