おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【名作映像案内】第21回 映画『バトルシップ』から見たアメリカ海軍史

update:

 今回取り上げるのは、2012年のアメリカ映画『バトルシップ』(Battleship)でございます。

 かつて男の子のなりたい職業ベスト3はプロ野球の監督、オーケストラの指揮者、聯合艦隊司令長官だったそうですが、海軍、特に戦艦が大活躍する瞬間と言えば艦隊決戦であります。
但し戦艦が活躍した艦隊決戦は1916年のジュットランド沖海戦が最後だそうですが(強いて言えば太平洋戦争中に第三次ソロモン海戦っていうのがありましたが)、何と21世紀の世の中に艦隊決戦が繰り広げられる映画が作られてしまいました。それが『バトルシップ』であります。

  • 【関連:第20回 「死して屍拾う者なし!」23年ぶりに復活した『大江戸捜査網2015』】

    バトルシップ

     ストーリーは以下の通り。

    日米など14箇国の海軍がハワイ周辺でRimpacという演習を行っていたところ、宇宙人が搭乗する超兵器が太平洋上に出現、艦隊決戦が繰り広げられます(艦隊決戦のシーンはこの前半のシーンのみ)。
    太平洋海域は宇宙人が張ったバリアーに包まれ、日米の一部艦船がバリアー内部に取り残されてしまったため、日本のイージス艦みょうこうもバリアー内で敵にミサイルをぶっ放しますが、その直後にやられてしまいます。
    みょうこうのナガタ艦長(演・浅野忠信)は米駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズに救出され、米軍と共に戦うことになります。
    駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズは奮戦するもやられてしまい、遂にバリアー内で地球側艦船はなくなってしまったと思われたその瞬間、主人公達は或ることに気付きました。
    ハワイには戦艦ミズーリが記念艦として保存されており、第2次世界大戦に従軍した退役軍人の協力を得れば稼働可能なのだ!かくして戦艦ミズーリは主砲をぶっ放し、敵をやっつけるのであった!!!

     この映画は、230数年に及ぶアメリカ海軍の歴史を、3つの要素を抽出して描いたものと言えます。

     まず1つ目の要素は、主人公が乗艦している駆逐艦の艦名にもなっているジョン・ポール・ジョーンズ。アメリカ独立戦争の英雄であり、イギリスのネルソン、日本の東郷平八郎と共に世界三大提督と言われているそうです。

    因みに余談ですが、グーグルで
    「世界三大提督 ネルソン ポール・ジョーンズ 東郷」
    と検索したら約1,150件、
    「世界三大提督 ネルソン ポール・ジョーンズ 李舜臣
    と検索したら約454件でした。
    地球人と宇宙人の戦争にアメリカ独立戦争のネタを絡めてくるのは、1996年の映画『インデペンデンス・デイ』と同じですね。

     2つ目の要素は、第2次世界大戦です。
    戦艦ミズーリは同大戦で日本の降伏文書調印式の会場となった戦艦であり、退役軍人がミズーリに乗り込んで活躍するシーンは、同大戦を勝利に導いた軍人を称賛し、アメリカ合衆国の栄光の歴史を象徴していると言えます。
    東京・両国にある江戸東京博物館に、この降伏文書が展示されているのですが、これが超面白いので、是非一度、生でご覧戴きたいと思います。数分間じっくり見てしまいますよ。何と、或る国の代表が自国の欄を間違えて次の欄に書いてしまったため、その国からみんな1行ずれてしまっているんです。

     3つ目の要素は、現代の日米同盟です。
    物語の舞台となったハワイは、太平洋戦争の緒戦に日本海軍が奇襲した島です。そのハワイ近海を舞台に、日米海軍が協力して敵と戦うという構図は、かつての敵が今では同盟国となったことを象徴しています。
    更に、米海軍以外の海軍で宇宙人と戦ったのがほぼ海上自衛隊だけというのは、太平洋地域において最も信頼できる同盟国は日本であるとアメリカ人が考えていることが背景にあると言えるのではないでしょうか(但し商売上の理由で日本を登場させたとも考えられますが)。

     かつて大戦争を繰り広げた2つの国が、その後60年以上に亘って同盟を結び、強い信頼関係で結ばれる。映画『バトルシップ』は壮大なストーリーでしたが、真に壮大なのは現実の歴史の方なのかもしれません。

    (文:コートク)

    あわせて読みたい関連記事
  • 「読書の秋」に読んでほしい!本好きライターオススメの小説&ノンフィクション5冊
    ライフ, 雑学

    「読書の秋」に読んでほしい!本好きライターオススメの小説&ノンフィクション5冊

  • 給油口の位置が運転席から分かるって知ってた? 意外と知らないドライバーのための豆知識
    ライフ, 雑学

    車に潜む「モイランの矢」って知ってる? 給油口の位置を示す小さな矢印

  • 学生時代の“謎文化”が続々集結!「○○してたら恋人募集中」アンケート結果まとめ
    ライフ, 雑学

    学生時代の“謎文化”が続々集結!「○○してたら恋人募集中」アンケート結果まとめ

  • “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ
    オカルト・ミステリー, 雑学

    “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

  • 男も日傘を差す時代へ アラフォー男性が1年日傘を使って感じたメリット
    ライフ, 雑学

    男も日傘を差す時代へ アラフォー男性が1年日傘を使って感じたメリット

  • イルカは「体当たりされるだけでやばい、でかい野生生物」
    ライフ, 雑学

    「イルカ=友好的」は間違い!元水族館職員の絵本作家が伝えたい“危険性”

  • ワクチン誤情報で命が失われた? 東京大学などが明らかにした「もしも」の世界(画像:PhotoAC)
    社会, 雑学

    ワクチン誤情報で命が失われた? 東京大学などが明らかにした「もしも」の世界

  • 詐欺電話に“うっかり出た”読者の実体験 あなたの不安に付け入る手口とは(画像:PhotoACより)
    社会, 雑学

    詐欺電話に“うっかり出た”読者の実体験 あなたの不安に付け入る手口とは

  • 画像:筑波大学発表プレスリリースより
    社会, 雑学

    ツクツクボウシの「合の手」に規則性 筑波大が発見

  • 汚れたサクラクレパスのお手入れ方法を公式が指南 巻紙は無料印刷も可能
    季節・行事, 雑学

    汚れたサクラクレパスのお手入れ方法を公式が指南 巻紙は無料印刷も可能

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 鳥羽水族館、ラッコ配信で“飼育係モザイク化” カスハラ対策で映像方法変更
    社会, 経済

    鳥羽水族館、ラッコ配信で“飼育係モザイク化” カスハラ対策で映像方法変更

  • “幸福度が高い”と評判のジョナサン「早生みかんスイーツ」 今年は新作大福も仲間入り
    商品・物販, 経済

    “幸福度が高い”と評判のジョナサン「早生みかんスイーツ」 今年は新作大福も仲間入…

  • ヤマト運輸、元従業員が取引先情報を不正持ち出し 2社に流出、営業活動での使用も確認
    企業・サービス, 経済

    ヤマト運輸、元従業員が取引先情報を不正持ち出し 2社に流出、営業活動での使用も確…

  • YouTube、永久停止クリエイターに「再出発の機会」 新チャンネル申請を可能にする試験導入を発表
    インターネット, サービス・テクノロジー

    YouTube、永久停止クリエイターに「再出発の機会」 新チャンネル申請を可能に…

  • 南インド伝統のチキンカレー「ケララチキンカレー」
    商品・物販, 経済

    松のやが南インド伝統の味を再現 「ケララチキンカレー」新発売

  • 毛玉とるとる Pro(KC-NW825)
    商品・物販, 経済

    ストッキングやタイツも可の毛玉取り器誕生 マクセルイズミ「毛玉とるとる Pro」…

  • トピックス

    1. 【実食】コメダ珈琲店の「ドデカメンチバーガー」は名前に偽りなし バンズからはみ出す“肉の暴力”

      【実食】コメダ珈琲店の「ドデカメンチバーガー」は名前に偽りなし バンズからはみ出す“肉の暴力”

      コメダ珈琲店は10月16日から「ドデカメンチバーガー」と「ドデカチーズメンチバーガー」の2種類のバー…
    2. 自宅に“機内”を再現!「飛行機オタク」が作り上げた最高の趣味部屋

      自宅に“機内”を再現!「飛行機オタク」が作り上げた最高の趣味部屋

      趣味を持つ人なら憧れる、好きなもので埋め尽くされた趣味専用の部屋。本、ゲーム、楽器、絵画、彫刻など自…
    3. 藝大卒の声楽家が1時間1000円で自分を貸し出す理由 フリー芸術家ならではの戦略

      藝大卒の声楽家が1時間1000円で自分を貸し出す理由 フリー芸術家ならではの戦略

      プロの声楽家として活動する傍ら、1時間1000円から自分の時間を「レンタル」している男性。キャリア豊…

    編集部おすすめ

    1. 鳥羽水族館、ラッコ配信で“飼育係モザイク化” カスハラ対策で映像方法変更

      鳥羽水族館、ラッコ配信で“飼育係モザイク化” カスハラ対策で映像方法変更

      三重県の鳥羽水族館は10月15日、人気配信「鳥羽水族館ラッコ水槽ライブカメラ」の映像内容を一部変更すると発表しました。今後は、給餌の際などに…
    2. 毛玉とるとる Pro(KC-NW825)

      ストッキングやタイツも可の毛玉取り器誕生 マクセルイズミ「毛玉とるとる Pro」を発売

      マクセルイズミ株式会社は、ストッキングやタイツなどの繊細な衣類にも対応する毛玉取り器の新モデル、「毛玉とるとる Pro(KC-NW825)」…
    3. キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化

      キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化

      キヤノンが、バンダイの「ガシャポン」とコラボレーション。歴代のカメラとレンズをミニチュア化した「Canon ミニチュアカメラコレクション」を…
    4. 時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言

      時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言

      時事通信社は10月9日、自民党本部での取材中に「支持率下げてやる」などと発言した本社映像センター写真部の男性カメラマンを厳重注意したと発表し…
    5. 「ちいかわの世界に行きたい」ファン、考えた末に鎧さん化 再現度がガチすぎた

      「ちいかわの世界に行きたい」ファン、考えた末に鎧さん化 再現度がガチすぎた

      言わずと知れた人気コンテンツ「ちいかわ」。かわいくもハードなあの作品世界に入っていきたいと願う人は多いはず。筆者もその1人です。しかし二頭身…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト