おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

 「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『わらってクイーンベル』をご紹介いたします。天涯孤独な主人公が、資産家の跡取りに、という少女マンガらしい展開のラブコメディ。次々に降りかかるトラブルもジェットコースターのようで一気に読めてしまいます。けど、個人的には後編に併録された『ラブ・ゲーム』がオススメだったりして(笑)。

  • 【関連:257回 ママン・レーヌに首ったけ/一条ゆかり】

    クィーンベル前 クィーンベル後

    『わらってクイーンベル』はいかにも少女マンガな設定の長編。母の死をキッカケに7歳でスイスの山奥にある全寮制の学校に入れられたクイーンベルは、修道院のようなその学校で10年を過ごしていたが、後見人であるボストン氏から生まれたころに死んだと聞かされていた父が、つい最近亡くなったと知らされ、父の家であるイギリスのロワイヤル家に迎えられる。イギリスの富豪であった父の財産を継ぐことになるのだが、実はクイーンベルの母は正妻ではなかった。正妻にも行方不明の息子がいて、その存在が確認されればクイーンベルは跡取りにはなれない。が、偶然にも息子が見つかり、それはクイーンベルがイギリスに向かう途中スイスの空港で出会った青年でもあった。

     イジワルな従姉妹の登場、兄となる青年への恋心と少女マンガらしい展開の連続である。クイーンベルのキャラクターも陽気でコメディ要素ももっていて、一条ゆかり作品にありがちなドロドロしたストーリーにはなっていない。異母兄妹の恋愛ということも匂わせていたが、これは成立しないで終わる。もっともだからこそ、本作のあとに描かれた『デザイナー』につながるのだろう。

     あとがきによれば、イジワルな従姉妹のアイーダとプレイボーイのジュノが作者のお気に入りだったとのことで、確かに後半になるとこのふたりがストーリーを引っ張っていっている。
    『プレイボーイをやっつけろ』はデビュー2年目に描かれた読み切り作品。まだ絵に初期のタッチが残り、細かい描き込みも少ない。

     主人公は男の子のような女の子パフ。資産家の息子で両親に死に別れ、毎日違う女の子とデートするイケメンのライダーを嫌っていたのだが、いつのまにか恋してしまうというラブコメの王道パターン。
    『ラブ・ゲーム』は『わらってクイーンベル』終了後に描かれた読み切り作品。一条ゆかりらしいドロドロの恋愛ドラマ、と言っていいと思う。最愛のものを奪われたことで、少年はひとつのゲームをはじめる。それはラブゲームという復讐のゲーム。掲載誌が「りぼん」なので直接的なシーンは描かれていないが集団レイプなどもあって内容的にはかなり大人向け。ちょっと読み切りの短編であることがもったいなく感じられる。『わらってクイーンベル』の明るいラストの反動がこの作品のシビアな展開に影響していたのかな? と思えたりもする。

    初出:わらってクイーンベル/集英社「りぼん」昭和48年4月号~9月号、プレイボーイをやっつけろ/集英社「りぼんコミック」昭和45年3月号、ラブ・ゲーム/集英社「りぼん」昭和48年11月号

    書 名/わらってクイーンベル(前・後編)
    著者名/一条ゆかり
    出版元/集英社
    判 型/新書判
    定 価/前編・250円、後編・320円
    シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-55、56)
    初版発行日/前編・1974年2月10日、後編・1974年3月10日
    収録作品/前編・わらってクイーンベル、プレイボーイをやっつけろ、後編・わらってクイーンベル、ラブ・ゲーム、作品リスト

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】256回 ハートに火をつけて/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】255回 雨あがり/一条ゆかり

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】257回 ママン・レーヌに首ったけ/一条ゆかり

  • トピックス

    1. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…
    2. Gmailを受診している画面

      Gmailの仕様変更でPOP受信が終了 自分は対象?POP利用チェック

      Gmailの仕様変更により、外部メールを取り込むPOP受信機能が2026年1月より利用できなくなりま…
    3. イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)

      仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年)の劇場公開40周年を記念したイベント「清水 ビー・バ…

    編集部おすすめ

    1. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    2. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    3. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    4. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    5. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト