おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

友禅染に新たな切り口を 「手描き友禅」の可能性を広める友禅師・水野可菜

 「家具職人の祖父の背中に憧れて職人を志したんです」

 水野可菜さん(以下、水野さん)は、「手描き友禅」という手法を用いた友禅師。現在は「水ノ友禅工房」という屋号で、愛知県名古屋市を拠点に作家活動をされています。作品は、小物類を多く取り扱っているのが特徴。その理由について、先日Twitterで語りました。

  • 「よく『小物は利益に繋がらない』と言われます。
    着物と同じ染め方をしているなら、小物よりも着物を染めた方がいいという理屈だと思うのですが、着物を着ない人が手描き友禅染に触れてもらえる機会になったりするので、わたしは小物、作り続けたいです」

     そんなつぶやきを添えつつ、先述の小物類を紹介した水野さん。「青海波」「雪輪」といった模様や、「花」「苺」などのモチーフを、布に染めこんでデザインされた「名刺入れ」のようです。

    この日自身の小物類の作品を紹介した投稿者。

    いずれも名刺入れの模様。

    自身の職人としての評価が高まったきっかけともいいます。

     「友禅染」といえば着物やその帯で多く用いられる染色技法ですが、それもあってか高価なものになりがち。仮に興味を持ったとしても、購入には若干のハードルを要します。

     「なので、年配の職人から見れば、『同じ仕事(手描き友禅)をするなら、着物の方が単価が良い』という旨の言葉を発する方もいるんです」

     今回の投稿に至った背景を語る水野さん。自身のこれまでの境遇も大きな要因だと言います。

     「私は15歳のときに『手描き友禅染』に出会い、18歳で住み込み修行をはじめました。その後、数々の工房を渡り歩きながら技術を学び、25歳のときから『水ノ友禅工房』として作家活動を開始しています」

     「一方で私は、住み込み先を離れてからあまり仕事に恵まれず、特に名古屋に拠点を移してからは、取引先を獲得できない日々が続きました。そんなときに、『数寄屋袋』『懐紙入れ』『名刺入れ』といった小物に対して、お茶を習っている方からリピーターになっていただいたり、オーダーメイドで注文が来たりとご好評いただいています。職人としての『手ごたえ』を感じさせてくれたものでもあるんです」

     作りあげた小物類を、水野さんはハンドメイドサイト「creema」などで販売しています。価格でいうと数千円程度。「着物を着たことがない若い方にも、手に取ってくれるようになったのが何より嬉しかったですね」と、その効果について語ります。

     なお、水野さんは、着物や帯なども手掛けており、昨年(2021年)に名古屋で開催された「中部染色展」では、出展した訪問着が中日新聞賞を受賞するなどして評価されています。

    地元・名古屋で開催された展示会では賞を受賞するなど、職人としても評価されています。

     今回の水野さんの投稿は、「ロングテールの法則」にも通じる話でもあります。これは「メイン商材」と同じくらい、「ニッチ商材」もまた重要という意味合いを有すということ。友禅染でいえば、「着物」「帯」が前者(メイン商材)に当てはまり、水野さんが今回紹介した「小物類」が後者(ニッチ商材)に分類されます。

     筆者は以前、小売関係の仕事に就いていた時期がありますが、商売をする際は、「ニッチ商材」の取り扱い方で、繁盛するか否かを左右するときが意外にもあります。

     しかしながら、優先度が高いのはもちろんのこと「メイン」。コストメリットもさほど見いだせない「ニッチ」を上手く組み込んでいくには、一種のテクニックも必要となっていきます。価格幅の大きい友禅染だと言わずもがなでしょう。「より多くの方に手描き友禅染に触れてもらえたら」という想いは、ある程度の収益性を確保することも必要な要素でもあります。

     その点に関し、水野さんは、既に十分な配慮をした上で展開されていました。その詳細についても、お答えいただいております。

     「私が取り扱う小物類は、全て着物を染めた際の『ハギレ』で染めたものなんです。なので『製作費』から見ても、それを廃棄するより有効活用ができています。ちゃんと手間をかけても大丈夫なよう、『サステナブル』なやりくりをしております」

    <記事化協力>
    友禅師 水野可菜さん(Twitter:@yuzen_kanahan/Instagram:@mizuno_yuzen)
    水ノ友禅工房

    (向山純平)

    あわせて読みたい関連記事
  • 西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデザイン
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデ…

