今回取り上げるのは、2012年のアメリカ映画『バトルシップ』(Battleship)でございます。

 かつて男の子のなりたい職業ベスト3はプロ野球の監督、オーケストラの指揮者、聯合艦隊司令長官だったそうですが、海軍、特に戦艦が大活躍する瞬間と言えば艦隊決戦であります。
但し戦艦が活躍した艦隊決戦は1916年のジュットランド沖海戦が最後だそうですが(強いて言えば太平洋戦争中に第三次ソロモン海戦っていうのがありましたが)、何と21世紀の世の中に艦隊決戦が繰り広げられる映画が作られてしまいました。それが『バトルシップ』であります。

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バトルシップ

 ストーリーは以下の通り。

日米など14箇国の海軍がハワイ周辺でRimpacという演習を行っていたところ、宇宙人が搭乗する超兵器が太平洋上に出現、艦隊決戦が繰り広げられます(艦隊決戦のシーンはこの前半のシーンのみ)。
太平洋海域は宇宙人が張ったバリアーに包まれ、日米の一部艦船がバリアー内部に取り残されてしまったため、日本のイージス艦みょうこうもバリアー内で敵にミサイルをぶっ放しますが、その直後にやられてしまいます。
みょうこうのナガタ艦長(演・浅野忠信)は米駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズに救出され、米軍と共に戦うことになります。
駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズは奮戦するもやられてしまい、遂にバリアー内で地球側艦船はなくなってしまったと思われたその瞬間、主人公達は或ることに気付きました。
ハワイには戦艦ミズーリが記念艦として保存されており、第2次世界大戦に従軍した退役軍人の協力を得れば稼働可能なのだ!かくして戦艦ミズーリは主砲をぶっ放し、敵をやっつけるのであった!!!

 この映画は、230数年に及ぶアメリカ海軍の歴史を、3つの要素を抽出して描いたものと言えます。

 まず1つ目の要素は、主人公が乗艦している駆逐艦の艦名にもなっているジョン・ポール・ジョーンズ。アメリカ独立戦争の英雄であり、イギリスのネルソン、日本の東郷平八郎と共に世界三大提督と言われているそうです。

因みに余談ですが、グーグルで
「世界三大提督 ネルソン ポール・ジョーンズ 東郷」
と検索したら約1,150件、
「世界三大提督 ネルソン ポール・ジョーンズ 李舜臣
と検索したら約454件でした。
地球人と宇宙人の戦争にアメリカ独立戦争のネタを絡めてくるのは、1996年の映画『インデペンデンス・デイ』と同じですね。

 2つ目の要素は、第2次世界大戦です。
戦艦ミズーリは同大戦で日本の降伏文書調印式の会場となった戦艦であり、退役軍人がミズーリに乗り込んで活躍するシーンは、同大戦を勝利に導いた軍人を称賛し、アメリカ合衆国の栄光の歴史を象徴していると言えます。
東京・両国にある江戸東京博物館に、この降伏文書が展示されているのですが、これが超面白いので、是非一度、生でご覧戴きたいと思います。数分間じっくり見てしまいますよ。何と、或る国の代表が自国の欄を間違えて次の欄に書いてしまったため、その国からみんな1行ずれてしまっているんです。

 3つ目の要素は、現代の日米同盟です。
物語の舞台となったハワイは、太平洋戦争の緒戦に日本海軍が奇襲した島です。そのハワイ近海を舞台に、日米海軍が協力して敵と戦うという構図は、かつての敵が今では同盟国となったことを象徴しています。
更に、米海軍以外の海軍で宇宙人と戦ったのがほぼ海上自衛隊だけというのは、太平洋地域において最も信頼できる同盟国は日本であるとアメリカ人が考えていることが背景にあると言えるのではないでしょうか(但し商売上の理由で日本を登場させたとも考えられますが)。

 かつて大戦争を繰り広げた2つの国が、その後60年以上に亘って同盟を結び、強い信頼関係で結ばれる。映画『バトルシップ』は壮大なストーリーでしたが、真に壮大なのは現実の歴史の方なのかもしれません。

(文:コートク)