ゲームやアニメ事業を展開するニトロプラスは、「二次創作のガイドライン」について、7月9日に改訂案を発表した。
先頃発表されていた案では、二次創作の同人物に対し活動を認める形で、「直接販売であること」「販売数量の総累計数が200個以内であること」など、具体的な指針を示していた。
しかし、7月に入りこの内容が同人業界で話題になり「至極ごもっとも」「ニトロ正論すぎる」「同人ゴロはいいザマ」という賛成する意見が多い一方、「委託販売禁止は厳しすぎる」「数量が少なく転売屋がより活躍してしまう」など制限については緩和を求める声が多く上げられていた。
こうした事態をうけ7月8日夜、同社社長の小坂崇氣氏は、自身のTwitter(@digitarou)を通じコメントを発表。「文章の精査が甘く、意図とは異なる表現になっていた」と謝罪し、「同人活動を規制しようという考えは全くありません」とコメント。更に「二次創作のガイドライン」を改定した理由については、「ファン活動とは思えない営利目的の同人グッズ等が増え続けている現状を何らかの形で線引したい」と意図も示していた。
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■7月9日に示された改訂案
今回発表された改訂案では、大きく以下の箇所に追記がされている。
――二次創作における同人誌等は扱いが異なる
□『A. 非営利的な二次創作活動におけるガイドライン』に追記
<追記箇所ここから>
なお二次創作活動における同人誌等の活動に関しては取り扱いが異なります。以下リンク先をご参照ください。
⇒二次創作活動における同人誌等の活動に関する取り扱いについて(2014.7.9)
<追記箇所ここまで>
追記された文をそのまま受け取るとすれば、本ガイドラインは「同人誌等」についてこの全てを適用するわけではないようだ。
先に紹介したニトロプラス社長のコメントと合わせると、このガイドラインは主に「グッズ等」を対象にしたものと思われる。
――「同人誌等」については「過度な営利性がないもの」であれば従来通り
リンク先では、「同人誌等の活動における二次創作活動について、特殊な実態があることを鑑み」「概ね過度な営利性がないものと判断しうるような事例については従来どおり、その活動についてファン活動の範囲内の行為として許容」すると説明。
どの辺が「過度な営利性」の基準となるかは、「二次創作のガイドライン」に記載されるような具体的案は示されておらず、また本件について「これらに関連する個別の事例に対して、具体的に返答をさせていただいておりません」と、具体的な回答はしないと明言。その辺の裁量については「お客様におかれましては、モラルの範囲内にてご判断の上、ご対応を頂ければ幸いです。」と書かれており、個々で判断するよう促されている。
とりあえず「同人誌等」においては、「過度な営利性」がないものについては、これまで通りのファン活動として許容されるそうだ。
――「委託販売」一部緩和
□『2.直接販売であること』に追記
<引用はここから>
お客様が配布行為の直接の主体となる場合。すなわち、イベント等での対面販売、もしくは通信販売であっても自身のHP等、小規模な案内のもと、自ら受注を確認し、配布物を梱包し、発送の手続きを行うようなものは直接販売とみなします。委託販売やオークション等、第三者を仲介し、または不特定多数に向けることを目的とし、継続的かつ反復的に販売を行う行為は、認められません。
<追記箇所ここから>
なお、上記例は例示的記載であり、たとえば内容や対象等が特殊な範囲内において、特定可能性が高い対象に対して、結果的にその活動が小規模となりうると推測しうる範囲での行為であれば表面上委託販売であっても、直接販売と判断しうるような場合もございます。
<追記箇所・引用ここまで>
今回の改訂で「同人誌等の活動に関しては取り扱いが異なる」とした本体ガイドラインでは、同人誌含め以前全面禁止になっていた「委託販売」に関する例外措置が追記されている。
「対象等が特殊な範囲内」でかつ「小規模となりうると推測しうる範囲での行為」であれば表面上委託販売であっても直接販売と見なされるとのこと。
この書き方だと、「グッズ等」の店舗やネットへの委託販売がそれに適合するかは分からないが、少なくともサークル間での同人誌即売会の委託販売については問題なさそうだ。
今回の改訂では、「同人誌等」において、明確な数値等は示されず、各自の判断に任せる内容が追記されている。また、個別の問い合わせには回答しない方針ということなので、そのボーダーは各自で考えなければならない。
どの辺がそのボーダーなのか気になるところではあるが、基本目に付くような荒稼ぎさえしなければ、これまで同様安心してニトロプラスの二次創作同人は続けられそうである。
■書店やネットへの委託販売ってないと困る?
