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先生「このままだと将来は牛の糞を取るような仕事だからな!」→僕「その仕事がしたいんです」のその後

 牛農家の朝は、まだ夜も明けない薄暗いうちから始まります。世の中の人たちがそろそろ目を覚ます頃、かたや寒い牛舎の中で、スコップを手にせっせと糞取りをする子どもたちがいました。

 この糞取りの様子をツイートしたのは田中畜産の田中さん。但馬牛の生産地「兵庫県美方郡」で但馬牛の繁殖牧場・精肉販売・削蹄業を営む人物です。

  •  その普段の仕事は、毎朝5時頃から牛舎へ牛の様子を見に行き、あとは牛の爪切り(削蹄)の予約が入っている時は現場へ向かい、季節によっては放牧の準備や肉切りをするなど、日によって少しずつ違うそうです。しかし、「糞取り」という作業は牛を育てる上では日々欠かせないお仕事。臭いもあるし大変な作業ですが、「汚い仕事も子どもたちにとっては楽しい時間みたい」と、親である田中さんは微笑ましく見ています。例年なら1.5メートルほど積もる雪も、今年は少なかったそうなのですが、それでも朝の冷たい空気の中、ツーンっと鼻を刺す糞のニオイにも嫌がることなく、子どもたちは家業が忙しい時期や休みの日になるとはりきって手伝ってくれるとか。

     そんな子どもたちが楽しそうに糞取りをしている姿を見て、ふと田中さんは予備校時代に講師から言われた言葉を思い出したそうなのですが、それが後々クラスでこんなに話題になるとは、その時先生も全く予期していなかったことでしょう。

     その言葉が「このままだと君たちの将来は牛の糞を取るような仕事だからな!」というもの。

     生徒たちを「なんとか志望校に受からせてあげたい!」と生徒たちを鼓舞するつもりで言った一言が、結果的には牛飼いを目指す一人の生徒をぽかん……とさせることに! 予備校の先生もこの言葉を発した時は、まさか牛飼い志望の生徒がいるなんて思ってもみなかったようです。

     因みに、田中さん曰く「僕、その仕事がしたいんです」とその時言いましたよとのこと。田中さんも、予備校の先生も悪気があって言ったわけではないことはわかっており、周りのクラスメイトも田中さんが畜産の道を考えていることを知っている人たちばかりだったので、その日はその話題で持ち切りだったそうです。

     「その時、先生はあちゃー、やってしまった……という顔はされなかったのですか?」と伺ったところ、案の定、言葉を選ぶべきだったと先生も反省している様子だったとのこと。その過去のことを思い出して、結果として従業員ではなく経営者として牛に関わる仕事が出来て、日々ハードな仕事をしながらも、楽しく暮らしているそうです。

    https://twitter.com/tanakakazuma/status/1084930740205248512

     田中畜産さんでは、和牛繁殖農家と言い主に子牛を販売しているそうなのですが、牛舎には50頭母牛がいて、その子牛が35頭くらいいるとのこと。放牧は、春から秋までの温かい時期だけで、放牧する牛はその期間24時間ずっと山の中にいるそうです。因みに子牛は弱いため、放牧はしないそうで牛舎で8か月飼育して市場で販売するとか。田中さん曰く、放牧の仕方によって肉の味も変わってくるとのことでした。

     最後に「一頭あたり一日にどのぐらいの糞をするのか」気になり伺ってみたところ、肉牛は親だと糞の量は20キロもあるそうで、毎日糞取りの作業は、大人であってもかなりの重労働ということがわかります。それだけ手間暇をかけて、毎日の糞取りもかかさず、愛情をもって牛たちに接している田中さんや子どもたち。たかが糞取り、されど糞取り。人が嫌がる、やりたがらない事であったとしても、日々の一部を怠らずに続けることで田中さんのような今がある、そう筆者は思いました。他人にとっては、嫌なことでも、ある人にとっては大切なこと。それぞれが思う「大切なこと」は、誰にも否定できないし、自分が思う「大切なこと」とは違ったとしても、それは自分では感じられない世界が見えているのだから、尊敬に値する素晴らしい価値観だと思いました。

    <記事化協力>
    田中一馬さん(Twitter:@tanakakazuma / Instagram:tanatiku

    (黒田芽以)

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