腰痛や打ち身に処方してもらう事の多い湿布薬。以前はモーラステープという湿布薬を日の当たる部分に使ったところ、光線過敏症でただれてしまった……という事も以前話題になりました。他にも使い過ぎてはいけない湿布も、実はあるのです。

【本稿について】
初出:2020年10月26日
更新:2022年3月13日
※初出時の内容に一部誤りがあり、更新いたしました。訂正理由、訂正箇所については記事末尾に掲載いたしております。

■ 痛み止めとして優秀なロキソニン。実は……

 大概の痛みに効果を発揮するロキソプロフェン(日本薬局方:ロキソプロフェンナトリウム)という薬剤名のロキソニン。飲み薬として処方される時は、大概胃薬がセットになって処方されます。何故でしょう?

 実はこのロキソプロフェンは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の中でもかなり効果が強いものに分類されます。それゆえ、打ち身や神経痛からリウマチの関節痛、手術や抜歯後の消炎鎮痛や炎症による発熱を抑える働きもあり、幅広く使われています。

 ただし、効果が強いものというのは、その分副作用も起きやすいもの。薬剤師や医師が参照する添付文書に記載された、主な副作用をざっと挙げるだけでも「浮腫、溶血性貧血、急性腎障害、うっ血性心不全、消化性潰瘍、消化管出血、消化管穿孔、小腸・大腸の狭窄・閉そく、過敏症、発疹、そう痒感、胃部不快感、食欲不振、下痢、便秘、胸やけ」と出てくるのですが、薬剤性のアレルギーによる蕁麻疹よりも、循環器から消化器に及ぼす症状が明らかに多く挙げられています。

 この消化器症状の副作用を打ち消すために、ロキソプロフェンを処方する時は胃粘膜保護などの効果を持つ胃薬が処方されることが多くあります。

■ 内服薬の飲み過ぎはダメなのは分かるけど、湿布も!?

 上述のように、ロキソプロフェンの内服についての副作用は案外強いという事は多くの人も知るところと思います。しかし、意外なのが、「湿布薬での副作用」。体に貼り付ける事でかぶれるという副作用も出がちですが、それ以外にも思わぬ落とし穴があるのです。

 ロキソプロフェンテープの薬剤情報が公表されていますが、その副作用の中に数々の皮膚症状とともに、胃不快感が。それ以外の副作用として「上腹部痛、下痢、軟便」といった消化器症状も含まれています。

 貼り薬なのに胃に症状が出るのです。これは、皮膚から吸収されたロキソプロフェンが患部で作用する以上に毛細血管から血流に取り込まれ、肝臓で薬剤を代謝しきれずに胃粘膜を荒らしてしまうという事が起きてしまうからなのです。

■ 痛いからと使いすぎると、胃に穴が開く……

 ロキソプロフェンの飲み過ぎで胃潰瘍が起こるのと同様、ロキソプロフェンの貼り薬も使いすぎると胃に副作用をきたします。胃には消化のために多くの毛細血管が胃粘膜の下に集まっています。ロキソプロフェンの成分が血流に乗って胃に到達すると、強く荒らす作用が出てしまいます。

 これは痛みを誘発する成分である「プロスタグランジン」という物質が体内で生成されるのですが、プロスタグランジンは胃粘膜の保護にも重要な役割を果たしています。ロキソプロフェンなどのNSAIDsがプロスタグランジンを抑え込んでしまうため、胃粘膜が荒れてしまいます。その結果、胃粘膜に潰瘍ができやすくなり酷いと穿孔といって胃粘膜などに穴が開いてしまう状態にもなりかねないのです。

 ロキソプロフェンの飲み薬では、その作用機序がはっきりとしているために胃薬も一緒に処方されていましたが、貼り薬に関しては「適切な量を適切に使う」事を前提としているため、副作用の発現する頻度が明確になるような臨床試験を実施していないこともあり、使いすぎる事による強い副作用はこれまであまり問題視されてきませんでした。

 しかし、高齢者に多い「肩も背中も腰も膝も」と全身のあちこちが痛い人が、1回8~10枚も体のあちこちに貼り付けていたら……。確実に使い過ぎになりますよね。

 医師や薬剤師の側も、そういった事がないように処方時には必ず「痛いところに1枚だけ、1日1回貼ってください」と説明するのですが、老化による体のあちこちの痛みに耐えきれずに体中に貼りまくっているという人も意外といます。

 そして、そういった人は、ほかの整形外科にかかっている事を言わずに2〜3軒の整形外科のクリニックなどをはしごして処方してもらい、ため込んでいる事も実際にありました。看護師は見たのです、その現場を……。

 筆者は看護師としてデイサービスに8年ほど勤務していました。自宅で入浴が困難な要介護者には入浴をしてもらうのですが、ある利用者さんは、入浴直後に湿布を両肩計4枚、腰に2枚、尻に2枚、膝に各1枚ずつ。合計10枚もの湿布薬を貼っていたのです……。

 そんなに貼って大丈夫なの?と聞くも、「痛いんだでしょうがないんだわ」と聞く耳も持たず……。

 ある日、その利用者さんのご家族から「入院したのでデイはお休みします」と連絡が。どうやら、湿布の貼りすぎによる胃潰瘍を発症したそうです。自宅で真っ黒な便が出て、胃がとても痛いという訴えにびっくりした家族が、救急外来へ連れていき胃カメラをしてもらったところ、潰瘍から穿孔を起こしてしまっていたそう。食欲不振を数週間訴えてはいましたが、まさか穴があくまでとは……と、他の職員とともに驚いた事は今でもよく覚えています。

■ 貼り薬でも、用法用量は必ず守って

 市販のロキソプロフェン入りの湿布は、処方薬よりも成分が若干少なめなおかげか、2020年の8月には、薬剤師が対面で指示をする第1類医薬品から、薬剤師が常駐していれば購入できる第2類医薬品への変更がなされました。

 ただ、市販の貼り薬は高いから……と複数のクリニックでロキソプロフェンテープを処方してもらうような事をしている人は、速やかにやめましょう。あちこちで湿布を貰って副作用を起こすより、一つの信用できる整形外科などで全身の痛みを総合的にみてもらい、副作用の少ない処方を受けるようにする事が大事ですよ。

 どうしても何枚も湿布を貼りたい人は、医師に相談したうえで、市販薬を併用するなど工夫をしましょう。また、高血圧や既往症があって服薬治療をしている方は、必ず「お薬手帳」などで服用している薬を示し、薬同士の相性(組み合わせによって薬の効果を弱めたり強めたりすることがある)を判断してもらうようにしてください。

【訂正(2022年3月13日)】
初出時、記載した内容の一部に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

▼訂正箇所
初出時:ロキソプロフェンの成分が血流に乗って胃に到達すると胃液と混じって強く荒らす作用が出てしまいます。

訂正内容:「胃液と混じって強く荒らす」が誤りでした。この箇所を削除するとともに、次の段落に説明を追加。参考文献も2つ(消化性潰瘍ガイド、消化性潰瘍診療ガイドライン2020)追加いたしました。

追加説明箇所:「これは痛みを誘発する成分である「プロスタグランジン」という物質が~胃粘膜などに穴が開いてしまう状態にもなりかねないのです。」まで。

参考:
日本薬局方 ロキソプロフェンナトリウム錠 – Pmda(PDF)
ロキソニンテープ50mg/ロキソニンテープ100mg
DIオンライン 「ロキソプロフェン外用薬が第2類医薬品に」
消化性潰瘍ガイド|患者さんとご家族のためのガイド|日本消化器病学会ガイドライン
消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)

(梓川みいな/正看護師)