「うちの本棚」、今回は松森正が音楽業界を舞台に描いた異色作品『餓狼の森』です。一見すると刑事もののような渋すぎる人間ドラマ。入手も困難な作品ですがぜひ復刻してもらいたい一作です。

本作は藤波という音楽ディレクターを主人公にした、音楽業界を舞台にした人間ドラマ。
松森作品としては後の『ライブマシーン』にも多少の影響はしているのではないかと思われる。


原作の橋本一郎は、実は本書自体には記載がない(のちに刊行された「エースファイブコミックス」版で表記された)。

ジャズに演歌に軍歌、アイドルポップスとジャンルにこだわりなく本物のミュージシャン、歌手を発掘する藤波の姿を通して、表舞台には登場しない不出世の天才などを描いていく物語。
女性キャラクターは他の松森作品同様美しく魅力的だが、主人公を始め男性キャラクターたちは音楽業界という舞台にしては渋すぎるきらいがあるかもしれない。一見すると刑事もののような印象すら受けてしまうのは、この時期の松森の特徴かもしれない。

本書はひばり書房から刊行された単行本としては珍しいB6版。
松森作品としては、すでに新書判で『木曜日のリカ』が刊行済みの時期でもあり、青年誌掲載の劇画作品をB6版で出していこうとしていたのかもしれないが「ヒバリスーパーコミックス」というシリーズはほかに出なかったような気がする。また「エースファイブコミックス」で再刊行された際は全8話のうち第2話をカットしての刊行だった(ちなみに「エースファイブコミックス」は奥付がなく刊行時期がはっきりしないのだが、80年代の半ばの刊行だったと記憶する)。

原作の橋本一郎は本書を始めその他の松森作品に原作を提供した際にも、最初の単行本では原作表記がないということがあった。一般的な少年コミックと違って「劇画」の場合作画と原作が違っていた方が「それらしい」というイメージができていたこともあると思うのだが、時には同じ作者が作画と原作でそれぞれ別のペンネームを使用して表記していたこともある。
もちろん原作料が別に発生するというケースもあったようで、松森作品における橋本一郎原作作品もその例ではないかと疑っていた時期も個人的にはあった。

漫画や劇画で音楽を表現するのはなかなか難しいところもあると思うし、音楽を扱った作品の多くはミュージシャンを主人公にしたものであることを考えると、本作の特徴や視点の面白さが見えてくるのではないだろううか。実写ドラマの原作になってもよさそうな作品でもある。

書 名/餓狼の森
著者名/松森 正(原作・橋本一郎)
収録作品/餓狼の森・第1話~第8話
発行所/ひばり書房
初版発行日/1976年8月15日
シリーズ名/ヒバリスーパーコミックス(1)

■ライター紹介
【猫目ユウ】

フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。