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女子だけど理髪店デビューしてみた体験記

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 長年通っていた美容院の気心の知れた美容師さんが退職してしまい、ボーボーに伸びた髪の毛をもて余してどうするかと悩んでいた時に、顔剃りもしてくれるということで気になっていた「理髪店」の存在を思い出しました。

  •  美容院と理髪店は、「美容師法」と「理容師法」という法律で厳密に分けられているそうで、美容師の資格を取得した「美容師」が施術する店が「美容院」、理容師の資格を取得した「理容師」が施術する店が「理髪店」。理髪店のほかに、床屋、理容室とも呼ばれています。

     資格の違いは、「美容師」はパーマやお化粧などを施す技術を学んで「容姿を美しくするお手伝い」をするための資格。「理容師」は髪を切ったり、顔剃りの技術を学んで「身だしなみを整えるお手伝い」するための資格。美容院に顔剃りメニューがないのは、剃刀の使用が許可されているのは理容師の資格を持つ方に限られるためだそうです。

     国家資格を持つプロの顔剃りというのは非常に魅力的でしたが、以前、中堅の男性理容師から「理容師は基本的に男性の短髪しか経験してないから、女性が行くなら人を選ばないと、どえらい髪型にされる可能性がある」という、スキャンダラスながらも、もっともな内輪話を聞いたことがあったため、店選びは慎重に行いました。

     目星をつけた店は中年のご夫婦が営まれている理髪店で、お二人ともバイク乗りという情報から、自分もバイクに乗るので、ライダーという共通点に勝手に意味を見いだしました。とはいえ、ネット検索中に「稀に女性を歓迎しない店もある」という情報を目にしていたため、お店の雰囲気の確認もかねて一度直接出向いて、確認することに。

     訪れた時間は閉店まぎわ。清掃に集中していた奥様にいきなり声をかけてしまったためか、背後からつつかれた猫のように飛び上がって驚かせてしまいました。ごめんなさい……。

     「今度カットに伺いたいのですが、女性も大丈夫ですか?」とお尋ねすると、「おいくつくらいの方ですか?」と予想外に聞き返されたため、動揺してしまいました。
    その動揺のまま、「私」と言いたかったところつい「アタイです……」と答えると、相手は二度目のびっくり仰天。「あ……すみません、結構です」とそそくさその場を去ろうとしたところ、「年齢を尋ねたのは、まさか尋ねている本人が希望しているとは思わなかった」という説明。高齢の女性を伴って来店されるお客様がいるので、そのパターンだと思われたそうです。

     「周りが男性客ばかりでお嫌でなければ」というお返事だったので、予約ができるかをお尋ねしたところ、こちらのお店では予約は取っていないとのお返事でした。美容院では予約してからの来店が当たり前だったので驚きでしたが、そういえば理髪店では、よく人が待っているなと思い、納得。その日は失礼して、後日改めて訪れることを約束しつつお店を後にしたのでした。

      それから数日。「理髪店」初体験に備えて、再びネットで予習。どういう日が良いのだろうか、晴れか、雨か……などと、一人悶々と考えながら調べていると、「顔剃りがあるので化粧はしていかない方がいい」という有益なアドバイスを発見。自分のスッピンが周囲に与える衝撃を考慮して、街から人けが失せる大雨の平日を決行日に選択したのでした……!

     そして訪れた平日の大雨。悪天候にも関わらず、店に到着すると男性客が数人お待ちで怖じ気づいてしまいました。そこでいったん店を素通りして深呼吸。いざ!覚悟を決めて理髪店の扉を開けたのでした。

     店に入ると前に対応して下さった奥様が歓迎して招き入れて下さいました。心は思わず「飼い主を見つけた子犬」状態です。待合席に置いてある読み物からも、メインが男性客であることが明らかです。異質な客である私を先客の常連らしき年配の男性が不快に感じたりしないか気がかりでしたが杞憂のようでした。

     カットをして下さる奥様には「顎のラインくらいの前下がりのボブで」と、仕上がりの違いを比較しかったので、美容院と全く同じように伝えました。伸びきった私の髪にシャキシャキとハサミを入れながら、美容院はあまたとあるのに何故に理髪店へ?と興味津々のご様子です。

     顔剃りに魅力を感じて、勇気を振り絞って初めての理髪店に、こちらを選んで来たことを打ち明けると、とても喜んで下さいました。女性を歓迎しない理髪店もあるような情報があったので、店を選ぶ時は慎重になったとお伝えすると、店によってはあるかもしれないわねと否定はされていませんでした。理由は店によってそれぞれあるのでしょうが、女性のみ断るという対応から考えるに「メイク」でしょうか。あくまで想像ですが、顔剃りに支障をきたすようなので、落としてもらったり、化粧直しのためのスペースを店内に設けるのは店にとってはメリットに欠けるのかもしれません。

