スイス連邦防衛・国民保護・スポーツ省は2021年6月30日(現地時間)、連邦参事会がスイス空軍の次期戦闘機としてロッキード・マーティンのF-35Aを選定し、連邦議会に対して36機の調達を要請したと発表しました。あわせて新しい防空システムとして、レイセオンのペトリオット対空ミサイルを採用し、5セット分の調達も要請しています。
スイス空軍は現在、F-5E/FタイガーIIとF/A-18C/Dホーネットを運用していますが、どちらも2030年には耐用年数が寿命を迎え、退役することが予定されています。このため、後継となる戦闘機を選定する「Air2030」という計画が進められてきました。
スイスの要求に応じた候補機は、F/A-18E/Fスーパーホーネット(ボーイング)、F-35A(ロッキード・マーティン)、ユーロファイター(エアバス)、ラファール(ダッソー)の4機種。2019年にはパイエルヌ空軍基地に候補機が集まり、実機を使っての評価試験も実施されました。
また、防空システムも従来のエリコン35mm連装高射機関砲(かつては陸上自衛隊でも運用され、派生型は現在も87式自走高射機関砲や89式装甲戦闘車の主要武装として運用中)から、より長射程のミサイルに転換することが計画されました。こちらで候補となったのは、EurosamのASTER 30-SAMP/T(フランス)と、レイセオンのペトリオット(アメリカ)です。
スイスは永世中立国であると同時に、重要な国の決定に対しては国民投票を実施する直接民主制の国。このため、新しい戦闘機を導入するにあたり2020年9月27日に国民投票が行われ、60億スイスフラン(約7211億円)の予算上限で到達する計画決議が採択されました。防空システムについては、同じく20億スイスフランの計画が採択されています。
調達額の上限が決まり、評価試験の結果やメーカーからの提案をポイント化して評価したところ、戦闘機ではF-35Aが336ポイントを獲得し、2位以下を95ポイント以上引き離すという圧倒的な結果が公表されました。技術的なアドバンテージやデータ共有をはじめ、プロダクトサポートなども高評価だったといいます。
そして価格面においてもF-35Aは、2021年2月の最終提案時における36機分の調達コストが50億6800万スイスフラン(約6090億円)だったとのこと。支払い時までのインフレ分を考慮しても60億スイスフラン以内に収まると予想され、30年間の運用コストを加味した総コストは約155億スイスフラン(約1兆8600億円)となり、2位の候補機より約20億スイスフラン(約2400億円)ほど低かったとしています。
この結果に、ロッキード・マーティンでF-35プログラムを統括するブリジット・ローダーデール副社長は「スイスに選ばれたことを光栄に思っており、スイス政府や市民、空軍、そして業界各社と協力し、F-35を納入し維持することを楽しみにしています。この選定のより、スイスはF-35の記録的なプログラムに参加する15番目の国となり、他のヨーロッパにおける採用諸国とともに世界の空軍力と安全保障をさらに強化することになります」とのコメントを発表しました。
同時に、防空システム(対空ミサイル)の選定結果も公表され、こちらはレイセオンのペトリオットが採用されることとなりました。迎撃できる最高の高度や射程などの要素を勘案し、さらにスイス全土をカバーするために必要な5セット分の調達コストも19億7000万スイスフラン(約2370億円)と、20億スイスフランの予算内の収まることが明らかにされています。
永世中立国としてのスイスは、国防面で他国からの侵略を受けないだけでなく「他国の戦争に領土や領空が使用されない」ことを国是としています。他国の争いに巻き込まれない、利用されないための戦力として、新しく採用が決まった36機のF-35Aや5セットのペトリオットも、将来にわたって活用されていくことでしょう。
<出典・引用>
スイス連邦防衛・国民保護・スポーツ省 プレスリリース
ロッキード・マーティン ニュースリリース
Image:スイス連邦防衛・国民保護・スポーツ省
(咲村珠樹)