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舞台女優引退の小室友里 最後の公演「女囚175 part2 更生」を追う

update:

 1990年代にAV女優として名を馳せ、現在はラブヘルスカウンセラー、コラムニスト、講演活動とマルチに活躍する小室友里さんが、舞台女優として最後の公演となる「女囚175 part2 更生」に臨んでいます。その様子と、今後についてお話をうかがいました。

  •  舞台「女囚175 part2~更生~」は、覚醒剤取締法違反で懲役刑を受けた主人公が、4年の刑期を終えて出所後、数々の苦難に遭いながらも更生の道を歩んでいく……という実話に基づいた物語。前作「女囚175~覚せい剤取締法違反 懲役4年」は、女子刑務所と覚醒剤中毒の壮絶な実態を描き、そのショッキングな内容で演劇界の話題を呼んだ作品です。今回はその後日譚にあたります。

     お話は、小室友里さん演じる吉野圭子が刑期を終え、収監されていた岐阜県の笠松刑務所から出所する場面から始まります。4年もの間、世間から隔離されていた圭子。どこかで「前科者」と後ろ指を指されないかと周囲の目線や会話が気になります。周りの空気に溶け込みたいのですが、どうしたらいいのか分かりません。

     出所後の生活を世話してくれるという堀を頼り、その愛人ゆみの家で奇妙な同居生活を始める圭子。このとき、テレビを見ているゆみの前を圭子は横切るのですが、屈んで邪魔にならないようにします。これは受刑者の動き。細かい立ち居振る舞いに、圭子が過ごしてきた4年の刑務所生活が表れます。


     しかし、その生活は長くは続きませんでした。堀に体を狙われた挙げ句、さらにはクスリの誘いまで。ここにいてはいけない、と圭子は着のみ着のままで飛び出します。求職活動を続けるのですが、どこにも採用してもらえません。



     ホームレス状態になっているところを保護された交番で、前科者、しかも薬物事犯であることが知れると、警官は態度を一変。またクスリをやっていないかと厳重に身体や所持品をはじめ、尿検査まで強要されます。再犯者の中で薬物事犯の占める割合は高い(これをもって「再犯率が高い」とするのは早計です)ので、このような犯罪者扱いをされてしまうのです。

     つてを頼って小さなスナックの雇われママになった圭子。年下の恋人もでき、ようやく生活できる基盤ができたのも束の間、今度はスナックのオーナーからレイプされそうになります。恋人が救い出してくれ、新たな店を始めるのですが、店舗物件を紹介してくれた人物の振る舞いにより、恋人は去り、店も失ってしまいます。


     この後も職を得ては不幸に見舞われ、そのたびに居場所を失ってしまう圭子。しかし、徐々に運気が上向きはじめます。


     たまたま出会った人から、自分の半生は「得難い特別な経験」であると気づかされた圭子。自らの体験をもとに、自分のようになって欲しくないと講演活動を始めます。

     その中で自分自身の過去とも向き合います。このような人生を送ってしまったのは、自分の弱さと向き合わず、易き道へと流れていったから。ここで初めて、圭子は本当の意味での「更生」を果たしたのでした。

     お芝居の最後には、この物語のモデルとなった竹田淳子さん自身も登場。更生を果たした圭子に口紅をプレゼントします。

     この口紅とコンパクトは、物語の節目節目で重要な小道具として登場します。出所した当初は、自分が他人からどう見られているのかと気にするアイテムとして。そして不幸に見舞われた自分の姿を支えるものとして。


     最後に圭子は、これまでの過去を含めたありのままの自分を受けいれ、口紅を引きます。そこには晴れやかな表情が。


     カーテンコール後のトークでは、モデルの竹田さんやキャストとして登場しているお宮の松さん(たけし軍団)らと楽しい掛け合いが繰り広げられます。物語はやすりで心を削られ、血が滲むような痛々しいお話なのですが、暖かいカンパニー(一座)であることが感じられました。


    ■小室友里さんインタビュー

    ――舞台女優としての活動に終止符を打つということですが、この決断に至った経緯は?

    「今、主な業務として、商工会議所とか、ロータリークラブさんとか一般企業で講演活動をさせていたくことをメインとしているんですけども……舞台俳優の皆さんって、舞台にかけるエネルギーの掛け方が違うじゃないですか。その中で、私みたいに『ちょっと舞台やってます』という程度の人間が一緒に演らせていただくのは、ちょっと失礼にあたるんじゃないかな……というのもあり、講演活動に専念したいな、というのもあって、今回の決断に至りました。小室友里としての新たなステップアップと捉えて、舞台女優としては卒業しようと思って、この舞台のオファーを受けました」

    ――この舞台について、モデルとなった竹田さん直々の熱烈なオファーがあった、ということですが……。

    「はい。……竹田淳子さんって、元・女囚で、現・ラブサポーター。そして小室友里って、元・AV女優、現・講演家。お互い『元』と『現』があって、“今を生きる”っていうのが明確になっている、かつ、お互いセクシャルな世界を本業としている、って……この2人が重なり合って、面白いものができないわけがないよね、ということで、お話を受けました」

    ――お芝居を観ていく中で、前科者ですとか、元覚醒剤中毒者という、ある種世間からの「スティグマ(烙印)」みたいなものを感じさせる場面が、非常に痛々しいと同時に、考えされられました。

    「スティグマ……世間からの偏見とか、もちろん演じている側もきついんですけど、その『スティグマを産んだ元凶』っていうのはどこにあるんだろうと、巡り巡って考えていくと、やっぱり自分自身に戻っていくんですよね。お芝居の中の『自分が悪いんです』っていうのは、このお話の肝になると思う言葉ですね」

    ――因果応報というか……

    「でもそれを、このお話のモデルとなった竹田さんは、ご自身で乗り越えられたところが強さですよね」

    ――講演活動についてお伺いしますが、活動を続ける中で、聴衆の皆さんの反応というのは?

    「今、男女という中に限った形でのコミュニケーションに関するお話をさせていただいているんですけども、ほとんどの方が『こんな話初めて聞きました』っておっしゃるんですよ。また『しているつもりだったけど、改めて聞くと理解していなかったことがありました』っていう声をたくさん頂くんですよ」

    ――相互理解という面で、自分ではちゃんとできていると思っているんだけれども、改めて違う立場から見てみると「いや、そうでもないぞ」と

    「そうですね……。竹田淳子さんがおっしゃていたんですけど、自分が支援している、支えているつもりなんだけども、当事者にとっては支えになっていなかったり、むしろ偏見のひとつだったりすることがある、と。なんか自分の講演での反応と似てるな、て思います」

    ――いわゆるイクメンにおける、父親と母親の違いなんかもそうですね。「本当につらいのはそこじゃないのよ!」みたいな

    「やってるつもり、っていう(笑)。そこはお互いに、今何を思ってるのかというのを話し合える場、お互いの気持ちを安心して出せる場っていうのを作っていくのは大事なことだな、というようなことを講演でお話しさせていただいています」

    ――企業においては、職場での男女間のコミュニケーションについてのお話もされているようですね

    「そうですね。セクハラの予防をするためには、経営者さんはどのようなことをしていけばいいのか、ですとか、社内の男女におけるコミュニケーションで、これは言っちゃダメ、じゃ何故なのか、とか。この“何故”っていうところを分かりやすくするような活動をしていきたいな、と思っています」

    ――これからの抱負というか、意気込みを聞かせたいただけますか?

    「AV女優さんをやられてて、その時と同じ名前を使い続けて、かつ一般企業に入っていける方って、まだいないんですよ。おそらく私が最初の例なんじゃないかと思います。今、業界で3000人、4000人って女の子たちが実際に活動している、その中で『この名前を使い続けていきたい』って子は、少なからずいると思うんです。その時のロールモデルの1人になっていけたらな、って思って“小室友里”でいる、っていうのもあるんです」

    ――確かに、芸能界ではAVや成人映画出身の方が、その時の名前を使い続けているという例は多いですけども、一般社会に出ていく、という例はなかなかいらっしゃらないと思いますし。それは女優さんだけでなく、AV男優さんについてもそうだと思います

    「そうですね……芸能とか、エンターテインメント関連の業界であれば、この名前は価値のあるものなんですけれども、それが一般社会に出ていくと、“マイナス100”からの出発になる、って、私はすごく感じたんですね。で、この講演活動を5年続けてきて、やっとスタートラインにまで戻ってきた、っていう感じで……。そこでやはりスティグマみたいな、偏見みたいなものはあるよね、って正直感じるんだけども、ここまでやってきたんだから、この先もやれるだろう、って思ってます(笑)」

    ――今、AV業界で活動している方々も、“その後”のあり方を見せる小室さんの活動に注目されていると思います

    「そうですね。それには、やっぱり自分たちが認めていけるだけのものを持っていかなければいけないなぁって。私が痴漢抑止活動の応援をさせていただいているのも、その一環です。元AV女優が痴漢抑止活動してるっていうのも面白いな、って思うので」

    ――AVと痴漢というのは、男性側から見た都合の良いもの、という点で根っこは一緒なんだと思いますね……いまだに「短いスカートはいてるからだ」という物言いも聞かれますし

    「その元凶を作ってるのが、アダルト業界から発信されている情報とかだったりだと思うので、その架け橋をうまく作っていければな、と思います。その架け橋になる可能性を秘めているのが“小室友里”だと思っています」

     小室さんはシンガーとしても活動しており、ミニアルバム「音返し-ONGAESHI-」が発売中。女優としての舞台は11月24日で見納めとなりますが、これからも多方面で活躍される姿を目にする機会は多そうです。

    ■舞台「女囚175 part2 更生」
    公演日程:2019年11月19日~24日
    劇場:シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都豊島区南池袋2-20-4)
    料金:前売り5000円/当日5500円/スペシャルチケット(ステージでキャストとの2ショット撮影ほか)8000円
    作・演出山添ヒロユキ
    出演:
    小室友里
    お宮の松
    松本洋一
    朱魅
    坂本久子
    三井信人
    水沢レイン
    小野正幸
    久山彩
    村瀬真衣
    竹田淳子(出演・監修)
    鳥海伯萃(特別出演)

    取材協力:「女囚175 part2 更生」製作委員会

    (取材・撮影:咲村珠樹)

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