ちょっとミリタリーに興味のある人なら、ジェット戦闘機などに付いている「アフターバーナー」というものの名前は聞いたことがあるでしょう。かつてはゲーム名(セガ)にもなりました。今回はそのアフターバーナーについてのミニ知識です。

まずはじめの注意点。「アフターバーナー」はゼネラル・エレクトリック(GE)の商品名です。一般には「オーグメンター(Augmentor=推力増強装置)」と呼ばれ、イギリスのロールスロイスでは、自身の製品に付くものを「リヒート(Reheat=再燃焼装置)」と呼んでいます。エスカレーター(元々オーチス・エレベータの商品名)などと同じ、商品名が一般名詞化したもので、簡単に言うとジェットエンジンの推力を一時的に増大させ、加速力を高める装置です。ここでは「アフターバーナー」で呼称を統一することにします。

ジェット戦闘機の場合、スロットルレバーを最大出力(ミリタリー)にセットした後、更に押し込むとアフターバーナーが作動します。パイロット達は、アフターバーナーを作動させることを俗に「ゲートに入れる(Go Gate)」や「AB(アフターバーナー)を焚く」などと表現していますね。エンジンにもよりますが、アフターバーナーを使うことで推力が1.2~2倍近く増大します。

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アフターバーナーを使って離陸するF-2A

アフターバーナーを使って離陸するF-2A

夕方や夜になると、アフターバーナーの炎を曳いて離陸する美しい姿を目にすることができます。

アフターバーナーの炎を曳いて離陸するF-4EJ改

アフターバーナーの炎を曳いて離陸するF-4EJ改

アフターバーナーは、ジェットエンジンのタービン最終段から排気ノズルまでの部分に設置されます。基本原理は、ジェットエンジンの高温排気に再度燃料を吹き付け、燃焼させることで新たなガス圧をプラスして推力を高めるというもの。ジェットエンジンは、理想的な燃料と空気の比率(理論空燃比)で燃焼させると排気ガスの温度が高くなり過ぎ、タービンブレードの金属を融かしてしまう為、冷却用の意味もあって燃料に較べ空気の分量が数倍(いわゆる「希薄燃焼」状態)になっています。結果として排気ガスには燃焼に使われなかった空気(酸素)がたくさんあり、それを使って新たに燃料を燃やそうという訳。構造上、燃焼室に送られない空気が存在するターボファンジェットエンジンの方が、燃焼に使える空気が多くなり、推力増大効果が大きくなります。

さて、何故ジェット戦闘機にはアフターバーナーが付いているのでしょう。それはジェットエンジンの特性が関係しています。

ジェットエンジンをはじめとするガスタービン機関は、小型で高出力である反面、操作してから実際に出力が変化するまでの反応がレシプロ(ピストン)エンジンに較べて遅いという弱点があります。また、プロペラ機であればプロペラの角度(ピッチ)を変更することで加速を良くすることができるのですが、ジェット機の場合はそれもできず、特に初期のジェット機では加速に時間がかかることが弱点になっていました。世界で初めて実戦投入されたジェット戦闘機、メッサーシュミットMe262が、高度・速度差を活かした最初の攻撃後、再加速する過程で連合軍の護衛戦闘機に狙われて撃墜されたケースが代表例です。

この弱点はかなり初期から認識されており、第二次大戦末期からイギリスでは現在のアフターバーナーを「テールパイプ・リヒート」の名称で加速用推力増強装置として研究を始めています。構造は現在のものとほとんど変わらず、イギリス初のジェット戦闘機であるグロスター ミーティアや、デ・ハビランド バンパイアの開発過程でも試験が行われていました。実用的なアフターバーナーはソーラー・エアクラフト(現:ソーラー・タービンズ)がウエスチングハウスJ34(ボートF6U他)用に作ったものが最初で、その他アリソンJ35(ノースロップF-89他)、ゼネラル・エレクトリックJ47(ノースアメリカンF-86D他)、プラット&ホイットニー(P&W)J48(グラマンF9F他)などがアフターバーナー付きジェットエンジンの第1世代と言えます。

アフターバーナーの構造は比較的シンプルです。タービンの最終段の後ろに燃料噴射口を設け、高速の排気ガスで炎が消えてしまわないように、フレーム(炎)ホルダーと呼ばれるコンロの火口のような部品があります。そしてイグナイター(点火器)で点火する……という仕組み。ジェットエンジンの排気ノズルを覗き込むと、タービン最終段の前(排気ノズル側)にアフターバーナーのフレームホルダーが確認できます。

F-4EJ改(J79エンジン)のフレームホルダー

F-4EJ改(J79エンジン)のフレームホルダー

F-15J(F100エンジン)のフレームホルダー

F-15J(F100エンジン)のフレームホルダー

この構造は、圧縮機を使わず高速で流れる空気の流入圧(ラム圧)で作動する、シンプルな構造のラムジェットエンジンとほとんど同じ。あくまでもターボジェットエンジンやターボファンジェットエンジンの部品のひとつではありますが、アフターバーナーはある意味、高速な排気ガスの圧力を用いた加速用ラムジェットエンジンみたいなもの、とも言えます。フレームホルダーから排気口までの間は「燃焼室」として使われることになるので、熱がエンジンのフレームに伝わって融けたりしないよう、二重構造になっています。

RF-4EJの二重構造になった排気ノズル

RF-4EJの二重構造になった排気ノズル

F-15Jの二重構造になった排気ノズル

F-15Jの二重構造になった排気ノズル

もちろん、調整機構もなく燃料をドバッと噴射するだけのシンプルな構造の為に、文字通り「湯水のごとく」燃料を消費します。パイロットに聞くと、超音速飛行の訓練でアフターバーナーを作動させると、燃料がすごい勢いで減っていくそうですよ。現行のジェット戦闘機が超音速飛行するにはアフターバーナーが必須なのですが、アフターバーナーを使えば航続距離が著しく短縮されてしまいます。F-22のアフターバーナーを必要としないスーパークルーズ(超音速巡航)能力は、長距離を素早く移動できる点で優れているという訳です。

また、燃焼炎がそのまま排気口から出る為に、その付近に可燃物があると燃えます。時折、滑走路でアフターバーナーの炎に何かが引火する場面を目にすることがあります。

アフターバーナーの炎で可燃物が燃える

アフターバーナーの炎で可燃物が燃える

ブルーインパルスが国産の超音速練習機T-2を使用していた時代、専用に改修されたT-2は離陸など加速する必要がある時にアフターバーナーを使用すると、排気口に設置されたスモーク用のパイプが高熱で融けてしまう為、スモークオイルを出してパイプを冷却するような仕組みになっていました。この時、スモークオイルは高い温度で完全燃焼して炎となり、結果として独特の演出のように見えたものです。

スモークオイルが炎となるブルーインパルスのT-2

スモークオイルが炎となるブルーインパルスのT-2

これとは別に、F-111は2基のエンジン排気ノズルに挟まれた場所に、緊急着陸の際に余分な燃料を投棄するノズルがあり、アフターバーナーを作動させている時に燃料を投棄すると、盛大にジェット燃料が燃え上がる特徴がありました。機体は前に進んでいるし、排気の勢いもあって炎が機体を燃やすことはありません。俗に「ダンプ(燃料投棄)&バーン(燃やす)」と呼ばれ、F-111の飛行展示名物となっていました。この特徴を活かして、2000年のシドニーオリンピック閉会式では、聖火が消えるタイミングで飛来したオーストラリア空軍のF-111がダンプ&バーンを行い「聖火が天に還っていく」という演出がありましたね。

アフターバーナーは、ジェット戦闘機など超音速機だけのものではありません。世の中にはカートに模型用の小型ジェットエンジンを付け、さらに自作のアフターバーナーを取り付けるような人もいます。構造がシンプルなだけに、作れなくもない訳ですね。大きな推力が必要な、発進加速時に使っているようです。

やはり「バカみたいに燃料を食う」そうですが、推力が40%アップするそうですよ。
アフターバーナーに関するあれこれ。航空祭などで見る機会があった時は、こんなところを注目すると面白いかもしれませんよ。

(文:咲村珠樹)