刺繍の中でも、クロスステッチはドット絵のように縫い目を作っていくので、大作となると写真のようなリアル感が特徴。しかし、小品でもなかなか味のある表現が可能です。
2人組の刺繍ユニット「WEEKENDSTITCH」が手がけた「針山食堂」は、直径約5.5cmの小品ながら、さまざまな丼ものがモチーフになった作品。それぞれの特徴を捉え、見るからに美味しそうなメニューが揃います。
元々は住宅メーカーでCADの開発をする先輩後輩だった、という「WEEKENDSTITCH」のお2人。手芸とは全く関係ない世界にいたそうですが、お互いに退職し、それぞれのお子さんが小学校に入学する頃にクロスステッチに出会ったことがきっかけとなり、2013年よりユニットとして活動されているのだとか。
この「針山食堂」シリーズは、もともとハンドメイド作品のオンラインマーケットminneが主催する「ハンドメイド大賞」への応募作として、2017年に作られたもの。クロスステッチの可能性を示すインパクトある作品にしようと、大きく写真のようにリアルな作品をギュッと凝縮したら面白いのでは、とチャレンジしたのだそうです。
メニューは定番のカツ丼や海鮮丼をはじめ、全部で7種類。直径は手の中に収まる5.5cmほど、丼に入っているので針山としてもちょうど良く、デザインの楽しさと実用性が両立しています。サイズ的に、爪楊枝が箸としてピッタリな感じですね。
賞への出品作だったこともあって、締め切りまで5日に1品のペースで作っていったとのこと。色合いを細かく再現するため、カレー丼の場合はカレールーの部分に15色、ご飯にも8色の刺繍糸が使われ、陰影が表現されています。
「ひとつを休憩なし(無理ですが)で刺しても刺繍だけで12時間はかかりますし、刺してる時は本当にこれが丼に見えるか自信がなくて、私は何をやっているんだろうって気分になりました(笑)」
刺している時は平面の状態ですから、中に詰め物が入って立体的になり、丼に入っての完成形を想像するのは難しかった様子。この辺りは、平面の絵画的表現をすることの多いクロスステッチとしては、毛色の違った作品だからこそ、という感じですね。
ご自身でお気に入りの丼をうかがうと「カツ丼です」とのお答え。「イベントなどでお客様に見てもらうと一番にわかってもらえるのと、このこんもりした感じがリアルで好きです」と話してくれました。
ほかにもラーメンを見た方から「湯気が見える気がする」と言われた時も嬉しかったのだとか。デザインし、刺繍している時の苦労が報われる瞬間ですね。
この作品、minneのハンドメイド大賞では最終ノミネートに残ったものの、残念ながら受賞は逃してしまったとのこと。しかし、Twitterに投稿したことがきっかけで感想が寄せられるようになり、今では「お店に実際にあるどんぶりやラーメンを作ってみたり、また種類を増やすのも楽しいかなと考えています」とも語ってくれました。
この「針山食堂」シリーズをはじめ、WEEKENDSTITCHのお2人は「和のモチーフをちょっと洋な雰囲気で」という作品を多く発表しています。福島フェスをきっかけに、現在は福島県は会津地方の民芸品である「赤べこ」をモチーフにしたシリーズをメインにされているとのこと。
赤べこも、体の模様がハート型になっているものがあったりと、ちょっとした遊び心があるのが特徴。作品はminneでの通販だけでなく、福島県会津若松市の福西本店、福島市大町のentといった実店舗でも作品が販売されています。公式サイトには各種通販サイトへのリンクも設置されています。
5.5cmほどの針山食堂。
カレーだとルーに15色、ごはんに8色の刺繍糸を使用しています。
ひとつ休憩なしで刺しても12時間はかかります・・。 pic.twitter.com/jflmAOIhLD— WEEKENDSTITCHデザフェス5/18.19 P-90 (@WEEKENDSTITCH) September 1, 2022
<記事化協力>
WEEKENDSTITCHさん(@WEEKENDSTITCH)
(咲村珠樹)