おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

 「うちの本棚」、今回取り上げるのは一条ゆかりの『デザイナー』です。ファッション業界を舞台にした、これでもかって言うくらいドロドロした恋愛人間ドラマの名作。

  • 【関連:258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり】

    デザイナー・前 デザイナー・後

     一条ゆかりといえば、現在は『有閑倶楽部』が代表作であり、よく知られていると思うが、その前は『砂の城』、そしてこの『デザイナー』が代表作として知られていた。
     自分を捨てた母親への復讐や、そうとは知らずに父親に恋してしまうなど、どろどろの人間ドラマが展開している作品だけあって、人気も高かった。またモデルやデザイナーといった女子が憧れる職業や業界を舞台にしたのも良かったのだろう。もっとも一条の場合、華やかで夢のある世界というよりは、欲望渦巻くドロドロとした業界という描き方で、この作品を読んでデザイナーになりたいと思う読者は少ないだろうけど(笑)。

     一流モデルとして人気の亜美は、その名前以外名字も年齢も不明というミステリアスな女性で、モデル仲間にもその冷たい態度から敬遠されている。が、ひとたびステージに立てば舞台は華々しくなり、会場は沸く。実は、亜美は生まれてすぐに養子に出され、育ての親も1年後に事故でなくなり、その後は12歳で飛び出すまで孤児院で過ごした。少女がひとりで生きていくために必死の思いだったわけだが、生きる原動力のひとつに自分を捨てた母親への憎しみがあった。モデルとして成功したいま、その母親が、現在仕事で接しているデザイナーの鳳 麗香であると知り、その動揺から交通事故を起こして脚の神経を痛め、モデルを引退せざるを得なくなる。そこに現れたのが、結城コンツェルンのトップ、結城朱鷺だった。莫大な経済力を使って亜美をデザイナーとして教育し、売り出し、鳳 麗香への復讐を叶えさせるという朱鷺の提案を、亜美も受け入れる。やがて亜美と麗香はデザイナーの女王を争うことになっていく。
     母親譲りなのか、デザインにも才能を発揮する亜美だが、恋愛はことごとく悲恋に終わる。そしてその結末は…。
     それまでもシリアスな作品ではどろどろの恋愛ドラマを描いてきた一条だが、この『デザイナー』はその集大成とも言うべき作品で、代表作の名にふさわしいものだった。主人公の亜美と朱鷺は共に18歳という設定だが、とても大人びているし、デザイナーという仕事に生きるために生まれてすぐの子供を養子に出す麗香の生き方も、とても少女漫画的ではないだろう。もっとも、なんのバックボーンもなく一匹狼で一流モデルになり、車の運転はカーレーサー並という亜美の設定は実に漫画チックではあるのだけれど。とはいえ、描かれていないだけで、「生きていくためには何でもしたわ」という亜美のセリフを深読みすれば、枕営業くらいはしていたのかもしれないのだが(笑)。

    初出:デザイナー/集英社「りぼん」昭和49年2月号~12月号

    書 名/デザイナー(前・後編)
    著者名/一条ゆかり
    出版元/集英社
    判 型/新書判
    定 価/各320円
    シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-90、91)
    初版発行日/前編・1976年7月10日,後編・1976年8月10日
    収録作品/前編・デザイナー、作品リスト、後編・デザイナー

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】256回 ハートに火をつけて/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】255回 雨あがり/一条ゆかり

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】257回 ママン・レーヌに首ったけ/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 【実食】コメダ珈琲店の「ドデカメンチバーガー」は名前に偽りなし バンズからはみ出す“肉の暴力”

      【実食】コメダ珈琲店の「ドデカメンチバーガー」は名前に偽りなし バンズからはみ出す“肉の暴力”

      コメダ珈琲店は10月16日から「ドデカメンチバーガー」と「ドデカチーズメンチバーガー」の2種類のバー…
    2. 自宅に“機内”を再現!「飛行機オタク」が作り上げた最高の趣味部屋

      自宅に“機内”を再現!「飛行機オタク」が作り上げた最高の趣味部屋

      趣味を持つ人なら憧れる、好きなもので埋め尽くされた趣味専用の部屋。本、ゲーム、楽器、絵画、彫刻など自…
    3. 藝大卒の声楽家が1時間1000円で自分を貸し出す理由 フリー芸術家ならではの戦略

      藝大卒の声楽家が1時間1000円で自分を貸し出す理由 フリー芸術家ならではの戦略

      プロの声楽家として活動する傍ら、1時間1000円から自分の時間を「レンタル」している男性。キャリア豊…

    編集部おすすめ

    1. 鳥羽水族館、ラッコ配信で“飼育係モザイク化” カスハラ対策で映像方法変更

      鳥羽水族館、ラッコ配信で“飼育係モザイク化” カスハラ対策で映像方法変更

      三重県の鳥羽水族館は10月15日、人気配信「鳥羽水族館ラッコ水槽ライブカメラ」の映像内容を一部変更すると発表しました。今後は、給餌の際などに…
    2. 毛玉とるとる Pro(KC-NW825)

      ストッキングやタイツも可の毛玉取り器誕生 マクセルイズミ「毛玉とるとる Pro」を発売

      マクセルイズミ株式会社は、ストッキングやタイツなどの繊細な衣類にも対応する毛玉取り器の新モデル、「毛玉とるとる Pro(KC-NW825)」…
    3. キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化

      キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化

      キヤノンが、バンダイの「ガシャポン」とコラボレーション。歴代のカメラとレンズをミニチュア化した「Canon ミニチュアカメラコレクション」を…
    4. 時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言

      時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言

      時事通信社は10月9日、自民党本部での取材中に「支持率下げてやる」などと発言した本社映像センター写真部の男性カメラマンを厳重注意したと発表し…
    5. 「ちいかわの世界に行きたい」ファン、考えた末に鎧さん化 再現度がガチすぎた

      「ちいかわの世界に行きたい」ファン、考えた末に鎧さん化 再現度がガチすぎた

      言わずと知れた人気コンテンツ「ちいかわ」。かわいくもハードなあの作品世界に入っていきたいと願う人は多いはず。筆者もその1人です。しかし二頭身…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト