みなさんは「ポイズンリムーバー」という、必殺技のような名前の道具をご存知でしょうか。アウトドア活動をされる方にはよく知られたアイテムですが、ハチなど毒のある生物に刺された際に、患部から毒針や有毒物質を吸い出す応急処置用品です。先日、インドアな筆者がうっかりハチに刺され、初めてその威力のお世話になりました。
そもそも、筆者がポイズンリムーバーなるアイテムを知ったのは、アウトドア好きな弊社編集長がアブに刺された時のこと。「くっ……こんな時にポイズンリムーバーさえあれば……!」と、なにやら変身アイテムを失ったヒーローのように呟いたのを見て、なにそのCGエフェクトが入りそうなアイテム……と思ったのですが、もちろんその場にはなかったので、自分の中では「伝説のアイテム」的なイメージだけが残りました。
■ついにポイズンリムーバーとの対面
それがつい先日のこと、筆者が公園のベンチに腰かけて景色を眺めていたら、突然、左手首に鋭い痛みが。あまりの激痛に「なにごと!?」と目をやると、筆者の手首に深々とお尻の針を突き立てたハチの姿。
振り払おうとしたものの、あまりに針が深く刺さっていたのか、全く逃げようとしないハチ。それどころか激しく腹部を動かして、さらにたっぷりと毒を注入しようとしているではありませんか!それほど大きなハチではないので何度も指で弾き飛ばそうとしますが、それでも離れてくれません。
声にならない悲鳴をあげつつ、5~6回弾いたところで、ようやくハチは白いラードのような塊を皮膚の上に残して飛び去っていきました。……ああ怖かった。
すぐさまウエットティッシュで皮膚をつまみ上げて毒を絞り出しにかかりましたが、何故か全然血が出ません。針が残っているらしく、それが邪魔してうまくいかないようです。ここでふと、編集長の「こんな時にポイズンリムーバーさえあれば」という言葉が頭に浮かびます……とはいえ、それが何なのかは分かっていないんですけども。
もはや自力では解決することはできないため、助けを求めて管理事務所に駆け込むと、樹木の多い公園での虫刺され事故は少なくないようで、すぐに事務員さんが細い筒状のプラスチックを持ってきてくれました。……もしや、これがポイズンリムーバー!?
事務員さんに質問すると「そうです」とのお返事。……そうかこれが。イメージでは光ったり回ったり、と特撮CGバシバシな感じでしたが、注射器によく似た外観です。
事務所に常備されていたのは、ポイズンリムーバーの中でも評判が高い、というフランスのブランドのもの。自分の片手だけでも処置ができるとのことでしたが、今回は扱いに慣れている事務員さんにお任せ。吸引力がいまひとつの製品もあると聞きますが、こちらは患部をみるみる吸い上げ、皮膚に残る針をも吸い出す頼もしい力強さでした。
吸い上げる動作につれ、筒内にジワジワと白い粘液が溜まっていくのを目の当たりにして、これが全部ハチの毒なのだとしたら、自力で絞り出すのは到底無理な量だと怯えます。吸盤のように患部に張り付いたポイズンリムーバーのパーツを外した後は、流水で充分に患部を洗い流し、市販の抗ヒスタミン軟膏を塗って応急処置は終わりました。
腰かけていたベンチが管理事務所の目の前だったこともあり、ハチにやられてから処置完了までは3分程度で済みました。個人の感覚では、もっとハチとの長い攻防があったような気がしましたが、インパクトの強い出来事は大袈裟に感じるものですね。
体質や既往症がある場合、ショック症状を起こす可能性もあるので、異変を感じたら病院に行ってくださいね、と言われたこともあり、その場でしばらく氷を当てて休みましたが、ポイズンリムーバーによる早い処置のおかげか、幸いなんともなし。少しの痛みや腫れは覚悟していたのに、拍子抜けするほど何も起こらず、翌日には皮膚に少し残っていた赤みも消え、すっかり回復していました。
症状や回復についてはハチの種類と筆者の体質も関係していると思うので、ポイズンリムーバーの処置だけで事なきを得たと断言することはできません。公共機関の注意情報によると、どんなハチでも刺されたら必ず腫れと痛みは発症するようなので、それらを回避できたことは事実ですし、非常に幸運でした。
■ポイズンリムーバーはどこで買える?
ポイズンリムーバーは通販のほか、アウトドアショップやキャンプ用品を扱うホームセンターなどで、安いものでは数百円で入手できます。第三者の手を借りず自分の片手だけで使えるものや、1回限りの使い捨て、毒を吸引したパーツのみ交換可能なものなど種類は様々。
自分の用途に適した製品を選べますが、価格はおおむね機能の充実度によって上下するので、購入する前にどれくらいの機能が必要か情報収集しておくと良いでしょう。
■日常生活にもポイズンリムーバー
売っている場所の関係で、アウトドアやキャンプで活躍する、という感じのポイズンリムーバー。日常生活では無縁と思ってしまいますが、毒のある虫やムカデなどは民家の鉢植えにも潜んでいますし、体質によっては耐えがたい痒みや腫れを引き起こす「蚊」の毒だって吸い出すこともできます。
筆者は猫がこの世で一番かわいい生き物だと思っているので、道端で見かけると、ついちょっかいを出して猫パンチをくらい、爪が少し刺さってしまうことがあるのですが、そんな時も患部から雑菌を吸い出し、流水と石鹸でしっかり洗っておくことで、その後の腫れや疼痛を回避するのに力を発揮してくれそうです。
ただし、ポイズンリムーバーはあくまで応急処置が目的の道具。使ったから大丈夫、と安心するのではなく、患部の洗浄や消毒、薬の塗布など、その後の処置については医師などの専門家の指示に従ってください。
また、チャドクガなどの毛虫は、毒のある細かい毛が多数刺さることで腫れや痛みを引き起こすので、ポイズンリムーバーでは対応できません。けして万能な道具ではないので、過信は禁物です。
※記事中のポイズンリムーバーの写真は、本稿用に改めて撮影したものです。
(佐伯プリス)