おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『ティー・タイム』をご紹介します。
 個人的には『デザイナー』と共に好きな作品で、京子さんというキャラクターが実に魅力的に描けてるなあと思うのであります。

  • 【関連:260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり】

    ティータイム前

    『ティー・タイム』は『5愛のルール』打ち切り後連載された作品(間に『ママン・レーヌに首ったけ』『こいきな奴ら3』の読み切り2作がある)。
    『5愛のルール』が掲載誌の対称読者層とは離れたオトナのドラマであることを理由に打ち切られたためか、本作の主人公は高校生。とはいうものの、冒頭から主人公への想いが断ち切れずに実の姉が自殺しているというヘビーな展開な上に、主人公の親友ふたりも含めてドロドロな恋愛ドラマがいくつも平行して描かれる。主人公紫苑(しおん)は、小説家の父、元モデルで現在はモデルクラブを経営するフランス人の母との間に生まれた金髪が美しい美形男子。姉は母のモデルクラブの売れっ子モデルだった。実家を離れ、ひとりで洋館に暮らしていた姉と、同じ生活をすることを目的に、紫苑もこの洋館に越し、高校も姉が通っていた学校に転校。そこで中学時代の悪友、惣と薫に再会する。洋館には家政婦の京子がいるが、乱暴な言葉づかいで紫苑を圧倒する。その京子の妹は、紫苑と同じ高校の後輩で、紫苑に憧れているのだが、この舞という娘には薫が思いを寄せている。また惣は自分の父親が好きな年上の女性に恋をしているという、これだけで独立したストーリーが描けるような設定となっている。

     紫苑は、姉の想いを受け止められなかったことを悔い、姉の生活をトレースするように暮らし始めるが、そこに姉のモデル仲間ルシエンヌが訪れ、自分も彼女を愛していたと告白する。紫苑は姉の代わりとなって、ルシエンヌと接することになるのだが…。
     とここまで見てきても、とても小中学生向けの作品には思えない(笑)。『デザイナー』や本作『ティー・タイム』が完結まで連載されたのに『5愛のルール』がなぜ打ち切られたのか、ちょっと疑問は残る。まあ本作の場合連載期間も少し短めなので、連載中から路線の修正などもあって、予定よりも早く終わった可能性もあるだろう(あくまでも憶測)。
     後半は紫苑が姉の後を追うような生活の虚しさに気づき、自分らしく生きようとすることと京子との恋が描かれるのだが、この京子というキャラクターはこれまでの一条作品にはあまり見られない登場人物で、なかなかよい。どうやら作者も気に入っていたようだ。

     同時に収録された短編は、いずれも初期作品で『ティー・タイム』当時の絵柄とはまた違うものばかり。一条の初期の絵柄は、どちらかといえば水野英子調といえるだろう。
    『彼…』は、かなりシリアスな作品で、初出の昭和46年には衝撃的な内容だったのではないかと思う。また一条が、初期からシリアスな男女の恋愛を描いていたことも再確認できる。
    『ジルにご用心』はコメディ調のものだが、根底には父親のいない寂しさなど、深いテーマが描かれている。登場人物たちがうまいこと結ばれていくご都合主義は、この際目をつぶっておこう。
    『花嫁はいかが!?』もコメディ調の作品。ちょっとページが足りなかったのか、ラストページが窮屈な印象だ。
    『夜のフェアリー』はバレエをテーマにしたちょっとオカルト風の作品。大理石の像に恋した青年といったところだが、一条が描くとロマンティックな物語に仕上がる。これが山岸涼子なら背筋がゾクっとするような作品になっていたことだろう。

    ティータイム後

    初出:ティー・タイム/集英社「りぼん」昭和51年5月号~11月号、彼…/集英社「りぼんコミック」昭和46年3月号、ジルにご用心/集英社「りぼんコミック」昭和45年9月号、花嫁はいかが!?/集英社「りぼんコミック」昭和44年4月号、夜のフェアリー/集英社「りぼんコミック」昭和44年7月号、ゆかりのミニミニめるへん/描き下ろし?

    書 名/ティー・タイム(前・後編)
    著者名/一条ゆかり
    出版元/集英社
    判 型/新書判
    定 価/各320円
    シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-101、102)
    初版発行日/前編・1977年3月10日、後編・1977年4月10日
    収録作品/前編・ティー・タイム、彼…、ジルにご用心、後編・ティー・タイム、花嫁はいかが!?、夜のフェアリー、ゆかりのミニミニめるへん

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】256回 ハートに火をつけて/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】255回 雨あがり/一条ゆかり

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】257回 ママン・レーヌに首ったけ/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      丼にサンマが丸ごと横たわる衝撃 牛角の「秋刀魚ラーメン」実食レポ

      焼き肉チェーンの牛角は9月4日より、サンマを丸ごと一尾のせた「牛角流秋刀魚ラーメン」を販売しています…
    2. 伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信

      伝説のカンフー映画「酔拳」吹替版、YouTubeで1か月限定無料配信

      ジャッキー・チェン主演の名作アクション映画「酔拳(吹替版)」が、Prime Videoの「シネフィル…
    3. 小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学6年生の男児が耳の痛みを訴え受診したところ、耳の奥からシャープペンシルの消しゴムが摘出されました…

    編集部おすすめ

    1. 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      エイベックスの松浦勝人会長は9月4日、自身のX(旧Twitter)で新たに「松浦顧問制度 シーズン1」を立ち上げたことを報告した。内容は「月…
    2. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    3. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    4. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    5. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト