おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

記憶だけで再現 老整備士が作るトヨタ車エンジンのペーパークラフト

 長年自動車整備士として働いてきた方が、現役時代を思い出しながら作ったトヨタ車エンジンのペーパークラフト。図面も作らず仕上げたその細かい造作が、Twitterで注目を集めています。

  •  細かい部分まで再現されたトヨタ・M型エンジンのペーパークラフトを作ったのは、Twitterユーザー「やんぞー」さんのお祖父様。長年、親族が経営するトヨタ系の一般自動車整備工場で整備士として働いていたそうです。

     トヨタのM型エンジンは1965年、2代目クラウン(MS40型)に搭載されてデビューした直列6気筒エンジン。トヨタ初のSOHCエンジンで、それまでのR型4気筒エンジンに比べ、スムーズな吹き上がりと6気筒由来の少ない振動で好評を博し、トヨタの主力エンジンとして1990年代まで生産されました。

     当初は2000cc級エンジンとして設計されましたが、ボア(シリンダー内径)とストローク(ピストン行程長)が順次拡大され、最終的には3000ccのDOHCターボ(7M-GTEU)となって初代スープラ(北米では3代目/MA70型)にまで搭載されたM型エンジン。ペーパークラフトとして作られたのは、その最初期型の「M」エンジンです。

     お孫さんであるやんぞーさんにうかがうと、材料はたばこの空箱など身の回りにあるものだそうで、塗装も油性ペンで塗っているだけとのこと。作るにあたっての設計図やスケッチも用意せず、ただ自身の記憶を頼りに作り上げているのだとか。

     そのディティールの緻密さは、外見ばかりではありません。タイミングベルトなどを外したシリンダーブロックを見ると、カムを駆動するチェーンやディストリビュータのスイッチ部分も再現。そのほかの補機類もしっかり再現されています。

    シリンダーブロックと補機類(やんぞーさん提供)

     シリンダーヘッドの部分を見てみると、キャブレターの載ったインテークマニホールドから一方通行でエキゾーストマニホールドに抜けていく、クロスフローバルブ設計の様子がよく分かります。ペントルーフ型の燃焼室周りや、ガスケットの入る穴もしっかり再現。

    シリンダーヘッド部分のアップ(やんぞーさん提供)

     圧巻なのはシリンダーヘッドのカバーを外した部分の造作。6気筒分のバルブを動かすロッカーアームが軸に切ってあるほか、スパークプラグやキャブレターのチョークプレートまで細かく再現されています。

    細かく再現されたロッカーアーム(やんぞーさん提供)

     これを「記憶」だけで再現してしまうことに驚きを隠せません。きっと毎日のように、数限りないエンジンをバラして調整する作業を続けてきたからこそ、資料を参照しなくても作れてしまうのでしょうね。

     お祖父様の家には、このようにして作ったエンジンやトランスミッションのペーパークラフトが20個〜30個はあるといいます。その中でお気に入りは「多分、パブリカ※の模型だと思います」とやんぞーさん。
    ※トヨタ・パブリカ。「国民の車(Public Car)」から命名されたトヨタのボトムラインを1961年~1977年に担った車種。

    無造作におかれたペーパークラフト(やんぞーさん提供)

     ペーパークラフトを作るにあたり、お祖父様は「自分が触ったことのないエンジンとかは作れん」とおっしゃっているのだとか。自分の体が覚えている機械の肌触りを大切にされているところ、自動車整備士としての矜持を感じます。

    すべてのエンジンは「自分でバラして整備したもの」だという(やんぞーさん提供)

     最近は目が悪くなったり手が震えるようになったりしてきたので、このような細かいペーパークラフトを作るのは難しくなったのだそう。それでも、これまで作ってきた作品たちは、お祖父様の整備士人生を雄弁に物語っています。

    https://twitter.com/lawbreak2911234/status/1557665501123575815

    <記事化協力>
    やんぞーさん(@lawbreak2911234)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 「魔法みたい」額縁の中で走り続ける電車 精巧なジオラマに10万いいね
    インターネット, おもしろ

    「魔法みたい」額縁の中で走り続ける電車 精巧なジオラマに10万いいね

  • アルファードなど対象に「抱き合わせ販売」 トヨタモビリティ東京に公取委が警告
    インターネット, 社会・物議

    アルファードなど対象に「抱き合わせ販売」 トヨタモビリティ東京に公取委が警告

  • ネコ型配膳ロボットのおもちゃをデコトラ風に改造 「演歌流れてそう」の声
    インターネット, おもしろ

    ネコ型配膳ロボットのおもちゃをデコトラ風に改造 「演歌流れてそう」の声

  • トヨタ、投稿動画めぐり謝罪と改善発表 “ずんだもんへの愛が足りなかった”
    企業・サービス, 経済

    トヨタ、投稿動画めぐり謝罪と改善発表 “ずんだもんへの愛が足りなかった”

  • 画像提供:サカモト(美大生さん(@saka_w_saka)
    インターネット, おもしろ

    食べ終わったハンバーガーの包み紙がアートに!美大生の感性がすごい

  • まさしく紙ワザ!100均の折り紙と画用紙で作ったインコが本物にしか見えない
    インターネット, びっくり・驚き

    まさしく紙ワザ!100均の折り紙と画用紙で作ったインコが本物にしか見えない

  • 「ファミコン四十年生」付録のペーパークラフト「実物大ファミコン」作ってみた
    ゲーム, ニュース・話題

    「ファミコン四十年生」付録のペーパークラフト「実物大ファミコン」作ってみた

  • 画像提供:現代美術二等兵ふじわらかつひとさん(@f2touhey)
    インターネット, おもしろ

    「富士山ローソン」を自由に撮れる解決策 笑いも交えたアイデアが素晴らしい

  • 猫型配膳ロボット「ベラボット」のペーパークラフト
    インターネット

    猫型配膳ロボット「ベラボット」のペーパークラフトに挑戦 大人でもかかった時間はな…

  • 画像提供:くまこう(模型)さん(@kumakou_model)
    インターネット, おもしろ

    マンション好きすぎてマンション模型を量産 これまで作った数は約100棟!

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 「シテの花」作者が続報投稿 前担当の不備めぐり編集部と協議、認識を整理
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    「シテの花」作者が続報投稿 前担当の不備めぐり編集部と協議、認識を整理

  • 松山ケンイチ「誰も傷つけない悪口選手権」を開始 SNS時代に投げかける新たな試み
    エンタメ, 芸能人

    松山ケンイチ「誰も傷つけない悪口選手権」を開始 SNS時代に投げかける新たな試み…

  • 悔しさと葛藤を語った「シテの花」作者 掲載順問題が大きな反響呼ぶ
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    悔しさと葛藤を語った「シテの花」作者 掲載順問題が大きな反響呼ぶ

  • 11月17日からの平日限定で、「かっぱの挑戦 感謝祭」をスタート
    イベント・キャンペーン, 経済

    かっぱ寿司、おにぎりとかけうどんが平日限定で各82円に 「かっぱの挑戦 感謝祭」…

  • 「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる
    エンタメ, 映画

    「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる

  • ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設
    企業・サービス, 経済

    ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

  • トピックス

    1. 汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      屋内と屋外で寒暖差が大きく、着る服に悩みがちなこの季節、SNS上で「エアリズムの上にヒートテックを着…
    2. 「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      2025年11月12日午前7時に配信された「State of Play 日本」にて、「ドラゴンクエス…
    3. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…

    編集部おすすめ

    1. 「シテの花」作者が続報投稿 前担当の不備めぐり編集部と協議、認識を整理

      「シテの花」作者が続報投稿 前担当の不備めぐり編集部と協議、認識を整理

      小学館「週刊少年サンデー」で連載中の漫画「シテの花 -能楽師・葉賀琥太朗の咲き方-」の作者・壱原ちぐささんが11月18日18時、新たな投稿を…
    2. 松山ケンイチ「誰も傷つけない悪口選手権」を開始 SNS時代に投げかける新たな試み

      松山ケンイチ「誰も傷つけない悪口選手権」を開始 SNS時代に投げかける新たな試み

      俳優の松山ケンイチさんが11月17日、自身のXアカウント「松山ケンイチ(@K_Matsuyama2023)」でユーモア企画「誰も傷つけない悪…
    3. 悔しさと葛藤を語った「シテの花」作者 掲載順問題が大きな反響呼ぶ

      悔しさと葛藤を語った「シテの花」作者 掲載順問題が大きな反響呼ぶ

      小学館「週刊少年サンデー」で連載中の漫画「シテの花 -能楽師・葉賀琥太朗の咲き方-」の作者・壱原ちぐささんが11月17日、作品の掲載順に関す…
    4. 今年もやってきた“本番環境の事故録” Qiitaの「やらかしアドベントカレンダー2025」開幕

      本番環境などでの失敗談が集結 Qiitaの「やらかしアドベントカレンダー2025」開幕

      稼働中のサーバーでの作業ミスによるトラブルの顛末をつづる「本番環境などでやらかしちゃった人 Advent Calendar 2025」が12…
    5. 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      頭をぐりぐり動かしながら、床の上を滑っていく1匹のワンちゃん。飼い主さんが「モップ機能つき生ルンバ」と呼ぶビションフリーゼ・せとくんの動画が…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト