「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『ハートに火をつけて』をご紹介いたします。収録作品には同性愛を扱った『アミ…男ともだち』があり、密かに注目されている単行本です。
『ハートに火をつけて』は大女優セシルの妹ジョゼが主人公の物語。妹というのはマスコミ向けの嘘で、じつはふたりは母子で、セシルが外交官と結婚することになり、その子供たちのうち娘はジョゼの同級生の女の子、そして兄はハンサムだが結婚に反対するギラン。ジョゼとギランの恋模様がストーリーの主軸になって進んでいく。カバー折り返しには「ロマ・コメ」と解説されているけれどコメディ要素はあまりなく、母を姉と偽っているところなど一条のいつものドロドロストーリーにならなかったのが不思議なくらいだ。
『シェルフィールドの冬』は幼いころ仲のよかった年上の女性と再会し、恋に落ちる青年のストーリー。年の離れた男性と結婚していた女性は、自分が幸せなのかわからないといい、再会した青年と過ごした昔の自分を思いだす。そして故郷に帰ろうという青年の言葉に揺れるのだが…。
『アミ…男ともだち』は異色の作品。竹宮恵子の『風と木の詩』以前に同性愛を扱った作品として語られることもある。もっとも個人的な感想としては、やはり竹宮恵子の『サンルームにて』を、「自分だったらこう描く」といった意図で描かれたのではないかという気がしてしまう。
個人的な印象として、一条ゆかりの作品にはどうにもできない運命のドロドロ愛憎劇というのがあって、表題作の『ハートに火をつけて』よりは『シェルフィールドの冬』『アミ…男ともだち』の2作の方が一条らしいと感じてしまう。また『アミ…男ともだち』はもっと長い作品にもできたであろうものなので、読み切りの短編はもったいないなとも思う。もちろんこのテーマで長編を描くにはまだ時代的に難しかったというのもあるのだろうけど。
初出:ハートに火をつけて/集英社「りぼん」昭和48年2月号別冊ふろく、シェルフィールドの冬/集英社「りぼん」昭和46年12月号、アミ…男ともだち/集英社「りぼん」昭和48年3月号
書 名/ハートに火をつけて
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
初版発行日/1975年1月10日
収録作品/ハートに火をつけて、シェルフィールドの冬、アミ…男ともだち
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)