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【うちの本棚】第百三回 おお! わが愛しのマスク/山上たつひこ

【うちの本棚】第百三回 おお! わが愛しのマスク/山上たつひこ今回の「うちの本棚」はサンコミックスから出た山上たつひこの最初の単行本『おお! わが愛しのマスク』です。SF、ミステリーと山上のシリアス系作品を十分に楽しめる単行本と言っていいでしょう。

本書は山上たつひこの4冊目の単行本でありサンコミックスから刊行されたものの1冊目にあたる。


  • 収録された作品と初出は以下の通り。

      【収録作品/初出】
      おお! 愛しのマスク/別冊少年マガジン・1969年10月号
      うちのママは世界一/ビッグコミック・1970年2月25日号
      ホワイトクリスマス/1968年
      あな恐ろしや/ビッグコミック増刊・1971年2月1日号
      焼却炉の男/まんが王・1970年2月号
      きざまれた疑惑/デラックス少年サンデー・1969年10月号

    収録された作品のいくつかは双葉社の「山上たつひこ選集」などにも再録されている。

    本書の存在を最初に知ったのは、サンコミックス巻末の刊行リストでだった思う。すでに刊行から何年も経っていたので新刊書店の店頭には並んでいなかったのは当然だが、注文しても品切れになっていたのではないかと思う。本書と、同じ山上作品の『旅立て! ひらりん』は気になりつつも読むことのできない単行本としてその後数年が経過するが、友人の兄の蔵書にあるということで、借りて読むことができた(かなり膨大な漫画の蔵書があったのだが、その後とあるキッカケで大半を譲り受けることになる)。すでに『鬼面帝国』も読んでいたあとなので『がきデカ』以前のSF作品などが収録された本書をわくわくして手に取ったのをおぼえている。もっとも表題作の『おお! わが愛しのマスク』はSFと言っていいが、そのほかの収録作品はSFというよりは心理サスペンス的なものが多い。小学校の教師が受け持ちの生徒の作文を読んでいくという形で進行する『うちのママは世界一』など、ひねった演出、印象に残るラストの作品も多い。

    表題作『おお! わが愛しのマスク』は100ページの読みきり作品で、さまざまな伏線を敷いての読みごたえのある作品だ。

    主人公は4年前に初めて顔の整形手術を受け別人の顔になったあと、整形が趣味のように数百回と顔を変えてきたが、そんな趣味にも飽き本来の顔に戻ろうと、いつも手術を頼んでいるモグリの整形外科医を訪ねる。しかし元の顔の写真を自分でも持っていないと言い、医者が保管していた写真を探してみるのだが2週間前に入った空き巣に盗まれたらしいとわかる。どうやら主人公のいまの顔のモデルとなった人物に何か曰くがあり、主人公自身も命を狙われることになる。

    この主人公、そんな風にしょっちゅう整形で顔を変えるなど道楽三昧の日々を過ごしているが、それは親が残した莫大な財産があるため。しかも元をただせば祖父がどこからか3億円を持ってきたのが始まりだという。つまり作品発表当時話題となっていた3億円強奪犯人の孫という設定なのだ。これは本筋にはまったく関係のないエピソードなのだが、ちょっとしたお遊びにニヤリとさせられる。
    それにしても山上たつひこの発想力、構成力には改めて感心させられる。『がきデカ』や『喜劇新思想体系』もいいが、それ以前に描かれたシリアス系の短編作品ももっと気軽に読めるようになるといいのだが…。

    余談だが、本書刊行後朝日ソノラマからは『光る風(サンミリオンコミックス)』『旅立て! ひらりん(サンコミックス)』が立て続けに刊行される。山上は「朝日ソノラマさんにはお世話になった」とこの当時のことに感謝していたということである。

    書 名/おお! わが愛しのマスク
    著者名/山上たつひこ
    出版元/朝日ソノラマ
    判 型/新書判
    定 価/260円
    シリーズ名/サンコミックス
    初版発行日/昭和46年7月7日
    収録作品/おお! わが愛しのマスク、うちのママは世界一、ホワイトクリスマス、あな恐ろしや、焼却炉の男、きざまれた疑惑

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

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    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
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