日本語には様々なオノマトペ(擬音語・擬態語)があり、豊かな表現を生み出していますが、日本語を学ぶ外国人にとっては難関の1つ。ラトビア出身の日本推しYouTuber・アルトゥルさんが、日本語の多彩なオノマトペに驚嘆するツイートに注目が集まっています。

 オノマトペとは、動物の鳴き声や物音を言語化した「擬音語」と、状態や心境を言語化した「擬態語」の総称。ちなみに「オノマトペ」は、古代ギリシャ語で「音に似せた言葉」を意味する「オノマトポイーア」から派生したフランス語「オノマトペー(onomatopée)」からきています。

 オノマトペは各言語に存在する普遍的な表現ですが、日本語はその種類と用法の幅広さにおいて群を抜く存在。アルトゥルさんは日本語のオノマトペが山ほどあることに驚嘆し、次のようにツイートしました。

「おい…外国人のみんな…
日本のオノマトペはまじ大変だぞ…
『雨がふる音』は【しとしと/ぽつぽつ/ざぁざぁ】など雨が降るタイミングや強さによって変わる…
覚えるのは大変だが、表現方法が超増えるから頑張ろうな…
ちなみに日本には『桃が川で流れてる』音がある。
【どんぶらこ】だ。驚いてくれ」

 アルトゥルさんが例に挙げた「雨が降る音」。はじめはポツポツと降りだし、いつしかシトシトとなり、ザァザァ(ザーザー)と土砂降りになっていきます。

 しかも「シトシト」と「ザーザー」は厳密にいうと、雨の強さだけでなく雨粒の大きさでも使い分けられているのは、日本語を母語とする人は無意識に使っているだけに気づきにくいと思います。シトシトより、ザーザーの方が雨粒が大きい印象がありますよね。

 桃が川で流れてる音、とアルトゥルさんが挙げた「どんぶらこ」は、昔話の「桃太郎」に出てくる擬態語ですが、状況を例示してみると「ある程度の大きさと重さの物体が液体(水、海、川など)の中で浮き沈みしながら揺れているさま」といったところでしょうか。完全に浮かぶほど軽くない(軽いと「ぷかぷか」)、というのがポイントですね。

 オノマトペは、言葉の表現を豊かにする上で大きな役割を果たしているのですが、とても重要な意味を持つ場面があります。それは、病気やけがで医療機関に行った際、自覚症状を伝える時。

 例えば「お腹が痛い」ということを訴えたい場合、その痛みが「キリキリ」と鋭いものなのか、それとも「ゴロゴロ」「グルグル」するのか……医師は患者がオノマトペで表現する痛みを参考に、どこが悪いのか推測します。一般に「キリキリ」鋭い痛みは胃の病変を、また「ゴロゴロ」「グルグル」する場合は下痢をともなう腸の病変を疑う手掛かりにする、とされています。

 日本語の不自由な外国人が自覚症状を訴える際、このオノマトペによる表現がうまくいかないため、医師が診断に迷うということがあります。……もっとも、先に述べたように方言のオノマトペもあるため、お年寄りが方言のオノマトペで症状を表現し、それを知らない医師が分からないといったケースもあるようです。

 アルトゥルさんに、日本語のオノマトペについてうかがったところ、ツイートにあった雨の表現を最近勉強したそうで「どの強さにどれを使うのか正解がわからないため、どのタイミングで使い分けるのかが非常に難しいです。これを使い分けることができる日本人がすごい」と語ってくれました。

 また、不思議だと思ったオノマトペでは「「ゴロゴロ」です。雷が鳴るのもゴロゴロ、寝転ぶのもゴロゴロ、猫からの音もゴロゴロ、石が転がるのもゴロゴロ。ゴロゴロだけで色んなものを表現しているのはとても不思議です。全部違うオノマトペにすれば、ややこしくないのになぁと思いました」とのこと。確かに、日本語を母語にしていると自然に使い分けているので気づきませんが、複数の音や状態を表現するオノマトペも日本語には多いようです。

 アルトゥルさんの母国・ラトビアでは、独自のラトビア語があるのですが、帝政ロシア(18世紀~1918年)やソ連(1940年~1990年)に併合された歴史があるため、ロシア語が広く使われているとのこと。アルトゥルさんは自身のYouTubeチャンネルで、日本語のオノマトペに悪戦苦闘する動画だけでなく、ロシア語のオノマトペ(動物の鳴き声)について紹介する動画も公開しています。

 日本人が外国語を使う際にも、オノマトペを表現に加えると細かいニュアンスが伝わりやすかったり、相手とのコミュニケーションがスムーズになったりします。オノマトペには、その言語や国の文化史が反映されているので、色々知ると楽しいものです。

<記事化協力>
アルトゥル・日本推しYouTuberさん(@ArturGalata)

(咲村珠樹)