フランス航空宇宙軍の戦闘機ラファールが中東・アジア諸国に遠征し、各国の戦闘機と共同訓練をするというツアー「Skyros」を2021年1月20日〜2月5日の日程で実施しました。このツアーではインド、UAE、エジプト、ギリシャを訪問。フランス軍の展開能力を実証するとともに、アジア太平洋地域における防衛戦略のあり方を示しました。

 ユーラシア大陸を股にかけた共同訓練ツアー「Skyros(ギリシャのスキロス島)」は、アジア太平洋地域の安全保障において、フランスが当事者能力を有することを内外に示すものとして企画されました。近年、アジア太平洋地域では東シナ海、南シナ海を中心に中国の進出が顕著になっているほか、地中海東部を中心とした地域ではロシアによる民間軍事会社(PMC)を通じた紛争介入が指摘されています。

「Skyros」リーフレットの表紙(Image:フランス航空宇宙軍)
訓練ツアー「Skyros」に参加したパイロット(Image:EMA)

 共同訓練ツアー「Skyros」では、フランス本国から4機のラファール、物資を積んだ2機のA400M輸送機、1機のA330MRTT空中給油・輸送機が参加。パイロットや整備員を含め、約170名がツアーに帯同します。

A330MRTTとA400M(Image:EMA)
A400Mへの物資搭載作業(Image:フランス航空宇宙軍)
訓練に帯同した医療兵(Image:EMA)

 ツアーの出発地はジブチ。フランス軍は、自衛隊がソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動で拠点を置く、ジブチ国際空港の敷地内に「第188ジブチ空軍基地」を開設しており、中東での拠点としています。ここには輸送機部隊のほか、ミラージュ2000-5を運用する3/11戦闘飛行隊「コルシカ」が駐留しています。

ジブチ駐留のフランス航空宇宙軍ミラージュ2000-5(Image:フランス航空宇宙軍)
ジブチでのラファール(イまげq:フランス航空宇宙軍)

 イギリス空軍の空中給油・輸送機の支援を受け、ジブチに到着したラファールは、まず現地で中東地域に習熟するための訓練を実施。そして1月20日に訓練が始まる最初の訪問国、インドへと向かいました。

ジブチでのラファール(Image:フランス航空宇宙軍)
空中給油を受けるラファール(Image:EMA)

 インドでは、北東部ラージャスターン州にあるジョードプル空軍基地を舞台に共同訓練「デザート・ナイト(砂漠の騎士)2021」を実施。1月24日までインド空軍のSu-30、ラファール、ミラージュ2000とともに戦術飛行や、A330MRTTを使用してインド空軍戦闘機に対し、空中給油訓練の機会を提供しました。

空中給油を受けるインド空軍戦闘機(Image:フランス航空宇宙軍)

 訓練に参加したフランス航空宇宙軍のシリル中佐は「フランスでは作戦行動のテンポを設定し、戦術面の指揮をするのは作戦指揮官なのですが、インドでは航空管制官がオーケストラのトップにいるんです」と、フランスとは違うインドならではの指揮命令系統に関心を示していました。

会話するフランスとインドのパイロット(Image:フランス航空宇宙軍)

 フランスとインドの共同訓練は「ガルーダ」という名称で定期的に実施されており、直近では2019年7月にフランスの第118モン=ド=マルサン基地にインド空軍が遠征して実施されています。インド空軍のバダウリア参謀長は「共同訓練は、フランスの技術面や運用面でのノウハウを吸収するチャンスです。インドとフランスの協力関係は、今後数年のうちに指数関数的に成長すると確信しています。私は両国及び両空軍の相互作用がこれまで以上に発展することを望んでいます」とのコメントを発表しています。

訓練に参加したフランスとインドの集合写真(Image:フランス航空宇宙軍)

 インドを後にしたフランスの戦闘機部隊は、UAEへ。UAEでは1月28日まで訓練が実施され、UAE空軍のF-16(4機)とミラージュ2000-9(4機)のほか、アメリカ空軍のF-15(6機)、そしてフランス航空宇宙軍1/7戦闘飛行隊「ブロヴァンス」からもラファール6機が参加し、非常に大規模なものとなりました。

フランスのラファール(先頭)とUAE空軍の戦闘機(Image:EMA)

 訓練では戦闘機部隊に加え、A330MRTT空中給油・輸送機や2機のガルフストリームA660(UAE空軍)、4機のAH-64アパッチ攻撃ヘリコプター(UAE空軍/アメリカ陸軍)、そしてアメリカの無人機MQ-1プレデターも参加。レッドチームとブルーチームに分かれ、互いに地上攻撃とその阻止というシナリオで訓練をしています。

UAEでのラファール(Image:EMA)

 続いての訪問国はエジプト。ここでは1月28日〜2月2日の日程で訓練が実施されました。エジプト空軍はフランス製のミラージュ2000とラファールのほか、アメリカ製のF-16、ロシア製のMiG-29を運用しています。

エジプトでの集合写真(Image:エジプト国防省)
エジプト(左)とフランス(右)のラファール(Image:EMA)

 訓練に参加したフランスのマヌエル中佐によると、多種多様な戦闘機を運用しているエジプト空軍の場合、それぞれの性能を把握した上で適切な運用をする必要があるといい、PowerPointなどを使って説明するなどしたそうです。「エジプトはNATO加盟国ではないので、作戦運用上の手順やノウハウは私たちと相違点がありますが、いくつかの共通点もあります」とも語っています。

スネフェル王の「屈折プラビッド」上空を飛ぶ戦闘機(Image:EMA)
空中給油を受けるエジプト空軍のラファール(Image:EMA)

 最後の訪問国は同じNATO加盟国のギリシャ。ミラージュ2000を運用しているほか、1月にはフランスからの中古機を含む18機のラファールを調達する契約が締結されたばかりです。

フランスのラファール(Image:EMA)

 ギリシャへのラファール1号機の引き渡しは2021年夏を予定しており、その後2年で18機を納入するというスケジュールとなっているため、ギリシャ空軍にとってはラファールの運用ノウハウを学ぶ絶好のチャンス。また、4月にはギリシャ空軍が主催する多国間共同訓練も予定されており、フランスとしてはその前段階の交流という側面もあります。

フランス航空宇宙軍のラファール(Image:フランス航空宇宙軍)
フランス航空宇宙軍ラファールのパイロット(Image:フランス航空宇宙軍)

 ギリシャでの共同訓練を終えた部隊は、そのままフランス本国へと帰還する予定です。出発地のジブチを含め、5か国を歴訪する今回の「Skyros」ツアーは、訪問国の空軍だけでなく、フランスにとっても機動的な戦力展開の良い訓練となったことでしょう。

<出典・引用>
フランス航空宇宙軍 Skyros特設ページ
インド空軍 プレスリリース
エジプト国防省 ニュースリリース
Image:フランス航空宇宙軍/EMA/エジプト国防省

(咲村珠樹)