「潰瘍性大腸炎」をご存知でしょうか?毎日のように突然の便意に襲われる「便意切迫感」を主な症状とし、日本国内でも症状に悩まされる方が年々増加。およそ22万人が悩まされていると言われている炎症性疾患を指します。
しかし、患者の多くはその症状を周囲に打ち明けられず、自身の努力や工夫によって日常生活を維持していることもしばしば。
そんな悩みを解消すべく、日本イーライリリー株式会社と持田製薬株式会社は「潰瘍性大腸炎との暮らしを、話せる社会へ。」プロジェクトを7月5日に開始。これに伴いオンラインにて開催されたメディアセミナーを取材しました。
この日登壇したのは、北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター特別顧問の日比紀文さん、日本イーライリリー株式会社の松尾浩司さん、外村優佳さん、持田製薬株式会社の興野大さんの4名。
「潰瘍性大腸炎の病態と治療法」「潰瘍性大腸炎患者のQOL向上と課題」「潰瘍性大腸炎を取り巻く環境の改善に向けた取組み」等についてのお話がありました。
■ 「潰瘍性大腸炎の病態と治療法」
初めに「潰瘍性大腸炎の病態と治療法」では、日比紀文さんが登壇。
潰瘍性大腸炎は「炎症性腸疾患」に分類される多因子免疫疾患であり、その症状を引き起こす原因は不明であること、若年層に発症しやすいこと、男女の性差はなく誰にでも起こり得ることなど、概要を解説しました。
ではその症状としては一体どんなものがあるのでしょう。先述の「便意切迫感」のほか、「下痢や腹痛による排便回数の増加」や「血液粘液の排出」があり、患者はしばしば、出血を伴う緊急性の高い頻繁な排便を経験しているとのこと。慢性化・長期化することが多く、寛解したと思っても再燃するパターンもあるそうです。
治療法としては、軽症の場合は経口や局所による投薬を行ったり、症状が重い場合には手術を要したりすることもあるなどさまざま。
治療時には医師の判断だけでなく、患者の主観を重視した治療効果の評価「患者報告アウトカム」を用いて、多くの場合で症状を落ち着かせることは出来るようになりましたが、しかしそれでも根本的な治療法はなく、外見だけではわからない分、非常につらい思いをしている、という若年患者が多いとのことでした。
■ 「潰瘍性大腸炎患者のQOL向上と課題」
「潰瘍性大腸炎患者のQOL(生活の質)向上と課題」では、潰瘍性大腸炎を発症することによるライフイベントへの影響について日比紀文さんが解説。
特に若年層においては就学や就労、結婚や妊娠といった出来事に直接関係するため、症状をうまくコントロールし、QOLを良好に保つことが必要になりますが、ここでは特に悩みを抱える患者の割合が多い「便意切迫感」に注目して説明が行われました。
潰瘍性大腸炎の患者に対し、最もQOLを低下させる症状は何か?ヒアリングを行ったところ、便意切迫感を挙げた方は全体に62.5%という結果になり、海外では「便意発生から5分未満にトイレに行かなければならない」と感じている方が全体の5割超。患者は非常に苦しんでいるということがわかりました。
このように、QOLに大きな影響があり、コントロールしたいと考えてはいるものの、内容がセンシティブであるため「相談しにくい」と感じている方も多く、また、医師側もトイレの回数や血便といった症状について尋ねるだけに留まり、便意切迫感についてはコミュニケーションがうまくとれていないこともしばしばあるのだそう。
合わせて行った患者を対象としたアンケートにて、「今まで突然の激しい便意に襲われた経験はあるか?」の質問に対しては、全体の95.2%が「ある」と回答。さらに「激しい便意はどの程度の頻度で起こるか?」に対しては全体の40%以上が「毎日1回以上」と回答する等、患者にとって便意切迫感がいかに深刻な症状であるかが良く分かります。
こうした症状があるため、日常生活においては「トイレの待ち時間」や「外出自体」に対しての不安感が強く、人生単位では「仕事・学校を辞めた」「やりたい仕事や行きたい学校をあきらめた」など、ライフスタイルに多大なる影響を与えてしまうのです。
しかし、「便意切迫感」という言葉についてはまだまだ浸透度が低く、医師と患者の間ですら理解のズレが生じているという状況。やはり「知られたくない」という思いから症状を周囲に上手く伝えられなかったり、伝えても理解してもらえないという懸念を抱えていたりすることが判明しました。
便意切迫感は、潰瘍性大腸炎患者の多くが悩んでおりながら、患者の努力によってなんとか日常生活が維持されている、という場合が多数。医師にも相談しにくいのであれば、周囲の方にとってはなおさらのこと。日常生活の中で便意切迫感が不安にならない環境作りは課題であり、患者が不安と偏見なく生きていける社会の実現を目指して努力していくと、宣言しました。
■ 「潰瘍性大腸炎を取り巻く環境の改善に向けた取組み」
では、どのようにしてその社会を実現していくか。最後のプログラムは「潰瘍性大腸炎を取り巻く環境の改善に向けた取組み」について。持田製薬株式会社の興野大さん、日本イーライリリー株式会社の外村優佳さんが登壇しました。
ここでは、日本イーライリリー株式会社と持田製薬株式会社が共同で、「潰瘍性大腸炎との暮らしを話せる社会へ。」プロジェクトを発足したことを発表。プロジェクトを通じて潰瘍性大腸炎を抱える当事者の方々が周りからの理解不足で苦しんだり、諦めたりすることのないよう、社会における理解を促していくことを目的としています。
潰瘍性大腸炎への理解を広げ、周囲のサポートの輪が広がるよう、具体的な取り組みとして、声優の中村千絵さんを起用したWEB動画を制作中であることが発表されました。
自身も潰瘍性大腸炎を患っている中村千絵さんはビデオメッセージにて、患者とその周囲の方々それぞれへの思いをコメント。
「患者の皆さんへ。潰瘍性大腸炎になっていろいろ大変なこと、思い通りにいかないことがあると思います。だからこそ、患者さん同士、お医者さん、あるいは周りのお友達や家族、近しい人たちと話すことで、少しでも気持ちが楽になったり、悩んでいるのは一人じゃないんだなって思えたらいいなって思います。私も当事者ですので、一緒にがんばりましょう」
「周囲の皆さんへ。私たち患者が抱えている不便さや心細さを知っていただいたり、ちょっとだけ理解してもらえたり、潰瘍性大腸炎のことに関心を持ってもらえたら患者にとっては、とても心強く、毎日が過ごしやすくなると思います。今回の動画がそのきっかけになるといいなと思います」
と、胸中の素直な気持ちを語っていました。
WEB動画は8月上旬をめどに、「潰瘍性大腸炎との暮らしを、話せる社会へ。」プロジェクトの特設サイトにて、公開予定となっています。
取材協力:日本イーライリリー株式会社/持田製薬株式会社
(山口弘剛)