2019年3月末をもってイギリス空軍から退役するトーネードGR.4。その退役を前に、イギリス各地を航過飛行する「さよならツアー」が2月19日~21日の日程で行われました。最終日には、空軍制服組トップの空軍参謀総長を務めるヒリアー空軍大将みずからが操縦して「さよなら編隊」を率い、航過飛行を実施。各地では関係者だけでなく、地元のファンも多く集まり、イギリスの空を飛ぶトーネードGR.4の勇姿を目に焼き付けていました。
1979年の導入以来、40年の長きにわたってイギリス空軍の主力戦闘攻撃機として使われてきたトーネード。イギリスでは「トンカ(Tonka)」の愛称で親しまれています。1990年に勃発した湾岸戦争以来、イギリス空軍が関わった戦闘に参加し、数々の戦果を上げてきました。それも2019年2月5日、対IS(「イスラム国」を名乗る武装勢力)作戦のため、シリアとイラクに派遣されていた最後の部隊がイギリスのマーハム空軍基地へ帰還し、トーネードの実戦参加は事実上終了しています。
長年運用されてきたトーネードが退役するにあたり、イギリス空軍はこれまでの感謝を伝え、また別れを惜しむ機会を提供するために、3日間にわたってイギリス全土を回る「さよならツアー」を企画しました。その日程と経由地は次の通りです。
■1日目(2月19日):マーハム基地(発)/ケンドリュー・バラックス(旧コッテスモア空軍基地・トーネードパイロット養成学校所在地)/国立慰霊植物園(スタッフォードシャー)/コスフォード基地/ショウベリー基地/バレー基地/BAEシステムズ ワートン事業所、サルムスバリー事業所(トーネード製造工場)/スパーデアダム基地/リーミング基地/トップクリフェ基地/リントン・オン・オース基地/ワディトン基地/クランウェル基地/コニングスビー基地/ドナ・ヌック射爆場/ホルビーチ射爆場/ワイトン基地/マーハム基地(着)
■2日目(2月20日):マーハム基地(発)/ホニントン基地/王立戦争博物館ダックスフォード館/旧ベッドフォード基地/クランフィールド飛行場/ハルトン基地/ハイ・ウィッカム基地(航空軍団司令部)/ベンソン基地/陸軍総司令部(旧アンドーヴァー空軍基地)/国防省ボスコム・ダウン試験場(トーネード飛行試験実施地)/ペンブレー基地/国防省セントアンサン訓練施設(旧セントアンサン空軍基地)/カーディフ空港/ロールス・ロイス フィルトン事業所(旧フィルトン空軍基地・トーネードのRB199エンジン製造工場)/国防省アビー・ウッド施設/防衛大学校(シュリベンハム)/ブライズ・ノートン基地/マーハム基地(着)
■3日目(2月21日):マーハム基地(発)/リューシャース・ステーション(旧リューシャース空軍基地)/テイン訓練施設(旧テイン空軍基地跡)/ロジーマス基地/マーハム基地(着)
さよならツアーに使用されたのは、退役を記念してスペシャルマーキングが施された第IX(B)飛行隊と第31飛行隊の3機。途中ボイジャー(A330MRTT)からの空中給油を受けつつ、3機はデルタ(三角)編隊を組んでトーネードが製造された工場や、かつてトーネードの訓練が行われた場所など、思い出の場所を3日間かけてくまなく回りました。王立戦争博物館ダックスフォード館では、普段屋内ハンガーに展示している3機のトーネード(迎撃機型のトーネードF.3と、攻撃機型のトーネードGR.4が2機)をわざわざ屋外エプロンに引き出し、上空を通過するさよなら編隊を迎える演出もしています。
初日のフライトには、垂直尾翼に部隊マークのコウモリを描いた第31飛行隊のスペシャルマーキング機に、BBCのジョナサン・ビール特派員が搭乗。後席からその「さよならツアー」を取材しました。また、2日目には交換将校制度でイギリス空軍に出向しているパイロットが、外国の軍人として最後のフライトを行っています。
迎えた2月20日のツアー最終日。編隊長機となる「レトロ迷彩カラー」スペシャルマーキング機の前席コクピットに座ったのは、空軍参謀総長のスティーヴン・ヒリアー空軍大将。ヒリアー空軍大将は、1980年に空軍パイロットとなって以来、ずっとトーネードのパイロットとして過ごしてきました。トーネードが実戦配備された当初からトーネードを知る、数少ない空軍の現役パイロットなのです。
さよならツアーの最後の経由地は、スコットランドのロジーマス基地。ここはヒリアー空軍大将が2000年7月1日、空軍大佐として基地司令になった思い出の場所。さよならツアーの掉尾を飾る編隊長に、これほど適任の人物はいません。
空軍参謀総長みずからが率いる「さよならツアー」編隊は午前にマーハム基地を離陸。リューシャース・ステーション上空を11時15分~11時30分に東から西へ、11時30分~11時45分にテイン訓練施設上空を北東から南西へ、そして11時45分~12時にロジーマス基地上空を北東から南西へとフライパスしました。ロジーマス基地では、現在運用しているユーロファイター・タイフーン2機も離陸してお出迎え。最後に元基地司令のヒリアー空軍参謀総長を編隊長とした、トーネードとユーロファイター・タイフーンの異機種混合編隊でもフライパスを実施しています。
さよならツアーの最後を編隊長として指揮し、マーハム基地に帰着したヒリアー空軍参謀総長は、エレイン夫人からの出迎えを受けました。2人はシャンパンで乾杯。
トーネードでの最後のフライトを終えたヒリアー空軍参謀総長には、マーハム空軍基地司令のタウンセンド空軍大佐から記念のパネルが贈呈されました。空軍参謀総長のヒリアー空軍大将がトーネードで過ごした時間は、のべ1万1932日で2170時間。うち25時間は空軍参謀総長となってからの飛行時間です。
さよならツアーの全日程を終え、ヒリアー空軍参謀総長は「トーネードの退役まであと数週間となり、トーネードにはもう一度心からおめでとうと言いたい気持ちです。トーネードGR.4のパイロットとしての立場で言えば、開発段階から目にしてきて、比類なき作戦機として40年に及ぶ月日を過ごして来られたのは、同じく非常に優秀なパイロットや地上員による卓越した働きの賜物だと思います。個人的には、トーネードが退役の日を迎えるというのはとても寂しいことなのですが、しかしそれは、新たな世代の航空機にバトンを渡す時が来たということでもあります。F-35Bが作戦能力を獲得し、またタイフーンも(近代化改修で対地攻撃能力を付与され)真の意味での多用途性を獲得した今、これまでトーネードが担っていた任務を受け継いでいくことができるのです」と、トーネードとともに歩んだこれまでのパイロット人生も織り交ぜつつ、間近に迫った退役について語っています。
イギリス空軍のトーネードはこのままフライトを行わず、2019年3月末をもって退役予定。イギリスの空からトーネードは姿を消しますが、ドイツ空軍では、もうしばらく現役を続ける予定となっています。
Image:RAF Crown Copyright
(咲村珠樹)