皆さん、こんにちは。本連載「新作アニメ捜査網」では今まで3回に亘って2010年のアニメを振り返り、優れた作品や人物を表彰してまいりましたが、今回で、2010年のアニメを振り返る企画は最後となります。今回は、各作品を個別に振り返るというよりも、作品を横断する形で2010年のアニメ界の動きを俯瞰し、その特徴を指摘したいと思います。全部で6個の項目に分けて論評致しますので、宜しくお付き合い戴ければ幸いです。
2010年のアニメ界の特徴として、映画が大量に公開されたことが挙げられます。
2010年に公開されたアニメ映画は以下の通り。
秘密結社鷹の爪 THE MOVIE3 〜https://鷹の爪.jpは永遠に〜 |
10thアニバーサリー劇場版 遊☆戯☆王 〜超融合!時空を越えた絆〜 |
Fate/stay night Unlimited Blade Works |
魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st |
涼宮ハルヒの消失 |
超劇場版 ケロロ軍曹 誕生!究極ケロロ奇跡の時空島であります!! |
超電影版SDガンダム三国伝 Brave Battle Warriors (上記作品の併映) |
イヴの時間 劇場版 |
映画 ドラえもん のび太の人魚大海戦 |
東のエデン 劇場版 II Paradise Lost |
プリキュアオールスターズ DX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ! |
映画 クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁 |
名探偵コナン 天空の難破船(ロスト・シップ) |
劇場版 TRIGUN -Badlands Rumble- |
劇場版 銀魂 新訳紅桜篇 |
いばらの王 ‐King of Thorn‐ |
劇場版“文学少女” |
ブレイクブレイド 第一章 覚醒ノ刻 |
銀幕ヘタリア Axis Powers Paint it, White(白くぬれ!) |
宇宙ショーへようこそ |
ブレイクブレイド 第二章 訣別ノ路 |
劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール 幻影の覇者Z |
それいけ!アンパンマン ブラックノーズと魔法の歌 |
借りぐらしのアリエッティ |
劇場版NARUTO -ナルト- 疾風伝 ザ・ロストタワー |
昆虫物語みつばちハッチ〜勇気のメロディ〜 |
カラフル |
劇場版メタルファイト ベイブレード VS太陽 灼熱の侵略者ソルブレイズ |
海からの使者 |
ルー=ガルー |
ジュノー |
こわれかけのオルゴール |
劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer- |
劇場版 ブレイク ブレイド 第三章 凶刃ノ痕 |
REDLINE |
おまえうまそうだな |
とびだす絵本3D |
劇場版 ブレイク ブレイド 第四章 惨禍ノ地 |
映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!? |
マルドゥック・スクランブル 圧縮 |
劇場版3Dあたしンち 情熱のちょ〜超能力♪母大暴走! |
劇場版BLEACH 地獄篇 |
装甲騎兵ボトムズ Case;IRVINE |
ボトムズファインダー |
蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH |
これらのアニメ映画は、主に3種類に分類できると思います。
(1)子供向けテレビアニメの劇場版
『ドラえもん』『アンパンマン』『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』『ポケモン』『プリキュア』等がこれに該当します。
この手のアニメ映画は東映まんがまつりや東宝チャンピオンまつりから続く日本アニメ界の伝統ですので、2010年特有の現象ではありません。
(2)ファミリー向けのアニメ映画
『借りぐらしのアリエッティ』『カラフル』『おまえうまそうだな』『ジュノー』等がこれに当てはまると思います。
このようなアニメ映画も、2010年特有の現象ではありません。
(3)ヲタク向けアニメ映画
この手の映画が量産されたことが、2010年のアニメ映画界最大の特徴です。
ヲタク向けアニメ映画でも、『魔法少女リリカルなのは』(テレビアニメ版は2004年)『Fate/stay night』(テレビアニメ版は2006年)『涼宮ハルヒの消失』(テレビアニメ版は2006年)『トライガン』(テレビアニメ版は1998年)『蒼穹のファフナー』(テレビアニメ版は2004年)のようにテレビアニメを映画化(UHFアニメの映画化も目立つ)したものと、『いばらの王』『文学少女』『ルー=ガルー』のようにテレビアニメの映画化ではないものの2種類に分けられますが、いずれにしても、単館系または小規模上映の映画が多いことが共通しています。
2010年に制作が発表されたヲタク向けアニメ映画も『けいおん!』『戦国BASARA』『ストライクウィッチーズ』『そらのおとしもの』等があり、ヲタク向けアニメ映画の制作ラッシュとなっています。
このようなヲタク向けアニメ映画ラッシュは、後述する現象とセットになっているのですが、ヲタク向けアニメ映画が量産された理由として、映画館でのグッズ売り上げや劇場公開作品としての箔付け等の点で、小規模公開はコストパフォーマンスが優れていると製作委員会が判断しているものと推測されます。
上映時間が1時間程度の中篇映画が量産されたことも特徴です。
商売上の手法としては、リピーターキャンペーンを実施して1人の客に何度も足を運ばせ、興行収入を増やすという商法も盛んに行われました。
以下、参考までに主な映画の上映時間とロードショー時の上映館数を記しておきます。
<上映時間>
涼宮ハルヒの消失 | 163分 |
宇宙ショーへようこそ | 136分 |
魔法少女リリカルなのは | 130分 |
カラフル | 127分 |
機動戦士ガンダム00 | 120分 |
いばらの王 | 109分 |
Fate/stay night | 107分 |
イヴの時間 | 106分 |
文学少女 | 103分 |
REDLINE | 102分 |
ルー=ガルー | 99分 |
借りぐらしのアリエッティ | 94分 |
東のエデンII | 92分 |
トライガン | 90分 |
蒼穹のファフナー | 88分 |
ヘタリア | 82分 |
マルドゥック・スクランブル圧縮 | 65分 |
ブレイクブレイド第一章 装甲騎兵ボトムズCase;IRVINE | 50分 |
こわれかけのオルゴール | 42分 |
<ロードショー時の上映館数>
借りぐらしのアリエッティ | 447館 |
カラフル | 104館 |
機動戦士ガンダム00 | 88館 |
REDLINE | 56館 |
涼宮ハルヒの消失 | 24館 |
宇宙ショーへようこそ | 21館 |
魔法少女リリカルなのは | 19館 |
ルー=ガルー | 18館 |
いばらの王 | 17館 |
東のエデンII | 15館 |
文学少女 Fate/stay night | 12館 |
トライガン ヘタリア 蒼穹のファフナー | 10館 |
ブレイクブレイド第一章 マルドゥック・スクランブル圧縮 装甲騎兵ボトムズCase;IRVINE | 5館 |
イヴの時間 こわれかけのオルゴール | 2館 |
アニメ映画の異常な公開ラッシュと対をなしている現象が、上半期におけるテレビアニメ放送本数の減少です。
テレビアニメ放送本数は2006年に頂点に達しその後は一貫して減少し続けています
2010年第1クールは、地上波新作深夜アニメ放送本数が激減しています。
新作UHFアニメが3本、前期からの継続となったUHFアニメが2本で計5本という2005年第2クール以来の少なさを記録。
そして何と言っても視聴者に衝撃を与えたのは、古くは2003年の『ダ・カーポ』に端を発し2006年第2クールの『ひまわりっ!』から枠が定まったスターチャイルド枠(千葉テレビ放送日曜深夜11時半、テレビ神奈川土曜深夜12時半、テレビ埼玉日曜深夜1時、東京メトロポリタンテレビジョン月曜深夜1時半)と、2005年第4クールの『Canvas2 ~虹色のスケッチ~』から続く角川書店枠(千葉テレビ放送日曜深夜12時、テレビ神奈川月曜深夜1時15分、テレビ埼玉日曜深夜1時半、東京メトロポリタンテレビジョン水曜深夜1時半)が消滅したこと、そして古くは2003年の『一騎当千』に端を発し2006年第3クールの『ゼロの使い魔』から枠が定まったメディアファクトリー枠(いわゆるチバ重役枠。千葉テレビ放送日曜深夜12時半、テレビ神奈川日曜深夜1時半、テレビ埼玉金曜深夜1時半、東京メトロポリタンテレビジョン火曜深夜1時半)の一部局での放送時間帯が変更されたことです。
