手作りのほか、コンビニやチェーンの店でも購入できる、我々の日常には欠かせないお弁当。
そんな弁当について、先日Xで東京・日本橋にある「弁松」というお店の投稿が話題になっていました。なんと“現存する日本最古”の弁当屋なのだそう。日本最古のお弁当とはどんなものなのか……実際に食べにいってみました。
■ 食事処のお持ち帰りサービスが始まり!現存する日本最古の弁当屋、弁松
“現存する日本最古”の弁当屋の名前は日本橋弁松総本店(以下、弁松)。
文化7年(1810年)に樋口与一が創業した「樋口屋」という店が、客が残してしまった料理を、経木や竹の皮に包んで持ち帰ってもらうようにしたのが始まりだそう。
持ち帰りが客の間で好評を博し、そのうちに「最初から持ち帰りにしてくれ」という注文が続出。そして嘉永3年(1850年)、3代目・樋口松次郎のころに弁当販売が主流となったとのこと。そのころに形態を食事処から折詰弁当専門店に変更、屋号も「弁当屋の松次郎」を縮めて「弁松」とし、以来175年にわたって味と文化を守り続けているといいます。
現在の店主は8代目。店舗自体は創業当初からだいたいは同じ場所にあるものの、関東大震災と空襲によって二度近隣が更地になっているそうで、そのたびに少しずつ変わっているとのこと。教科書クラスの出来事を2度も乗り越えているところに、歴史の重みを感じます。
弁松の味の特徴は江戸っ子が好んだ「甘辛の濃ゆい味」。Xに投稿されていた煮物の色味からも、濃いめ味付けが容易に想像できます。
こうした味の背景には「日持ちさせるために濃くした」「肉体労働に耐えられるようカロリーを高くするために濃くした」「砂糖が高価な時代に江戸っ子は見栄を張って沢山入れた」といったものがあり、どことなく歴史の息吹を感じます。
175年にわたって江戸の味を継承している弁松。今回取材に対応してくれた担当者によると「今では他にない味になってしまったことの価値を感じるのが喜び」と話す一方で、「仕込みからいちいち手間がかかり、人手がいるのですが、人手不足というのが難しいところ」と老舗だからこその苦労もあると言います。
それでも伝統の味が変われば「弁松のお弁当ではなくなる」という思いから、味は薄めることなく作り方は維持しているとのこと。
今回のXの投稿でお店を知った人たちに向けて「江戸文化の体験として、まずは一度ご賞味いただければ」といった思いを明かしてくれました。
■ 意気揚々と直営店に出向くも、即完売!出直そうかと思っていると……
投稿を見て実際にお弁当を食べてみたくなった筆者は、週末を利用して弁松の直営店舗に足を運んでみました。
土日の弁松は営業開始が午前9時半で、営業終了は12時半。筆者が訪れたのは11時過ぎごろと遅い時間だったせいか、すでに完売した後でした。
お店の方によれば近隣はオフィスビルが多く、会社員の方々があまり出てこない土日は、そもそも販売数が少ないのだとか。
平日も売り切れは早いようですが、販売数が多いので、土日ほどすぐにはなくならないとのこと。ただ、確実に食べたい場合は予約がおすすめだそうです。
完売してしまったのなら仕方がありません。平日に予約を入れて出直そうかと思っていると、お店の方が「三越日本橋店でも同じものを売っていますよ」と教えてくれました。
実は直営店舗や三越日本橋店のほか、三越銀座店、伊勢丹新宿店、大丸東京店、高島屋日本橋店、高島屋新宿店、明治屋広尾ストアー、明治屋京橋ストアー、そごう千葉店(水・木・金・土・日曜日のみ)、ピーコックストアという百貨店・スーパーで取り扱いがあるとのことでした。(高島屋の高は正しくははしごだか)
直営店から徒歩数分のところにある三越日本橋店に移動し、本館地下1階の食品売り場で無事購入することが出来ました。
■ 白米が止まらなくなる濃い味!
今回購入したのは「白詰」と呼ばれるお弁当で、価格は1231円です。
歴史と伝統を感じる商標入りの掛け紙を剥くと、経木の折り箱に詰められたお弁当が姿を表します。
左手が白飯、右手がおかずという構成。白飯の上には青い梅干しがちょこんとのっています。
右手のおかずの内容は、めかじき照焼、玉子焼、かまぼこ、甘煮(つと麩、蓮根、里芋、揚ボール(魚肉)、筍、椎茸、いんげん)、生姜辛煮となっています。
蓋をとるとほのかに立ち上ってくる煮物の甘い香り。食欲をそそられます。
何から食べようかと迷いつつ、まずは玉子焼からひと口。
ああ……甘い味付けとふっくらした食感が染みる……。
ほかのおかずも早く!と食欲に背中に押され、お次は椎茸。一目で味がよく染み込んでいることがわかる傘の色です。
食感はやや硬めで、しっかりした歯応えを感じます。椎茸の旨みに煮物の甘さが加わって、これはもう白米を食べずにはいられない!
まずはおかずを食べてから白米に行こうと思っていたのですが、欲に負けていきなり白飯へ。合う。煮物の甘さが白米に合う!!
一気にかき込みたい気持ちはさすがに堪えて、次のおかずに箸を移します。
次に決めたおかずはつと麩。穴の空いていないちくわぶといった見た目の生麩で、食感はちくわぶよりももっちりめ。ちくわぶ好きの筆者は、一口で虜にされました。これも米が進む。
歯ごたえのいいタケノコに、ねっとりと滑らかな里芋、シャキシャキの蓮根、ムチっとした魚肉の揚ボール。同じ味付けの甘煮でも、それぞれの素材が持つ本来の味と、食感が全部違っていて、全く違う料理を食べているかのよう。そしていずれも濃くて甘い味付けで、白米を食べる手も止まりません。
煮物で甘くなった口の中を少し変えたい時は、生姜の辛煮やめかじきの照り焼きを食べるとよし!
生姜はピリッとした辛味が強く出ていて、口の中をさっぱり締めてくれます。めかじきも甘じょっぱい照焼の味付けで、これもまた白米との相性が抜群。
どのおかずも白米を進める味をしていて「白米もっと欲しい!!」と心の中で嬉しい悲鳴が上がります。さらにおかずエリアの壁をくぐり抜けた煮汁を吸った、染み染みの白米も最高です。
甘い味、しょっぱい味、辛い味と幅広い味わいが楽しめ、実際のお弁当のサイズよりも大きな満足感がありました。
日本最古、175年という歴史に思いを馳せると、味わいはさらに深まります。お弁当を通じて、自分が歴史の登場人物の1人として、確かにここに存在しているのだという嬉しさも感じます。
175年続くこのお弁当が、175年後の未来でも親しまれていてほしいですね。
現存する中では日本で最古の弁当屋ですが、たいした認知度はないので、今日も一人でも新しい方に知っていただくために画像投下します。
あぐらをかいているヒマはないです😌 pic.twitter.com/52zNLog3OU— 日本橋弁松総本店 (@benmatsu1850) March 20, 2025
<記事化協力>
日本橋弁松総本店(公式HP:benmatsu.com/公式X:@benmatsu1850)
(ヨシクラミク)