おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

アメリカ空軍F-35 7年早く自動地表面衝突回避装置の実装開始

 アメリカ空軍とF-35プログラム・オフィス、ロッキード・マーティンの3者は2019年7月24日(アメリカ西部時間)、空軍のF-35AにAuto-GCAS(自動地表面衝突回避装置)の実装を開始したと発表しました。これは予定より7年早い実装となります。

  •  航空自衛隊初のF-35A飛行隊である第3航空団の第302飛行隊で、2019年4月9日に発生した墜落事故。F-35A初の墜落事故であり、F-35全体でも初の搭乗者死亡事故でした。防衛省が発表した資料によると、パイロットの空間識失調(バーティゴ)により、音速に近い速度で海面に衝突し、機体がバラバラに破壊されたものとされています。

     自分の飛んでいる姿勢が判断できなくなる空間識失調は、パイロットが最も恐れている事態のひとつ。自分がどの方向へ、どのような姿勢で飛行しているかの感覚が狂い、たとえ真っ逆さまに降下していても、それを認識できなくなるのです。

     自分が空間識失調に陥っているかどうかは、自分の感覚と計器の表示を見比べることで判断できます。しかし、そのような判断ができない場合、また急激な機動で予期せぬ大きなGがかかり、意識を失う「G-Loc(Gロック)」という状況に陥ると、自分で衝突回避の操作ができなくなります。

     このように、地表面や海面に接近しているのに、操縦者が回避操作を行えない(行わない)状況で、墜落を防ぐのが、自動地表面衝突回避装置「Auto-GCAS(Automatic Ground Collision Avoidance System)」です。元々はF-16用に、NASAとアメリカ空軍研究所、ロッキード・マーティンが共同開発しました。

     作動の原理は次の通り。地表面にぶつかる進路をとった状態で、設定された最低高度を過ぎても回避する操縦操作が行われない(操縦桿を通して入力されない)場合、コンピュータが自動的に回避操作を行い、地形追従レーダーを用いて地表面から離れる方向へ機体を導きます。その後、操縦者が操縦桿を操作すると、コンピュータは操縦への介入を終了し、通常の操縦形態に戻ります。操縦にコンピュータが介在する「フライ・バイ・ワイヤ」方式だからこそ実現した安全装置なのです。

     すでにAuto-GCASが実装されているF-16では、実装後の5年間で実装前の2014年以前と比較して、墜落事故が劇的に減っています。F-35では、2026年の実装を目指して開発が進められていましたが、F-16での経験から開発が順調に進み、計画より7年早い2019年4月からエドワーズ空軍基地の第412試験航空団で実証試験が行われてきました。

     アメリカ空軍F-35統合本部のダレン・ウィーズ中佐は「F-35へAuto-GCASが早期に実装されることは、急速に数を増やしているF-35にとって、安全性を高める大きな変化となります。まもなく始まるであろうフルレート生産にとっても重要ですし、様々な任務に携わるパイロット達にとっても福音となります」とコメントしています。

     Auto-GCAS開発チームは、この功績により、優れた航空技術に対して贈られるコリアー・トロフィを2019年に受賞したばかり。まずはアメリカ空軍のF-35Aからですが、続いて海兵隊のF-35B、海軍のF-35Cにも実装されます。

     いずれ航空自衛隊をはじめとする、各国のF-35にもAuto-GCASが実装され、パイロットを墜落事故から救ってくれることでしょう。航空自衛隊に起きた痛ましい事故が、同種の事故における最後のケースになることを願ってやみません。

    <出典・引用>
    ロッキード・マーティン プレスリリース
    アメリカ空軍 プレスリリース
    Image:Lockheed Martin/USAF/U.S.Navy

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 航空自衛隊のC-130Hを敬礼で見送るサンタ(画像:USAF)
    宇宙・航空

