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【追記:ニトロプラス社長コメント】二次創作ガイドライン改定で「暮らしていけない」と同人作家が悲鳴

ニトロプラスの二次創作ガイドライン※記事末尾に7月8日22時に発表された、ニトロプラス社長 小坂崇氣氏のコメントを追記しています。

※本稿で紹介するガイドラインには7月9日改訂が入りました。改訂版については別記事「ニトロプラス『二次創作ガイドライン』で“同人誌等”の扱いを緩和」(7月10日投稿)で紹介しております。

ゲームやアニメを展開するニトロプラスが公開した、二次創作活動に関するガイドラインについて、ここ数日同人界隈で話題になっている。

  • 【関連:ニトロプラス『二次創作ガイドライン』で“同人誌等”の扱いを緩和】

    ニトロプラスの二次創作ガイドライン

    ■ニトロプラスが定義した「二次創作のガイドライン」

    ガイドラインによると、これまでグレーゾーンとされてきた二次創作(範囲:同人誌、同人グッズ、コスプレ、痛車、フィギュアなど)について、認める形でその利用範囲を明記。

    1.創作性があること
    2.直接販売であること
    3.販売数量の総累計数が200個以内であること
    4.売上予定額が小規模(10万円未満)であること
    5.その他、絶対的禁止事項に該当しないこと

    直接販売については、通信販売であっても自分のホームページで受注し、自分で梱包し個別発送するものについては認めるが、「委託販売」や「オークション」など第三者を仲介して行うものについては認めない。
    売り上げ予定額が10万を超えるものについては、救済策として「アマチュア版権申請窓口」より申請し版権利用料(ロイヤリティ)を支払えば、例外的かつ部分的に許諾可能。禁止事項については「公序良俗に反しない」などの内容が盛り込まれている。

    また規定ではガイドライン適用外の作品も指定されている。適用外は「魔法少女まどか☆マギカ」「翠星のガルガンティア」「Fate/Zero」など。

    このガイドラインについて同人界隈では、「自由が制限される」「明記してもらえることで逆に安心して二次創作できる」「ニトロプラス以外の企業にもこういう対応をして欲しい」と賛否両論が上がっている。

    そんな議論真っ最中の7月7日、「はてな匿名ダイアリー」に「同人誌の200部制限ができたら、壁サークルの俺が暮らしていけない理由」という、なかなか興味深い記事が投稿されていた。

    ■人気同人作家が「暮らしていけない」と悲鳴

    同人誌の200部制限ができたら、壁サークルの俺が暮らしていけない理由

    記事によると、投稿主は同人誌界では人気がの高い作家のようで(自称)、コンスタントに3,000部を販売しているという。

    1度に3,000部印刷して、印刷費が約30万円(単価100円)と説明し、それを1冊1,000円で販売。
    同人誌即売会『コミックマーケット』には夏と冬参加しており、年間約540万稼いでいるそうだ。ちなみにジャンルはエロ。

    ところが、今回ニトロプラスが公開した規制がもし業界全体に浸透したとすると、200部作ったとして印刷費が55,000円(単価275円)。それを1冊1,000円で売ると10万超えるので500円として、夏と冬で約9万円。

    これについて投稿者は、「おこづかいみたいな金額です。これじゃあ暮らしていけません。」と嘆いていた。

    ■同人作家の嘆きに批判殺到

    この記事について他のユーザーから多くの批判的意見が寄せられていた。「著作権料払うなら二次創作OKつってるわけだし、金払えば?」「まっとうに働けカス」「著作権法違反」。

    他にも記事自体がネタだと考えている人も多いようだが、大手同人印刷所のホームページでは標準の最大ロットが5,000部と書いているところがいくつかあるため、記事を投稿した人物が本物かどうかは定かではないが、同人誌だけで暮らしている人がいるのは嘘ではないようにも思われる。

    ■ニトロプラスはなぜガイドラインを改定したのか?

    ニトロプラスが公開した案は、著作権者としては当たり前のこと。むしろルールさえ守れば二次創作を自由に許諾するとした点で、かなり寛容な部類に入ると思う。

    でも何故ニトロプラスは、今までもあった二次創作について、今回こうしたガイドラインをあえて掲載したのか。
    そこに見えてくるのは「二次創作の同人活動の延長で商業化してしまう人」の存在、そして「著作権者にかかる責任問題」があるからのように思われる。

    ■二次創作の同人活動の延長で商業化してしまう人

    最近、無断で作られる二次創作の同人と呼ばれるものについて「違法」と理解していない人が増えている。「違法」なのに、何故多くの物が販売されているのか?

    それは単に各著作権者が「ファン活動」「趣味の範囲」として黙認しているからだけのこと。厳しいところは、即法的手段に出るケースもある。有名どころでは千葉県のネズミの国の住人や、黄色いネズミなど。

    ただし、黙認している場合にも範囲があり、「同人」と名乗れば何でも許される訳ではない。
    最近は、自費出版・自費生産物=同人。だから「二次創作物でも売り方は自由、過剰な利益を得ても大丈夫」と勘違いしている人も増えているが、許される範囲はあくまで「趣味の範囲」。

    上記の「はてな」投稿主のようにそれで利益を得て生計を立てている者の場合は個人事業主、書店やネットでの販売の場合は「二次創作を容認された同人」でかつ「少量生産」のものだったとしても販売ルートが「商業」のため、著作権者からみたらどちらも商業活動として本来みなされる。

    では何が「趣味の範囲」なのか?その全てを示したのが、今回ニトロプラスが紹介したガイドラインにある。
    つまり、過剰な利益は得ず、直接販売するもの、そして著作物のイメージを壊さない作品のみが範囲という事になる。

    ■同人で活性すれば作品は盛り上がるし著作権者にも迷惑かけてないじゃん!

    という人を最近よくネットで目にするが、あまり知られてないだけで実はかなり迷惑をかけている。

    以前、某アニメ系企業のライセンス管理担当と、二次創作物について話をしたことがある。その時の話によると、元となった著作権者に対し、ファンから苦情が届くことがあるそうだ。

    特に全年齢対象とした作品の場合に多く、過去に、書店で売られていた本を表紙とタイトルだけみて購入したところ、その正体は同人誌で、中身も想像していたものとは違い「キャラクターのイメージを壊された」という苦情や、「メーカーは何故こんなものを許諾するのか」というオフィシャル商品と誤って購入した人からの苦情が寄せられたそうだ。
    そうした事情もあり、大量販売されたり、「同人」という業界を知らない人もいる場所での販売には、管理者としてかなり苦悩があるようだった。

    ちなみにその時の話では「二次創作の同人物とオフィシャル商品では、ある程度住み分けができているので、海賊版で無い限りは同人の売り上げはオフィシャル商品には影響が出ない」という話も聞いている。ま、売られる数にもよるのだろうけど。

    要するに「金」ではなく、「イメージを壊される」事の方が、大きな問題なのである。

    ■今回のニトロプラス事例で他の著作権者はどう動く?

    当面はこのままの黙認状態が続くと思われるが、ニトロプラスが公開したガイドラインではこれまで曖昧だった「趣味の範囲」を明確にしたため、あまりに二次創作の同人が自由気ままとなってしまった場合には、追従してくる権利者が出てくるものと思われる。

    ただし、著作権者の中にも、同人業界出身者という人は多く、毎回コミックマーケットに足を運ぶ人も多い。
    皆、ルールさえ守れば、基本このまま黙認していくところが多いのではないだろうか。

    ■【追記】今回の二次創作ガイドラインについてニトロプラス社長がコメント

    ニトロプラスが公開した、二次創作ガイドラインについて、同社社長の小坂崇氣氏(@digitarou)が7月8日夜、Twitterを通じてコメントを発表した。

    小坂崇氣氏のTwitter

    まず、今回公開したガイドラインについて「文章の精査が甘く、意図とは異なる表現になっていた」と謝罪。そして、自身が同人出身であることを紹介し、「同人活動を規制しようという考えは全くありません」と説明。

    また、今回こうしたガイドラインを公開した理由について、「ただファン活動とは思えない営利目的の同人グッズ等が増え続けている現状を何らかの形で線引したいのです」と、同人活動を隠れ蓑にして、営利活動が行われている現状も説明している。

    どうも今回社長が急遽コメントを発表したのには訳があるようで、今回のガイドラインが一部で報道されたり、ネットで一人歩きするうちに「切り取った情報」だけが先行してしまい、いつの間にやら「ニトロプラス同人粛正」的に誤解を生んでいたようだ。

    筆者は全文しっかり読んでいるが、ちゃんと読めば意図は理解できたし、常識の範囲で活動する分には同人活動を粛正どころか応援しているのもわかった。上記本文では「二次創作の同人活動の延長で商業化してしまう人」と書いたが、同人を隠れ蓑にした営利活動の粛正がその背景にあるのも理解できた。個人的な感想になるが、このガイドラインは二次創作の同人を応援するという意味では、著作権者とのバランスもとれ、かなりよくできたガイドラインだと思う。
    しかし、同社社長のコメントによると、明日にでも修正を行うという。どの箇所が改正されるかはわからないが、現在あるものより非営利については発売部数などの面でかなり緩和される可能性が高い。

    ただ、こういったガイドラインは、必要か不必要かといわれたら、純粋に同人を愛する人にとっても、著作権者にとっても確実に今後必要なものだと思われる。今回の件で大幅改正するということではなく、さらに議論に議論を重ねて、同人作家にとっても著作権者にとっても、バランスの取れた良いガイドラインが最後誕生することを期待したい。

    <ニトロプラス小坂崇氣氏コメント全文>
    ▼7月8日22時01分投稿(1)
    帰国しましたが、著作権ガイドラインについて大きな問題となっていました。 文章の精査が甘く、意図とは異なる表現になっていたようです。深くお詫びします。 僕は同人出身ですので同人活動を応援したいし、同人活動を規制しようという考えは全くありません。続く>

    ▼7月8日22時01分投稿(2)
    続き>ただファン活動とは思えない営利目的の同人グッズ等が増え続けている現状を何らかの形で線引したいのです。非営利性の出版物等の同人活動はこれまで通りのスタンスです。ガイドラインの文章を明日中に誤解を産まないようなテキストに変更します。今しばらくお待ちください

    ▼7月8日22時01分投稿(3)
    同人活動を規制してしまったら、日本のコンテンツの未来に関わる大事件です。僕もニトロプラスを立ち上げていなかったかもしれません。さらに同人活動が発展し、優れたクリエイターが輩出される環境が育っていくことを願って止みません

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