将来の夢として、イラストレーターや漫画家など、クリエーターに憧れる人は少なくありません。夢を実現しようと努力していく際、陥りがちなのが「人前に発表するのはもっと実力をつけてから」という考え方。
それに対し、自分の中にハードルを作って機会をうかがうより、まずは発表してみることだ、と自身の経験を語るイラストレーターのツイートが反響を呼んでいます。
このツイートをしたのは、ポケモンカードのイラストレーターをしている、さいとうなおきさん。動画でイラスト制作に関する様々なテクニックやヒントを提供する、YouTuberとしての顔も持っています。
30歳からキャラクター絵師を目指し、3か月で転身したという経歴を持つさいとうさん。「表現」という世界で生きていくことについて、Twitterで次のように語りました。
「真面目な話、本当は下手くそなのに自分の絵は最低限のレベルに達しているどころか、天才級だと信じ込んで発表を続けた勘違い野郎の僕はこうして何とか生き残ってますが、空気を読み、身の程をわきまえ、一流になるまで発表を控えた仲間達は、いつのまにか消えてきました。表現ってそういう世界です」
表現という世界で生きていくには、まず「自分はここにいる」という旗を立てなければ、世間から気づいてもらえません。その旗とは何か。具体的に表現すると「自分の作品」です。それを見てもらわなければ、誰にも認知されないのです。
■ まずは作品を発表していくことが重要
さいとうさんは「徒然草」の「能をつかんとする人(第150段)」をひきながら、まず一歩踏み出すことの重要性を説きつつ、様々な優れた作品を目にしやすくなり、誰もが無遠慮に批評してくるSNSの現状は、素人が作品を発表するのをためらいやすいかもしれない、と分析しています。
「ただ、僕はそういう風潮に、負けたくはないんです。そういう世の中にあっても、身の程をわきまえずに、発信し続けるクリエーターがやっぱり強いんだ!まずは自分を表現しよう!そして発表し続けよう!!それがきっと、貴方の道を切り開く事になるはずだ!!そういうことを、経験的に訴えたかったんだと思います」
さいとうさん自身についておうかがいすると、ツイートでもあったように、自分の作品を発表し続けたと語ってくれました。
「具体的にはホームページ制作でした。今はSNS全盛ですが、当時はホームページで自分の作品を発表することが新しい事でしたから、ホームページで絵を発表することに力を注いでいました」
自分のサイトで作品を発表し続けたことで、見る人の目にとまり、プロとしてのきっかけを掴んだのだそうです。同時に、周りにいた同じような立場の仲間たちは、完璧な作品を作ろうと自分の中でハードルを上げていき、それがいつしか「越えられない壁」になってしまって道を諦めてしまう、ということもあったようです。
■ 発表へのハードルは上げすぎないこと
自分に課題を課し、それを乗り越えることで実力がついていく、というのも事実。しかし、あまりにも高いハードルを設定してしまうと、せっかく手にした「創作の楽しさ」を見失ってしまうかもしれません。
行き詰まりそうな問題に直面した際、さいとうさんは「活動を続ける」というクリエーターとしての軸を大事にするため、あえて逃げることもあるといいます。
「ある越えられない壁があって、そこにぶち当たって折れてしまうぐらいなら、あえてぶち当たらずに楽しく続けていける道を選ぶ。そういう選択肢は物作りをする人にとって意外と大事です」
ものづくりにおいて、全部の過程が楽しいとは限りませんが、続けていくためには「呼吸や食事をするように」作品を作れる状態がベストといえるでしょう。悩みについても、自分はダメだと責めるよりも、別の道や方法を試す好奇心からくる悩みの方が、楽しく感じられるかもしれません。
さいとうさんは、完璧主義者ほど「発表やプロジェクト実現までのハードル」を高くしてしまい、日の目を見ないで終わるようだ、とご自身が見聞きした経験から語ってくれました。また、不完全な状態でも早く人々の目にさらし、様々な意見を聞きながらブラッシュアップした方が完成にこぎつけやすいようだ、とも。
「よく見かける100日チャレンジのような企画にも同じイズムを感じます。どうなるかは分からないけど、とりあえず一歩目から衆目にさらしていく姿勢はとても素晴らしいです」
■ まずは一歩踏み出してみよう
これからクリエーターを夢見て作品を発表したいけれど、なかなか一歩目が踏み出せない人に向け、さいとうさんからのアドバイスをうかがうと、誰でも「発表」というものは恐い、と前置きした上で、次のように語ってくれました。
「『自分はこういう事がイイと思ってるんだ』と同意を求め、それを無視されたり、否定されたりする恐怖は、多分プロになってもさほど変わることはありません。
でも、逆に言えば『それだけが最大のハードル』とも言える気がします。天賦の才に恵まれまくった訳じゃないぼくが、作品を発表しつづけたことで、まだここに立っていることが一番の証明でしょう。勇気を出して、まずは一歩踏み出してみてください。あなたなら出来ます。応援しています」
元はといえばこの記事も、さいとうさんのツイートを目にした筆者が、ご本人に「記事にさせてください」とアプローチしなければ生まれませんでした。返ってくる反応を過度に恐れず、まずは外に出してみること。それが新しい何かを生み出してくれるものだと思います。
さいとうさんのYouTubeチャンネルには、イラスト制作の基礎力を高めるレッスンから、より実力を向上させたい人に向けてのテクニック解説まで、様々な動画が公開されています。こちらを参考にして腕を磨きつつ、作品を発表していくのも一つの方法かもしれません。
真面目な話、本当は下手くそなのに自分の絵は最低限のレベルに達しているどころか、天才級だと信じ込んで発表を続けた勘違い野郎の僕はこうして何とか生き残ってますが、空気を読み、身の程をわきまえ、一流になるまで発表を控えた仲間達は、いつのまにか消えてきました。表現ってそういう世界です🍀
— さいとう なおき🍀 (@_NaokiSaito) October 29, 2022
<記事化協力>
さいとうなおきさん(@_NaokiSaito)
(咲村珠樹)