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メイドロボカフェ実現に向け開発中!総務省も支援する「MaSiRo」プロジェクト

 アニメやゲームではポピュラーな「メイドロボ」。フィクションの産物であるそれを具現化し、接客までするカフェを作ろうというプロジェクトが日本で進行しています。

 総務省の「異能vationプログラム」挑戦者に認定され、支援も受けてメイドロボカフェ実現を目指す「MaSiRoプロジェクト」。生みの親であるA_sayさんに話をうかがいました。

  •  現在、ロボットベンチャー企業で、産業用ロボットのエンジニアとして働くA_sayさん。小学生の頃からロボットを自作するような工作好き、ロボット好きだったといいます。

     プロジェクトの源流についてうかがうと、小学校高学年の頃、当時見ていた深夜アニメが最終回を迎え、大きな喪失感を覚えた経験が大きかった、と語ってくれました。

     「どうすればこの喪失感をなくせるだろうか?どうすれば物語が最終回を迎えないのだろうか、と当時の私が考えた結果、『ロボット技術を使って、アニメのキャラクターを現実にすればいいんだ』という結論を出しました」

     いわゆる「俺の嫁」としてアニメキャラをロボット化するわけですが、成長するにつれ、別の思いも頭をもたげます。自分が死んだら、残されたロボットはどうなるのだろうか……?

     「私がこの世を去っても、ロボットたちには生き続けてほしい。そのためには、ロボットたちはみんなが会いに来られる場所で、人の役に立って、人々から必要とされ愛され続けないといけない。そんな場として『メイドロボカフェ』を作ろう……そうして、現在のコンセプトに至りました」

     生みの親がいなくなっても、ロボットたちが存在できる場としてのメイドロボカフェ、という一種の親心からスタートした「MaSiRoプロジェクト」。名称は「Maid Apprentice Substantiating Ideal RObot(理想メイド実現のためのメイド見習い)」のアクロニムとなっています。

    「MaSiRoプロジェクト」ロゴ(A_sayさん提供)

     このプロジェクトの象徴であり、研究開発プラットフォームでもあるメイドロボットが「ましろ」です。まだフレームとダンボール箱の仮ボディで、初めて動いたのは2018年2月18日。この日がましろの誕生日となりました。

    「ましろ」の原形(A_sayさん提供)

     当時はまだ大学生だったA_sayさん。ほぼ独力で細々と開発を続け、進捗状況をTwitterに投稿していましたが、手を繋いで一緒に移動してくれる「ましろ」の動画が拡散され、顔の造形ができるメンバーなど、徐々にプロジェクトに参加する人々が増え、開発が進み始めます。

     その後、社会人となり、大手メーカーから現在のロボットベンチャー企業に移ったことを機に上京。すると、プロジェクトに参加を申し出てくれるメンバーがさらに増え、開発は大幅に加速。

     A_sayさんのメイドロボで、大きな特徴なのが「人間と手を繋いで一緒に移動する」機能。手を引かれて追従するだけでなく、手を繋いだ人間の方へ顔を向けるということもしてくれます。

    手を繋いで移動できるのが最大の特徴(A_sayさん提供)

     人間型ロボット(ヒューマノイド)の理想は2足歩行ですが、人間と手を繋いで一緒に移動する、というのは、重心を絶えず人間によって動かされる中でバランスを保って歩行する、という非常に複雑な制御が必要。

     このため、ましろは車輪で移動する現実的な機構を採用。腕に内蔵された角度センサーで「繋いだ手の動き」を感じ、それに合わせて追従し移動する仕組みになっています。人間同士が手を繋いで歩く際も、相手を見続けて距離を測ることなく、手の感覚のみで歩くペースを調整しているので、同様の仕組みといえるかもしれません。

     相手の顔を見るようにするため、首には人間同様3軸の自由度を設定。これにより、振り向いたりうなずくだけでなく、小首を傾げる動作も可能になっています。

    「ましろ」のデモンストレーション(A_sayさん提供)

     目の部分は色々な表情を可能にするため、左右が独立した液晶ディスプレイで表現。まばたきやウインクなど、まぶたパーツを複雑に制御しなくてもイキイキとした感情表現ができます。「目を回す」などの漫画的表現も、これなら難なく実現できそう。

     メイドの象徴ともいえるカチューシャ(ヘッドドレス)にはデプスカメラを内蔵し、手のひらには「人肌」を検知する温度センサー。頭には静電容量センサーがあり、人間から撫でられたことを検知し反応することもできます。

     開発が進むにつれ、ロボット1台ではデモンストレーションと研究開発作業を両立させることが難しくなってきました。そこで、クラウドファンディングで「ましろの妹」を作る費用を募集したところ、当初の目標を大きく上回る金額が集まり、ストレッチゴールとして設定した「2台製作」が可能に。

     こうして誕生したのが、ひとまわり小さな双子の妹ロボット「ちろ」と「ちや」です。名前の由来は「ちまっとしたましろ」で「ちろ」、ちろを白のイメージカラーで作ることにしたので、反対の黒からイメージされる「夜」から「ちや」になりました。

    左から「ちろ」「ちや」(A_sayさん提供)

     ちろ&ちやは、ましろによって確立した技術を注ぎ込んで作られた、手繋ぎメイドロボのデモンストレーション役という存在。様々なイベントに参加し、ロボットと手を繋いで歩く、という体験を提供しています。

     展示会などでの反応をうかがうと、ロボットと手を繋ぐだけでなく、手の感覚や視覚でロボットの存在を意識しながら歩くことで、ロボットたちが生きているように感じ、愛着を持ってくれる方が多いのだそうです。

    小さな子と手を繋ぐ「ちや」(A_sayさん提供)

     ましろではカメラを頭上のカチューシャに内蔵しましたが、人間と触れ合える近距離になると目線の位置が微妙にずれてしまうのが課題でした。そこで、ちろ&ちやは目と同じ高さに「ロボ耳」を作り、そこにカメラを内蔵することで目線のずれを克服。人間が自然に「ロボットと目を合わせる」ことを可能にしました。

     また、体を低くする機能は副次的に「膝枕」を実現。メイドロボに膝枕してもらう、というフィクションの表現を現実のものにしてくれました。

    膝枕も可能(A_sayさん提供)

     デモンストレーションの役目を妹ロボットに託したことで、ましろは更なる進化に向けて動き出しました。カフェの店員として働くための「自律移動」と「ものを運ぶ」機能の開発です。

    缶コーヒーを差し出すましろ(A_sayさん提供)

     ましろにはカメラが装着されていますが、これに加え、足元部分にLIDAR(レーザー光による検知・測距装置)を内蔵。障害物を認識し、避けて通れるようになっているんだとか。

     これまで手繋ぎ移動専用だった腕も、ものを運べるよう仕様を変更。モーター出力や機械的強度の問題で軽いものしか持てませんが、手首に3軸の自由度を与えたことで、水平に持ったまま移動させることが可能になったほか、筆記用具を持って文字を書くことにも成功しました。

    文字を書くことにも成功(A_sayさん提供)

     MaSiRoプロジェクトは、2021年度の総務省「異能vationプログラム」における「破壊的な挑戦部門」挑戦者に選出され、開発が進められています。2022年8月27日〜28日に福島県の磐梯熱海温泉で開催される「日本SF大会(F-CON)」にも参加し、デモンストレーションが行われるとのこと。

     また、2022年の10月上旬には、メイドロボカフェの実証を行う実験店舗が3日間限定で開催される予定です。徐々に構想が実現していく中、ファンアート(ハッシュタグ「MaSiRoBoArt」で検索可能)を寄せてくれる人も増えてきているんだとか。

    メイドロボが迎える実験店舗も実施予定(A_sayさん提供)

     現在プロジェクトでは、ましろたちメイドロボ3姉妹の継続的な成長を目的とし、月額で支援可能なPIXIV FANBOXを実施しているほか、BOOTHにてグッズ販売も行っています。興味を持たれた方は、MaSiRoプロジェクト公式サイトのほか、進捗状況が報告されるTwitterとYouTubeチャンネルをチェックしておくとよさそうです。

    <記事化協力>
    A_say@メイドロボットましろパパさん(@A_says_)

    (咲村珠樹)

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