     奥様個人は女性客も大歓迎のようでしたが、「美容院のような華やかな店構えや接客ではないからね」と、積極的に女性を集客できる環境ではないことをおっしゃっていました。そんな風に、あれこれおしゃべりしながらもハサミは常に軽快に動き続けていて、カットはあっという間に終了。

     次はいよいよ待望の顔剃りです。温かいフワフワの泡をたっぷり含んだ刷毛が顔の上を滑りだした時に、初めてのはずなのに、「ん?なんだこの感触、知っているぞ…。」と思いました。「なんだっけ?」と考えていたら、友人の実家の柴犬に頬擦りした時の感触に近い……?(個人の感想です) 温かくて猫よりもザラザラとした毛が顔の上を行ったり来たりしています。

     次に、肌に触れているか、いないかの絶妙な圧でカミソリの刃が滑り出しました。この感じは初体験です!顎をクイッと上げた輪郭ラインから鼻の下の産毛まで丁寧に剃って頂き、眉毛と眉毛の間も小刻みに刃を動かして整えているのを感じて、「こ、これは自分では絶対にできない、理髪店に来てよかった!」と感じた瞬間でした。

     剃り終わると熱々の蒸しタオルで顔を包まれ、すっきりさっぱりとした肌の色はワントーン上がって垢抜けた印象で、指で触れるとモチモチとして吸いつくので、
    「産毛ってこんなに変わるほど影響していたのか!?」新鮮な驚きを感じました。

     次の洗髪では、奥様が「仰向けがいいわよね」とおっしゃるので、事前に予習していた「理髪店はうつ伏せで洗髪」を思い出しました。こちらのお店も基本はうつ伏せで洗髪するそうですが、様々な事情でうつ伏せになるのが難しい方もいるため、洗髪台に設置する仰向け洗髪用のクッションの準備があるそうです。

     理髪店ならではのうつ伏せ洗髪も体験してみたかったのですが、奥様がクッションを用意してくださったので仰向けで洗髪して頂きました。とても気持ちよく、美容院と全く変わらなかったのですが、使用されているシャンプーが男性仕様で油分を落とすことを前提にした強力なものだったのか、私の髪には洗浄力が強すぎたようで、後日の毛髪のパサつきが気になりました。

     香りもダンディなおじさまがつける整髪剤のような独特の苦みばしった強い香りで、家で何度かシャンプーしても香りが落ちず、好きな香りではなかったために数日間悩むことに。次回はマイルドなシャンプーがないかをお尋ねして、もし選択肢がないようなら湯洗いのみにして頂けないか相談してみようと思います。

     カットの仕上がりは、あくまでも個人の感想ですが、美容院よりも気に入りました。美容院ではドライヤーとブラシで念入りにブローをして完成型に到達でしたが、理髪店ではドライヤーを使う時間が圧倒的に短かく、乾かすだけでバチっとキマるカットに驚嘆しました。

     理容師さんの技術と、カットしてもらう側の髪質によるところは大きいですが、パーマ無しのショートカットやボブカットなら理髪店でお願いする方が、しっくりくると感じる女性は少なくないのではないかと感じます。

     今回行った理髪店では待ち時間を入れても、自分が知る美容院よりも短時間で済みました。これだけ手早く施術可能なので、予約無し営業が成立するのかなと思います。

     価格はカット、シャンプー、顔剃りセットで2500円(税込)と破格。私が探した理髪店の中で最安値でしたが、技術や設備に問題は感じませんでしたし、シャンプーはたまたま自分には合いませんでしたが、顔剃りなしで、カットの仕上がりも変わらない美容院では3倍近くの施術代を支払っていたため、申し訳ないくらい安価に感じました。

     理髪店初体験で、美容院しか知らなかったせいで考えが及ばなかった点に喫煙環境がありました。理髪店は、店内喫煙可の場合が少なからずあるようです。私が伺った理髪店は現在は店内禁煙ですが、最近までOKだったそうで店内に煙草の臭いが染みついていました。煙草が苦手な方は事前に店内での喫煙有無の確認した方がいいと思いました。

     私は顔剃りに興味があって理髪店の扉をノックするに至りましたが、なにかひとりでできる新鮮な経験を欲したり、気分転換が必要だと感じた時に、美容院を一回パスして理髪店にチャレンジするのはいい刺激になるかもしれません。万が一、気に入らないヘアスタイルにされても、髪はまた伸びるし!……くらいの気持ちで私は臨みました。

    (佐伯プリス)

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