「うちの本棚」第五十回は、個人的に大好きな松森正の作品から『薔薇のレクイエム』を取り上げます。
前回紹介した佐藤まさあきの『銀猫』にも通じる女抹殺屋の登場です。
「別冊アクション」に『死神カーニバル』として発表された4話を『薔薇のレクイエム』、「増刊ヤングコミック」に『新宿警察』として発表されたものを『新・薔薇のレクイエム』として、また「週刊漫画アクション」に『鉛の喪章』とし発表された女性主人公の独立した短編を『薔薇のオラトリオ』として収録した一冊。
『薔薇のレクイエム』の主人公、美鬼は同じ松森正の『テキサスの鷹』を女性に置き換えたようなハードボイルド作品だが、第1部では『木曜日のリカ』が成長したような容姿であり、第2部になると映画『女囚さそり』シリーズや『修羅雪姫』に主演した梶芽衣子を意識したような容姿になっている。
自らを抹殺屋と名乗り「刑殺官」とも言っているあたり『テキサスの鷹』に印象がダブるのだが(ちなみに「テキサス」は「敵を刺す」からきている)、松森正作品としてはやはり『木曜日のリカ』からの流れとして捉えるのが自然だろうし、劇画の師匠である佐藤まさあきの『銀猫』を意識しているとも受け取れる。
ところでこの作品には原作者がいる。橋本一郎と松森正はけっこうコンビを組んでいて70年代半ばの松森作品には欠かせない原作者だったという印象がある。
調べてみると橋本はマンガ雑誌の編集者であり、朝日ソノラマの「サンコミックス」を立ち上げた人物でもあった(「サンコミックス」にはもうひとり、「マンガ少年」編集長の原田氏も立ち上げに関わっている)。
この単行本のシリーズにも触れておくと、サン出版の「ジョイコミックス」は官能劇画専門の単行本シリーズで、基本的にサン出版の官能劇画誌掲載の作品をまとめていたのだが、毎月4~6点の刊行ということで他の出版社の作品や官能劇画とはいえない本作のようなものもシリーズに含めることがあった。
官能劇画を語る上では外すことのできないシリーズであるとともに、劇画史を語る上でも忘れてはならないシリーズあるだろう。
松森作品に話を戻すと、本作のあとさらに洗練された松森のタッチは『ライブマシーン』で結実していき、『湯けむりスナイパー』につながっていく。この『薔薇のレクイエム』はまだ過渡期の作品といってもいいと思うが、松森作品としては完成度が高いわりに知られていないのが残念だ。
書 名/薔薇のレクイエム 著者名/松森 正(原作・橋本一郎) 収録作品/薔薇のレクイエム(1~4話)、新・薔薇のレクイエム(1~5話)、薔薇のオラトリオ 発行所/サン出版 初版発行日/昭和56年12月1日 シリーズ名/ジョイコミックス |
■ライター紹介
【猫目ユウ】
フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。