この記事の前に、ニトロプラスが「二次創作のガイドライン」を設けたこと、そしてそれによる反響を紹介した『二次創作ガイドライン改定で「暮らしていけない」と同人作家が悲鳴』という記事を掲載した。その記事コメントで多く見られたのが、「内容には賛同だけど“書店やネットへの委託販売”がないと困る」というものだった。
筆者、同人界に足を踏み入れかれこれ30年ほど経とうとしているため、実はこの意見にあまりピントこなかった。
記事最後に昔話として、昔の地方同人ファンの同人物の購入の仕方を紹介したい。
知らない方には昔話の知識として、同じ時代を駆け抜けた同志の方々は、記事についたSNSのコメントなどで突っ込みや補足をお願いしたい。
▼ネットがない時代どうやって遠方の同人作家を知り、どんな方法で買ってた?
――即売会
もちろん第1の手段は即売会。いくら30年前の地方の片田舎でも、電車で少しいけばそれなりに栄えた街もあり、2月に1回程度は小規模でも即売会が開催されていた。
そうした場所に行けば、地元の作家だけではなく、県外の作家の場合でもサークル間で仲が良い場合には、サークル同士の委託販売という形で同人誌が売られていた。
毎度足を運ぶのが面倒と思うかも知れないが、同人の醍醐味はこうした即売会で様々な人とふれあうこと。普段は引きこもりがちでも、基本同類が集まっているため、行けばそれなりに楽しむことができた。
また半年に1回程度は更に足を伸ばせば、それなりに大きな即売会も開催されていた。とりあえず、即売会に出向くだけでもある程度の作家を知ることはできた。これについては今も昔も変わらないのじゃないだろうか。
――アンソロジー
地方の即売会に出ない、サークル間の委託販売もしないという作家を知るきっかけが、出版社から出されるアンソロジー。
これは今も変わることはないが、当時も1冊のアンソロジーには多くの同人作家が参加していた。最低4Pくらいの人もいたので、1冊に対し10人近くの作家が参加してたんじゃないだろうか?
大体そういう本に掲載される人は、既に人気の同人作家もしくは出版社の目にとまるほどの有望株。毎月発売される何種類ものアンソロジーを買って、お気に入りの作家はいないか目を皿にしてチェックしたものである。
そして、気に入った作家が出来た場合には、コミケカタログなどチェックして、参加が決定していないか確認。参加する場合には、同じく参加が決まっている知人に頼んで同人誌を買ってきてもらうなどし、1冊目の同人誌をゲット。
当時は、SNSやメールがなかった時代なので、同人誌の奥付などには作家の連絡先が必ず書かれていた。
基本、そこに連絡すれば、郵便などを介しての通販の方法が教えて貰え、とりあえずお気に入りの作家の本を1冊ゲットさえすれば、後はどうとでも手に入る仕組みになっていた。
ちなみに、アンソロジーの出版社に問い合わせると、サークル名やサークルの私書箱を教えてくれるところもあったので、わざわざ即売会で1冊目を手にいれなくても、初回から郵便だけでなんとか手に入れることもできた。
またアンソロジーの他にも、同人誌の通販情報だけを集めた専門誌のようなものもかなり参考になった。
――友達
一番の情報源はやはり友達。これも今も昔も変わりないんじゃないだろうか?
友達から借りた同人誌で気に入った作家を見つけるのが、一番手っ取り早かった。それで気に入った作家を見つけたら、名前かもしくは奥付をチェック。後は上の様な手段で通販で手に入れていた。
――通販で手に入れた同人誌に同封されるチラシ&即売会で配布されるフリペ
通販で同人誌を手に入れると、何枚かチラシが入っていることがあった。(今も入れているところはあると思うけど)
送付元の作家さんだけじゃなく、作家さんの知り合いのサークルのものなど、毎回違っていてなかなか面白く見させて貰った。
他にも、即売会で配布される無料の配布物も当時かなり役立った。ほとんどは他の即売会のイベント予告ばかりだが、中には訳がわからない情報紙もあり、色々参考になるものが多かった気がする。そしてこれらをきっかけに知る人も多く、どちらも良い情報源として活躍してくれた。
▼困ったこと
地方での同人ライフは、よほど欲張らなければ、上記のようにそれなりに昔も楽しむことができた。ただ、同人誌1冊を手に入れる時に、唯一困ったのが、「入金」について。
当時多かったのが郵便為替を買って、それを申込書と一緒に作家に送って、返送して貰う方法。この郵便為替が実はなんだかんだと手に入れるのが大変だったのである。郵便局での取り扱い時間は、貯金同様16時まで。学校が終わると即ダッシュしてギリギリ間に合うか間に合わないかレベル。そのため、オタクといえど足腰は常に鍛えておく必要があった。
今は情報もインターネットで手に入りやすい時代なので、上記のような苦労をせずとも簡単に気に入る作家を見つけることができるし、入金にも困らなくなっている。その点、良い時代になったものだと思う。
それに、今回ニトロプラスが提案したガイドラインの中では、作家のネット直販は明確に許可されている。ネット直販が残るならば昔よりもずーっと楽に手に入れることができるな。と年寄りは考えてしまった。