UHFアニメ界において伝統を持った3つの枠が一度に解体されたことは、2010年のテレビアニメの衰退ぶりを視聴者に強く印象付けました。
更に2010年第1クールは成人向けゲームを原作とした地上波新作テレビアニメの放送本数が0本という2004年第2クール以来の異常事態も発生しており、文字通りアニメ冬の時代でした(但し成人向けゲームを原作としたアニメ映画が2本公開されているので、テレビから映画に発表の場を移したとも考えられる)。
2010年第1クールのキー局の新作深夜アニメは、2009年第4クールと比較すると変わっていないものの、2009年第3クールとの比較で見れば、日本テレビ1減、TBSテレビ1減、フジテレビ1減、テレビ東京1減。2009年第3クール~第4クールには新作UHFアニメが14本ありました(『ファイト一発!充電ちゃん!!』含む)から、キー局・U局合わせて半年で13本も減ってしまったということです。
2010年第2クールの地上波新作深夜アニメ放送本数は、UHFアニメ放送本数が4増(東京基準)。キー局も、フジテレビが「ノイタミナ」枠を1時間に拡大して1増、TBSも2増。一方でテレビ東京が2減となりました。
2010年第3クールはUHFアニメが1増(東京基準)、キー局はフジテレビが1減、TBSテレビが1減。
2010年第4クールはUHFアニメが2増で計12本(東京基準)、キー局のテレビ東京が5増と往年の勢いを取り戻しました。そしてフジテレビが1増、TBSテレビが1減、日本テレビが1減。
2009年第4クールから2010年第1クールにかけて各局とも新作深夜アニメ放送本数を減らし、その後、UHFアニメとテレビ東京アニメは復活したと言えるでしょう。
<アニメ増減表>
UHF | 日テレ | TBS | フジ | テレ東 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
2009年第3クール→2010年第1クール | -9 | -1 | -1 | -1 | -1 | -13 |
2010年第1クール→2010年第2クール | 4 | 2 | 1 | -2 | 5 | |
2010年第2クール→2010年第3クール | 1 | -1 | -1 | -1 | ||
2010年第2クール→2010年第3クール | 2 | -1 | -1 | 1 | 5 | 6 |
計 | -2 | -2 | -1 | 0 | 2 | -3 |
ツイッターは、政治やビジネスの世界で活用する人が現れましたが、アニメ関連企業もまた宣伝の方法として積極的に利用しています。
アニメ関連企業は、既存のホームページとツイッターを併用することで、宣伝によりリアルタイム性を持たせることで活用しています。
新商品や新企画等を発表する際、詳細はホームページに記述しますが、“新しい情報がある”ということを伝播するためにツイッターを利用するのです。
テレビコマーシャルで「続きはWEBで!」と宣伝する手法は数年前から多用されていますが、ツイッターを利用した宣伝手法は、いわばWEB上で「続きはWEBで!」と言っているようなものだと言ってよいでしょう。
ホームページは、消費者が自ら閲覧しようと思わなければ見てもらえませんが、ツイッターの場合、その企業に関心を持った消費者がフォローすれば、企業は自動的に消費者に更新情報を送ることができるので、宣伝には好都合であると言えます。
しかし、ツイッターのタイムライン上は大量のツイートが流れていくので、消費者が企業の更新情報を見逃す可能性も高く、そういう観点からすると、企業としてはメールマガジンの配信による新着情報の告知の方が確実であると言えるでしょう。
一般的に言って、ツイッターの文章は短く、メールマガジンは長い。
そんな中、新着情報の見出しとリンクだけを本文に記すという、“ツイッター文法”とも言うべき文が記されたメールマガジンがアスキー・メディアワークスの「日刊電撃オンライン」であります。
尚、メールマガジンにはないツイッターの利点としては、ファンがリツイートによって企業の新着情報を自発的に拡散してくれる可能性がある、という点も挙げられます。
ツイッターアカウントは、宣伝の手法としてだけではなく、問い合わせの窓口として機能している場合もあります。
普通、企業は消費者からの問い合わせに答えるために専用の電話番号やメールフォームを用意していますが、ツイッター上で質問する消費者も多く、企業側もツイッターで返答する光景が最近ではよく見られます。
個人的には、ツイッターを問い合わせ窓口として使うよりは、専用の電話番号やメールフォームを使った方が確実だと思いますが。
ツイッターを見ていて私が心配なのは、企業の従業員が夜中の1時とか2時とか3時とかでもツイッターに書き込み、労働時間が長時間に亘っていることです。
尤も、あの業界の皆さんはツイッターがあろうがなかろうが労働時間が不規則かもしれませんね。
以上、アニメ関連企業によるツイッター上の宣伝手法を見てまいりましたが、上記のような手法はいわば正攻法であり、この他に、アニメ業界ならではと言えるツイッター上の宣伝手法があります。
それは、架空のアニメキャラクターのアカウントを取得し、恰もアニメキャラクターが現実世界で活動しているかのように振る舞う手法です。
これなら、露骨な宣伝という空気を薄め、純粋に読み物として楽しめるコンテンツという体裁も整えることができるので、その作品に関心を持つ消費者に読んでもらえる可能性がより高まる可能性があります。
更に、作品によってはアニメキャラクターに返事を貰えることもあり、“アニメキャラクターと会話できる”というファンにとっては喜ばしい状況を生みました。
2010年に登場キャラクターがツイッター上で活動した主な作品は、『聖痕のクェイサー』『迷い猫オーバーラン!』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『そらのおとしものフォルテ』等。
このうち、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は高坂桐乃と黒猫がツイッター上で会話するという形をとりましたが、テレビアニメ本篇で喧嘩している割にツイッター上では相手を褒めるなどの友好的態度をとっているのが意外でした。
『そらのおとしものフォルテ』では、イカロスが画像をアップロードしたり、エンディング主題歌当てクイズを実施したりして、単なる読み物以上に読者を楽しませました。
エンディング主題歌当てクイズでは、イカロスがヒントを出すのですが、そのヒントに該当する歌が何曲も思い浮かんでしまい、どれに絞るか悩んだものです。
ツイッターというものは、上記のように企業側が書き込んで宣伝するという形態の他に、消費者の書き込みも宣伝になり得ます。
映画『イヴの時間』『東のエデンⅡ』の舞台挨拶では司会者が作品の感想をツイッターに書き込むよう呼びかけたり、『宇宙ショーへようこそ』の公式ツイッターアカウントがリツイートを呼びかけたりしていました。
ブログではなくツイッターへの書き込みを呼びかけるのが今時の流行であったと言えましょう。
以上のように、アニメ関連企業は積極的にツイッターを宣伝に利用したのですが、企業によるアカウントの他に、スタッフや芸能人による個人アカウントも開設されました。
スタッフや芸能人は、ツイッターのみならず個人ブログやミクシィ等でも積極的に情報を発信しています。業界人がこのようなサイトを利用することによって、消費者にとっては遠くの世界の住人のようだった業界人を、消費者の身近にいる人へと変え、親しみ易さを増すことに成功しています。
人にもよりますが、消費者が個人的に業界人に質問し、業界人が個別に回答することもあり得ます。しかしこのようなサイトには功罪があります。
この手のサイトは、公共空間に存在するにも拘らず、恰も個人的な日記帳であるかの如く気軽に書き込めるため、公私混同が発生しています。
書き込みが公衆の面前に晒されるにも拘わらず、それをよく自覚せずに個人的な書き込みをする業界人が後を絶たないのです。
別に個人的な書き込みがいけないと言っている訳ではありません。
問題は、公衆の面前に晒すのが憚られるようなことを平気で書き込む業界人が次々と現れることです。本稿で個別の事例を挙げることは控えますが、業界人が企業等の固有名詞の実名を挙げて罵倒するのを、私は2010年に10件近く見ました。
仕事上の不満を抱えているのは分かるし、愚痴をこぼしたいと思う気持ちも理解できます。しかし、それについて実名を出して公衆の面前で堂々と公表するのは如何なものか、と思います。
この他にも、アニメ関係者がツイッターやブログ等のサイトで、悪意はないものの、未公表の情報をうっかりポロッと漏らしてしまう、という出来事も何度もありました。