    航空自衛隊C-130が参加 人道支援任務「クリスマス・ドロップ作戦」

  • オランダ空軍のF-35A(画像:オランダ空軍)
    宇宙・航空

    オランダ空軍F-35Aが初度運用能力を獲得 実戦体制に移行

  • B61-12核爆弾の模擬弾を搭載したF-35A(画像:USAF)
    宇宙・航空

    アメリカ空軍F-35A 核爆弾投下試験を実施

  • カタール向けのF-15QA(Image:Boeing)
    宇宙・航空

    カタール向けF-15最新モデル「F-15QA」正式公開 パイロットの訓練も開始予…

  • スイス空軍の次期戦闘機に採用されたF-35A(Image:スイス連邦防衛・国民保護・スポーツ省)
    宇宙・航空

    スイス空軍次期戦闘機にF-35Aを36機調達 ペトリオット対空ミサイルも5セット…

  • 実弾を装備して空母クイーン・エリザベスから発艦するイギリスのF-35B(Image:Crown Copyright)
    宇宙・航空

    イギリスF-35B 対テロ作戦で初の実戦投入

  • ケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられるGPS IIIの5号機(Image:SpaceX)
    宇宙・航空

    測位精度が3倍に向上 次世代GPS衛星「GPS III」5号機の打ち上げ成功

  • 「レッドフラッグ・アラスカ21-2」のブリーフィングに参加する航空自衛隊のパイロット(Image:USAF)
    宇宙・航空

    航空自衛隊F-15 日米共同訓練「レッドフラッグ・アラスカ」に参加

  • イスラエル空軍のF-35パイロット(Image:イスラエル空軍)
    宇宙・航空

    4か国のF-35が集合!イタリアで共同訓練「ファルコン・ストライク」実施中

  • 空母プリンス・オブ・ウェールズに初着艦した第207飛行隊のF-35B(Image:Crown Copyright)
    宇宙・航空

    イギリス第2の空母プリンス・オブ・ウェールズにF-35B初飛来

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 介護未経験者全体の72.9%が将来に向けて「特に何も準備していない」
    社会, 経済

    仕事と介護の両立に不安85% ダスキンが「介護白書2025」で実態調査

  • プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

  • 美食祭 in 日本橋三越
    TV・ドラマ, エンタメ

    高見沢俊彦の“美しいメシ”100回記念 日本橋三越で初の美食祭

  • なか卯が“ウニの二大メニュー” 雲丹おろしうどんとウニ丼を9月17日から販売
    商品・物販, 経済

    なか卯が“ウニの二大メニュー” 雲丹おろしうどんとウニ丼を9月17日から販売

  • 掃除機「自動お手入れ機能」篇(15秒)
    商品・物販, 経済

    反町隆史、東芝新CMで料理や掃除に挑戦 家庭的な素顔ものぞかせる

  • 音楽劇「謎解きはディナーのあとで」(撮影:阿部章仁)
    エンタメ, 舞台

    上田竜也が毒舌執事に挑む 玉井詩織&橋本良亮と共演「謎解きはディナーのあとで」開…

  • トピックス

    1. 偽ファッション広告

      偽ファッション広告がGoogle広告に大量出現 サポート詐欺被害に注意

      2025年9月上旬からGoogle広告に偽ファッションサイトが急増。数秒で「Windows Defe…
    2. 邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      Webコンテンツ「絶対にバズるSNS」が9月15日公開。9月26日公開映画「俺ではない炎上」と連動し…
    3. 26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前にリリースされたMMORPG「Dark Ages」をご存じでしょうか。年月とともに人口は減少…

    編集部おすすめ

    1. 英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      日本でうなぎといえば、甘いタレをつけて香ばしく焼き上げた「蒲焼き」が定番のスタイル。白焼きなどもあるにはありますが、うなぎといえばやっぱり蒲…
    2. たこばさんの「糸こんにゃく炒飯」

      えっ…これ糸こんにゃく!?目も舌も騙される“ヘルシー炒飯”を実際に作ってみた

      「糸こんにゃくで作った炒飯が本物そっくりに仕上がる」と聞いたら、信じられるでしょうか。大阪市のたこ焼き店「たこ焼たこば」の店主がSNSに投稿…
    3. 虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズで清掃員の仕事を疑似体験しながら、非日常な体験に巻き込まれていく……そんな不思議な没入型体験イベント「どこか奇妙な職業体験 虎ノ…
    4. あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      子どもにとってかくれんぼは、ハラハラドキドキのスリリングな遊び。自分だけにしか分からないであろう隠れ場所を見つけて「ここなら大丈夫」「絶対見…
    5. プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      アニメ映画「映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!」公式は9月12日、「キミプリ♪ぬりえコンテスト」において…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト