「うちの本棚」、101回目は山上たつひこの短編集『真夏の夜の夢』をご紹介いたします。ホラーテイストの強い作品を集めた短編集ですが、山上らしいひねった内容の秀作が揃っています。
所持しているのは75年の発行で「初版」とも「重版」とも記されておらず発行日がひとつだけ記載されているのだが、調べてみると「72年初版」「73年初版」という記載をしている古書店ホームページや個人ブログがあり、重版の際に初版発行日の記載をしないまま刊行されていたようだ。もっともカバー袖部分の著者紹介文は75年当時のものと判断されるので強引に言えば「改訂版」なのかもしれない。
収録されている6つの短編は本書のタイトル「真夏の夜の夢」のもと1話から6話とされているが初出はそれぞれバラバラな短編をまとめたものである。
・白蟻/少年サンデー・1969年8月31日号
・ウラシマ/月刊少年チャンピオン・1972年2月号
・2丁目1番地恐怖団/週刊少年チャンピオン・1972年4月
・土/少年サンデー・1969年8月31日号
・十一階/劇画マガジン・1967年12月号
・青いリボン/希望の友・1971年11月号
初出は以上の通りで72年に初版が刊行されていたとしても頷ける。また75年が初版であれば『がきデカ』の人気にあやかる形での刊行と思っていたのだがそれもなかったようである(もっとも再刊行のキッカケや動機としては十分考えられるが)。
山上たつひこといえば『がきデカ』や『喜劇新思想体系』といったギャグ作品で知られると思うが、個人的には本書に収録されたSFやミステリー系のシリアスな作品が好きだ。極端なことをいうと『がきデカ』以前の作品ということになるだろうか。その意味では本書は山上たつひこの単行本の中でもお気に入りの一冊といっていい。
収録された作品の中でもっとも好きなのが『ウラシマ』だ。浦島太郎に弟がいたという設定や冒頭に描かれる巨大なウミガメなど内容的にもビジュアル的にもインパクトがあった。またラストもなかなかいい。収録された作品ではラストのひとコマ、最期のセリフ(モノローグ)にインパクトのあるものが多いのも特徴かもしれない。ちなみに『ウラシマ』は秋田サンデーコミックスの『鬼面帝国』にも収録された。またそのほかの作品も複数の単行本に再録されているものが多い。
書 名/真夏の夜の夢
著者名/山上たつひこ
出版元/ひばり書房
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/ひばりコミックス怪談シリーズ(55)
初版発行日/1975年6月14日
収録作品/第1話・白蟻、第2話・ウラシマ、第3話・2丁目1番地恐怖団、第4話・土、第5話・十一階、第6話・青いリボン
(文:猫目ユウ / https://suzukaze-ya.jimdo.com/)