インターネットによる情報のやり取りが当たり前となる時代の中で、企業や個人は情報の管理をどうすべきか考えることを迫られていると言えるでしょう。
深夜のUHFアニメというのは、お色気要素を含んだアニメが少なくありませんが、UHFアニメにおけるお色気というのは基本的に素肌や下着を露出するという、いわば中学生の妄想レベルのものが多く、もっとどぎつい性的な要素が登場する番組は1年に1本か2本しか放送されないのが通例でした。
しかし2010年は、性的な要素を直截的に登場させる番組が非常に多かったと感じました。
2010年第1クールに地上波テレビ局で放送された番組のうち性的な要素が登場した番組は『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』『聖痕のクェイサー』。
この他、素肌や下着の露出を含んだアニメが、地上波テレビ局で放送されたアニメとしては『おまもりひまり』、地上波テレビ局で放送せずにCSで放送したアニメとしては『れでぃ×ばと!』『ちゅーぶら!!』です。
これらの番組に成人向けゲーム原作のアニメが1本も含まれていないことにも注目してよいでしょう。
続く2010年第2クールは『聖痕のクェイサー』(前期からの継続)『B型H系』『真・恋姫†無双~乙女大乱~』『いちばんうしろの大魔王』が性的な要素を含みました。
この他、素肌や下着の露出を含んだアニメが『一騎当千 XTREME XECUTOR』です。即ちこのクールのUHFアニメのうち、半数以上がエロアニメだったことになります。このクールについて付け加えると、地上波テレビ局で放送せずにCSで放送したアニメ『kiss×sis』もお色気シーンをふんだんに含んでいました。
2010年第3クールは『生徒会役員共』『あそびにいくヨ!』が性的な台詞を連発。『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』が性的な描写を含みました。この他、素肌や下着を露出させたのが『ストライクウィッチーズ2』『セキレイ~Pure Engagement~』『みつどもえ』です。
2010年第4クールで性的な要素を含んでいたのが『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』『ヨスガノソラ』。特に『ヨスガノソラ』はBPOに苦情が寄せられるほどでした。この他、素肌や下着を露出させたのが『百花繚乱 サムライガールズ』『もっとTo LOVEる』『そらのおとしものフォルテ』です。
こうして見ると、深夜アニメではお約束とも言える素肌と下着の露出以上の性的な描写や台詞を描いた地上波テレビアニメが1年間で『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』『聖痕のクェイサー』『B型H系』『真・恋姫†無双~乙女大乱~』『いちばんうしろの大魔王』『生徒会役員共』『あそびにいくヨ!』『学園黙示録』『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』『ヨスガノソラ』と10本もあったということです。
これはテレビアニメ史上最高記録ではないでしょうか。
上半期は放送本数自体が少なかったことを考えると、これは異常事態と言っていいかもしれません。
アニメ界は明らかに過激な路線を志向していたということです。
但し、一口に性的な要素を含んだアニメと言っても、正面から性的な要素を描いた番組と、ギャグのネタとして性的な要素を描いた番組があることを区別する必要があるでしょう。
性的な要素をギャグのネタにしていたのは『真・恋姫†無双~乙女大乱~』『いちばんうしろの大魔王』『生徒会役員共』『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』です(それがギャグとして笑えるかどうかは別問題)。『あそびにいくヨ!』における性的な台詞は猫の目線から語られるもので、これも比較的軽いノリでした。『みつどもえ』も、ハムスターの名前をチクビにするなど、ギャグのネタとして乳首やパンツを扱っていました。
これに対して、ガチンコで性的な要素を描いたのが『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』『聖痕のクェイサー』『B型H系』『学園黙示録』『ヨスガノソラ』です(『B型H系』はギャグアニメでもある)。ガチンコにしてもギャグにしても、性的な要素を平気で描く地上波テレビアニメが続出したことは、2010年の象徴的出来事だと言ってよいでしょう。