  • スーツに付いたシミ汚れを絵付けで解決 袖にかわいらしいフクロウが登場
    インターネット, おもしろ

    スーツに付いたシミ汚れを絵付けで解決 袖にかわいらしいフクロウが登場

  • 着物を着た飼い主の足元にじゃれつく仔猫たち
    インターネット, 感動・ほのぼの

    猫は着物好き!?着物を着た飼い主の足元で戯れる仔猫たち

  • 「女のクセに」「女なのに」鍛刀場に寄せられる心ない声に女性村下が提言
    インターネット, 社会・物議

    「女のクセに」「女なのに」鍛刀場に寄せられる心ない声に女性村下が提言

  • スクエニクリエイターに焦点を当てた企画展 名古屋で2024年2月開催
    イベント・キャンペーン, ゲーム

    スクエニクリエイターに焦点を当てた企画展 名古屋で2024年2月開催

  • 「#Tokyo Tokyo BASE」が羽田空港第3ターミナルに開設 オープニングセレモニーにハローキティも登場
    イベント・キャンペーン, 経済

    東京ブランドのPR拠点「#Tokyo Tokyo BASE」が羽田空港第3ターミ…

  • 手描友禅染工房「池内友禅」が魅せる「引き染め」という新たな可能性。
    インターネット, びっくり・驚き

    手描友禅染工房「池内友禅」の「染め替え」に京きものの新たな可能性を見る

  • それはあなただけの「とっておき」。予約3年待ちかんざし作家・横田涼子。
    インターネット, サービス・テクノロジー

    予約3年待ちのかんざし作家・横田涼子が生み出す一粒の宝飾

  • 着物の隠れた収納場所図解(大西里枝さん提供)
    インターネット, おもしろ

    見かけより色々入るんです 着物の隠れた収納力に驚愕

  • 1500年超の伝統を守り続けるために。墨の伝道師・長野睦の挑戦。
    社会, 経済

    伝統を守り続けるために 「墨の伝道師」長野睦の挑戦

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • TikTok収益トラブルはシステム不具合 公式が謝罪と対応方針を示す
    インターネット, サービス・テクノロジー

    TikTok収益トラブルはシステム不具合 公式が謝罪と対応方針を示す

  • Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

  • ミライ人間洗濯機
    企業・サービス, 経済

    ミナミのホテルで「人間洗濯機」稼働開始 大阪・関西万博で注目の装置

  • ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念
    社会, 経済

    ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

  • KADOKAWAの「PressWalker」、2026年2月25日でサービス終了を発表 開始から約4年で幕
    企業・サービス, 経済

    KADOKAWAの「PressWalker」、2026年2月25日でサービス終了…

  • YouTube Premiumアドオン、日本を含む5か国で新たに提供へ Google Oneとセットで割安に
    インターネット, サービス・テクノロジー

    YouTube Premiumアドオン、日本を含む5か国で新たに提供へ Goog…

  • トピックス

    1. ミライ人間洗濯機

      ミナミのホテルで「人間洗濯機」稼働開始 大阪・関西万博で注目の装置

      大阪・関西万博で注目を集めた「人間洗濯機」が、ついに大阪・ミナミのホテルで稼働を始めました。導入した…
    2. ティーバッグ使用時の悩みを解決「二番煎じ待機スタンド」 デザインを学ぶ大学院生が製作

      ティーバッグ使用時の悩みを解決「二番煎じ待機スタンド」 デザインを学ぶ大学院生が製作

      ティーバッグ、一度だけ使って捨てるのはもったいなくて、何度も繰り返し使ってしまいますよね。でも、浸し…
    3. 運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      運営者の終活で老舗CGIサイトが終了へ 1995年開設「CGI RESCUE」、2026年3月に幕

      1995年から続く老舗CGI配布サイト「CGI RESCUE」が2026年3月末での終了を発表しまし…

    編集部おすすめ

    1. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    2. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    3. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    4. 「美味しい」じゃない、“非日常の食べ物”をめぐる5冊

      「美味しい」じゃない、“非日常の食べ物”をめぐる5冊

      「刑務所メシ」「くさい食べ物」「辺境メシ」「イスラム圏の飲酒」「殺し屋のダイナー」など、日常を外れた“食べ物”をテーマにした5冊を紹介します…
    5. 快活フロンティアの発表

      快活CLUB不正アクセスと“天才ハッカー美談”の危うさ──真面目な技術者を傷つける誤った称賛

      快活CLUB公式アプリへの不正アクセスで会員情報700万件超が漏えいした事件で、高校2年の男子生徒が逮捕された。ネットでは「将来有望なホワイ…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト