軍人が仲間同士の絆を深めるグッズとして「チャレンジコインというものがあります。特にアメリカ海軍を中心に定着している文化で、みんなでお揃いのコイン(通貨のコインではなくコイン状のメダル)を持つことで、部隊の一体感を示すもの。特別なゲストに「あなたも我々の一員です」という意味で贈られることもあり、自衛隊でも作られています。
チャレンジコインが作られるようになったきっかけは諸説あり、はっきりとした起源は分かりません。古代ローマ時代から、戦場で目覚ましい働きをした者に褒賞として特別なコインが与えられることがあり、古代〜中世にかけての遺跡から、これらの儀礼用コインが発見されています。
現在のチャレンジコインに繋がるものとして有力な説の1つは、第一次世界大戦に1917年から参戦したアメリカの志願兵による飛行隊で、部隊の結束を示すために部隊章を刻印したメダルを作り、各自の首に下げていたというもの。メンバーはそれを常時携帯し、バーなどでの飲食の際に持っているかを確かめ、持ってこなかったものが全員に飲み物をおごる、という儀式があったとされます。
とはいえ、部隊単位で作られていたチャレンジコインの文化がアメリカ軍の全体に広まったのは比較的新しく、1990年代の湾岸戦争あたりからとされています。パッチ(ワッペン)に比べると作る手間がかかったこともあり、比較的手軽に作れるようになったのが1990年代ということのようです。
チャレンジ「コイン」という名前でも、コインのような円形のものばかりでなく、デザインはいろいろ。派遣された国の形をしたものや、部隊パッチのような形をしたものもあります。
大きさも、コインというにはあまりにも大きいものまで。規定がある訳ではないので、自由にデザインされるのがチャレンジコインの面白いところ。パッチやピンズと同じように、部隊同士で交換することも伝統となっています。
現在は新たなコレクションアイテムとして、集める人も増えてきたチャレンジコイン。アメリカ軍のイベントや、ミリタリーグッズ取扱店でも入手する機会があります。
日本の自衛隊でも、主に贈答用としてチャレンジコインが作られ、防衛外交の一環として渡されています。自衛隊の制服組トップである統合幕僚長のチャレンジコインは、桜が大きくデザインされたもの。裏側には日本周辺の地図と、統合幕僚長の名前が英語で記されています。
また、各国の日本大使館に派遣されている防衛駐在官(外国の「駐在武官」に相当)のチャレンジコインは、個人名のない統一デザイン。表面は日の丸の旗を中心に陸海空自衛隊の紋章が配置され、周囲には白地に「JAPAN SELF-DEFENSE FORCES ATTACHE」の文字。
裏面は、富士山と桜という日本を代表するものを配置し「日本国大使館 防衛駐在官」の文字。桜にはピンクの差し色があり、シンプルながら華やかなものとなっています。
チャレンジコインを渡す際は作法があって、あらかじめ右手に隠し持っておき、その手で握手することで手渡すというもの。筆者も自衛隊で経験したことがありますが、普段はお辞儀をする場面で「記念に握手をしましょう」と言われて驚き、さらにチャレンジコインを渡されてもう一度驚く……というものでした。
部隊のメンバーとしての連帯や、ちょっとした表彰の印として渡されるチャレンジコイン。もし直接渡されるようなことがあれば、あなたは「大切な一員」として認められたということかもしれません。
Image:U.S.Navy/USAF/U.S.Army/USMC/咲村珠樹
(咲村珠樹)