さて、お色気アニメ・下ネタアニメが多いということは、画面や台詞の修正が発生するということでもあります。
主なものについて作品別に見てみましょう。
尚、製作委員会にテレビ局が出資していないテレビアニメには、幹事局という、絵コンテ段階から放送に相応しいかチェックするテレビ局が付きますが、その上で各放送局が番組をチェックしています。
☆『聖痕のクェイサー』 有料のネット配信は無修正、その他は修正済みの放送となりました。修正シーンでは、満月のアップなど、毎回手を変え品を変えた修正が施された他、画面の一部を拡大するなどしました。画面を拡大する場合、そこだけ画質が荒くなり、浮いていました。 |
☆『あそびにいくヨ!』 本作は女性キャラクターの谷間を画面上にもろに映す一方、お尻については強い光によって画面を修正しました(映像ソフト商品では光が細くなっているが、それでもやはり修生が施されている)。また、服を消す武器の描写では、消えた服の部分をアシストロイド(劇中に登場するロボット)が必死で隠すというユーモラスな姿を見せました。 |
☆『みつどもえ』 エロ関係では、第2話・第3話において登場人物が描いたイラスト上の乳首が、地上波ではハムスター(ハムスターの名前はチクビ)によって隠される一方、BS・CSでは無修正。第5話では地上波の中でも局によって修正の度合いが分かれ、MXでは登場人物が描いたイラスト上の乳首が無修正、風呂シーンの湯気があまり漂っていなかったのに対して、TBS系列では登場人物が描いたイラスト上の乳首はハムスターで隠し、入浴中の湯気が濃い状態に。第10話はBSCSの副題は「ちぢょになる」だったのに対して地上波の副題は「×××になる」でした。しかし第10話の地上波版でも、劇中の台詞では「痴女」を連発しており、ちぐはぐな対応となりました。第11話での地上波版ではSMプレイのイメージ映像にモザイクが入り、担任の男性教師が女物のパンツを履くイメージ映像をハムスターで隠しましたが、BS・CSでは無修正。 エロ以外では、第5話で登場人物の体型を「雌豚」と罵る場面において、CBCで規制が入りました(地上波でもMX・MBSは無修正)。第11話では、出血シーンにおいて地上波では血液が消された(血が流れる音はそのまま)他、台詞が地上波版とBS・CS版で異なりました。BS・CS版ではかなり暴言を吐いているのですが、地上波版では少しだけ柔らかい言い回しになっています。この点については番組公式ツイッターで「今回も一部台詞を2バージョン収録しております。」と発表されました。 |
☆『ストライクウィッチーズ2』 2008年第3クールに放送された1作目は、番組序盤では盛大にパンツが映っていたものの途中から局によってはパンツに対する修正がきつくなり、強い光等でパンツを隠すようになりました(但し、修正のきつい局でも場面によっては画面にもろにパンツが映っていた)。一方の2作目はパンツに対する規制は殆どなく、入浴シーンを強い光等で隠す程度でした。凹凸(皺か?)がくっきりと描かれた股間を画面上に度アップで映したこともあり、視聴者を驚かせたものです。 |
☆『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』 残虐な殺人シーンの過激さでは『伝説の勇者の伝説』と双璧をなし、お色気シーンの量も多い。AT-Xでは視聴年齢制限ありの無修正放送である一方、地上波(※但しテレビ愛知を除く)でも血しぶきとかパンツとかがもろに映っていました。地上波で画面が隠されたのは、人が飛び降り自殺するシーン(これについてはMXとテレビ神奈川で放送されたバージョンは無修正で、AT-Xと千葉テレビとテレビ埼玉で放送されたバージョンは修正が施されていた)、胸を揉むシーン、女性同士が舌を絡ませるシーン等で、量としてはそれほど大したものではありません。尚、ドリルでゾンビの顔面を抉るシーンはAT-X・地上波両方で画面が隠されました。これらの局と比べて規制の度合いが極めて強かったのがテレビ愛知です。お色気要素とグロ要素を含んだシーンは画面が真っ暗になったり真っ白になったりして、劇中で何が起こっているのか全く判別不能の状態となっていました。 |
☆『生徒会役員共』 性的な台詞が片っ端から口パクになった他、オープニングにおける大人のおもちゃにモザイクが被さるなどしています。 |
☆『セキレイ~Pure Engagement~』 2008年第3クールに放送された1作目は、衣服の輪郭上で乳首が盛り上がっていたり、パンツが映っていたりしつつも、一部場面では木の葉等でパンツが見えないように修正されていました。一方の2作目でも、衣服の輪郭上で乳首が盛り上がっていたり、ボディラインを強調したりしていました。またMXは2008年8月27日に1作目を放送した際、無修正バージョンを放送し、画面に乳首を映したことがありましたが、今回もまた6月13日の第1話先行放送及び7月4日の第1話通常放送で、それぞれ別々のシーンで乳首を映すという芸当をやってのけました。 |
☆『ヨスガノソラ』 AT-Xでは視聴年齢制限ありで無修正放送、MXとBS11では修正版を放送。但しAT-Xは、男女が交わる場面は無修正で放送したのに、主人公の妹が自らを慰める場面は修正して放送するという、よく分からない基準となりました。 |
2010年のアニメ発祥のフレーズのうち、2ちゃんねる等のネット上で流行したものを取り上げます。
まずは「~なイカ?」「~でゲソ」。
出典は『侵略!イカ娘』です。ツイッター上でウルトラマンベリアルが「子供の心を抑えたとなれば、もはや俺様の地球侵略は完了したも同然でゲソ・・・」、同じく『そらのおとしもの』のイカロスが「すぐわかるエンディングでしたら、そらおとらしくないじゃなイカ…ロス。」、同じく『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の高坂桐乃が「超素晴らしい企画じゃなイカ。他のアニメでもやって欲しいでゲソ。」と書き込むといった出来事がありました。
この他、『侵略!イカ娘』とは直截関係ないものの『アマガミSS』第11話の字幕放送では、遊園地のヒーローショーの場面で、イカ怪人の台詞として「準備はいイカ!?」「最近の子供は成長が早いじゃなイカ」などという字幕が表示されていました。
次に「綺羅星!」。
『STAR DRIVER 輝きのタクト』に登場したこの台詞は、その恥ずかしいポーズとも相俟って、大変な評判となりました。ツイッター上で『そらのおとしものフォルテ』のイカロスが「颯爽登場、おとめ天使いかろす。全裸星☆」と書き込んだこともありました。
3つ目は「んでんでんで」「調子に乗っちゃ駄目~」。
出典は『迷い猫オーバーラン!』。同作を象徴する一言となりました。
4つ目は「ちぇりお!」。
『刀語』のとがめ(声・田村ゆかり)が、薩摩の示現流の掛け声「チェスト!」と勘違いして言っていた台詞です。『水戸黄門』で「チェスト!」という台詞が登場した時に実況スレッドに書き込まれるほど浸透していました。
5つ目は「どうしよう・・・泣きそうだ」。
『裏切りは僕の名前を知っている』に登場した台詞であり、アスキーアートが作られた他、2ちゃんねる上では動揺した時に多用されました。
2010年のアニメは、平成生まれ世代を中心とした若い声優が主人公やメインヒロイン及び中心人物を演じた作品が多かったように思います。アニメ声優界の世代交代が一気に進んだと言えるのではないでしょうか。
このことは、2009年と2010年を比較すると顕著です。2009年のテレビアニメにおいては、1970年代~1980年までの生まれの世代に、複数の番組で重要人物を演じる声優が揃っており、まさに当代のテレビアニメを支える主力となっていました。30前後~30代の声優が第一線で活躍している状況で、主要メンバー全員を20代前半より下の世代の声優にした『けいおん!』と『生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録』は、2009年のテレビアニメとしては異例のキャスティングだったと言えます。
しかし2010年は、平成生まれを中心とした若手声優による旋風が吹き荒れました。特に目立ったのが、花澤香菜(1989年2月25日生まれ)、竹達彩奈(1989年6月23日生まれ)、早見沙織(1991年5月29日生まれ)、悠木碧(1992年3月27日生まれ)といった人達です。簡単に、2010年における4人の活躍ぶりを振り返っておきます。花澤香菜は、同月同日公開の映画『いばらの王 -King of Thorn-』『劇場版“文学少女”』に主演して舞台挨拶を梯子する活躍を見せた他、『デュラララ!!』『世紀末オカルト学院』『あそびにいくヨ!』『海月姫』では眼鏡をかけた少女を演じました。特に『海月姫』においては、「オレ!」と歌うシーンが愉快です。竹達彩奈は、『けいおん!』の続篇である『けいおん!!』の中野梓役で、前年に続いて一世を風靡しています。早見沙織は、2007年の『桃華月憚』や2008年の『我が家のお稲荷さま』で美しい歌声を披露していますが、2010年においても『セキレイ~Pure Engagement~』『そらのおとしものフォルテ』で歌声を披露しています。悠木碧は『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』で女王役を演じ、威厳に満ちた迫力を見せました。平成~昭和60年代生まれの声優が多くのアニメで主要登場人物を演じた結果、もはや、1985年あたりの生まれの世代を若手と呼ぶのが躊躇われるような状況になっています。
また2010年は、深夜アニメを長年に亘って支え続けた1976年生まれ四天王のうち、川澄綾子は『会長はメイド様!』で高校生の母親役を、生天目仁美は『迷い猫オーバーラン!』で女の子の母親役を演じており、この辺も世代交代を象徴しているのではないでしょうか。
但し、若手声優が重要人物を演じる機会が増える中で、30代女性声優は安定した実力を発揮し、貫録を見せています。何人か例を挙げましょう。
まずは『ハートキャッチプリキュア!』で桑島法子(1975年12月12日生まれ)が演じる明堂院いつき・キュアサンシャイン。キュアサンシャインは武力に優れた力強い描写の一方、病弱な兄を想う心優しい描写が視聴者の胸を打ちました。
次に『あにゃまる探偵キルミンずぅ』で丹下桜(1973年3月24日生まれ)が演じた羽鳥カノン。クラスメイトである神浜キルミンズのメンバーと敵対しつつも、メンバーの1人・ケンへの恋心や、他のメンバーとの友情の間で揺れ動く戸惑いを表現していました。
3人目は『フェアリーテイル』で大原さやか(1975年12月6日生まれ)が演じるエルザ・スカーレット。幼少時代の、苦難を伴う生い立ちを経て、強い意志と責任感を以て立ち回る現在の姿は、人生の年輪を感じさせます。第41話「HOME」で感極まりながら掟を訓示する場面はとてもかっこ良かった。
『フェアリーテイル』で付け加えると、小野涼子(1977年6月22日)演じるミラジェーンが、第45話で「サタン降臨」において相手の心中を見抜いて諭す場面も印象深い。
ところで、昭和60年代以降生まれの声優を見て気付くのが、劇団に所属するなどして子役として活動した者や、10代のうちから声優として活動している者が少なくないことです(昭和時代からそういう声優はいるけれども)。そのため、年齢の割に芸歴が長かったりします。
名 | 誕生日 | デビュー | 所属 | 2010年のメインヒロイン担当作品 |
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花澤香菜 | 1989/02/25 | 1996 | 大沢 | 『こばと。』 『デュラララ!!』 『いばらの王』 『文学少女』 『海月姫』 |
竹達彩奈 | 1989/06/23 | 2005 | アイム | 『kiss×sis』 『たまゆら』 『えむえむっ!』 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 |
早見沙織 | 1991/05/29 | 2007 | アイム | 劇場版『東のエデンⅡ』 『セキレイ~Pure Engagement~』 『STAR DRIVER 輝きのタクト』 『そらのおとしものフォルテ』『バクマン』 |
悠木碧 | 1992/03/27 | 1997 | プロ・フィット | 『夢色パティシエール』 2部作『あにゃまる探偵キルミンずぅ』 『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』 『ゆとりちゃん』 『ポケットモンスター ベストウイッシュ』 『百花繚乱 サムライガールズ』 |
■ライター紹介
【コートク】
本連載の理念は、日本のコンテンツ産業の発展に微力ながら貢献するということです。基本的には現在放送中の深夜アニメを中心に当該番組の優れた点を顕彰し、作品の価値や意義を世に問うことを目的としていますが、時代的には戦前から現在まで、ジャンル的にはアニメ以外のコンテンツ作品にも目を向けるつもりでやって行きたいと思います。そして読者の皆さんと一緒に、日本のコンテンツ産業を盛り上げる一助となることができれば、これに勝る喜びはございません。