軍では様々なロボットが実用化に向けて試験されていますが、アメリカ空軍で警備犬の補助として期待されているロボットが、実際の基地警備任務における可能性を探るべく、イリノイ州スコット空軍基地で実証試験が始まっています。犬のように吠えたり噛んだりはできませんが、さて、どうなるでしょうか。

 基地に不審者が立ち入らないよう、巡回警備する任務を「歩哨(ほしょう)」といい、兵とともに任務に従事する犬を歩哨犬といいます。アメリカではコードナンバーから「K-9(ケーナイン)」とも呼ばれ、ハンドラーと呼ばれる兵士とペアを組み、敷地を巡回して警戒・監視にあたっています。

 歩哨任務は24時間体制ですが、兵士も歩哨犬も生き物。普段の生活サイクルと異なるシフト制や、体調の都合もあり、犬にとってはハードな仕事環境といえます。

 アメリカ空軍航空戦闘軍団(ACC)の研究室では、全領域戦闘(All-Domain Warfere)における機動的な戦力展開に役立つ新しい概念やテクノロジーを研究する中で、歩哨任務の負担を軽減する方策を検討。その一環として、ロボットを補助的に使用する試験を実施することになったといいます。

 実証試験に供されるのは、ゴースト・ロボティクス(Ghost Robotics)の開発した4脚歩行ロボット「ビジョン(Vision)60」。犬とほぼ同じ大きさで、各種センサーを搭載して自律制御で動きます。

 この研究に携わるマルコス・ガルシア上級曹長によると「本物のK-9(歩哨犬)と置き換える目的ではありません。単に歩哨任務に投入する数を増強するものであり、場合によっては犬の命を守ることさえできるかもしれません。研究チームでは、爆弾の捜索に役立てたり、通常の巡回歩哨に使用することを想定しています」とのこと。

 特に海外展開先では、仕掛け爆弾などのテロに警戒する必要があり、場合によっては歩哨犬や兵士が怪我をしたり、命を落としたりする危険があります。このロボットは低コストで、兵士や犬の命を危険に晒すリスクを低減してくれるものと期待されています。

 スコット空軍基地の警備を担当する第375警衛中隊のジャスティン・ハンロン曹長は「1番のセールスポイントは、ロボットが消耗品であるのに対し、我々はそうではない、ということです。ロボットが壊れた場合、部品を交換すれば任務に復帰できますが、人間はそう簡単にはいきません。ここで重要なのは、兵士たちを無用の危険から守ることなのです」と、ロボットを活用する利点を語っています。

 このビジョン60は毎秒7フィート(時速約1.1km)で進むことができ、これまでの試験結果によると、空中を進むドローンや車輪式、装軌式よりも優れた走破性を有しているとのこと。複合センサーでは高解像度の可視光・赤外線映像を伝送でき、兵士は安全な場所から映像を確認し、異常を見つけた際に急行する体制をとるという仕組みを想定しています。

 ガルシア上級曹長は今回の実証試験について「私たちは使命に燃えるイノベーターの集まりであり、現場の兵士たちは多くの素晴らしいアイデアを持っています。私たちはそれらのアイデアを集め、空軍の未来へと結実させたいと考えています」との希望を口にしています。

 アメリカでも少子化は進んでおり、軍の中核となる若い兵士は貴重な存在になりつつあります。アメリカ空軍は今後も無人のロボットをうまく活用し、任務における実効性を向上させる取り組みを進めていくとしています。

<出典・引用>
アメリカ空軍 ニュースリリース
Image:USAF

(咲村珠樹)