「うちの本棚」第五十六回は、松森 正の『ルート・ゼロ』です。とあるレストランを舞台にしたヒューマンドラマの秀作。松森 正の代表作のひとつと言っていいでしょう。
「ルート・ゼロ」というレストラン(というかファミレス的な店)とその経営者夫婦を中心にしたシリーズ作品。
松森のゴラク・コミックス作品としては比較的流通していたもののひとつだと思う。
70年代前半の代表作を『木曜日のリカ』『まんちゅりぃぶるうす』とすれば、後半の代表作としてこの『ルート・ゼロ』をあげることもできるだろう。
内容自体はどこにでもあるような日常的なものというよりは、ドラマティックな事件によって登場人物たちの心情を描いていくものだが、各エピソードごとにラストは清々しい印象を与えるものになっている。
主人公夫婦のひとり、光子のキャラクター(画)はほかの松森作品とはちょっと印象の違う物になっているのも特徴である。強いて言えば『薔薇のレクイエム』の美鬼に近いかもしれない。ちなみにマスターは『ライブマシーン』の主人公の原型といった雰囲気である。
設定自体は長期連載にもなりそうなものだっただけに単行本1冊で終わってしまっているのは残念だ。できればリメイクなり続編なりを描いてもらいたい作品である。
原作の但馬弘介は、調べてみると編集者の夜久 弘であった。なるほど日本文芸社には縁の深い人物ではある。松森とはほかに『新宿25時』などの作品がある。
書 名/ルート・ゼロ 著者名/松森 正(原作・但馬弘介) 収録作品/追いついた過去、待っている女、流れ星ふたたび、雨の訪問者、ある愛の詩、赤いハンカチ 発行所/日本文芸社 初版発行日/昭和55年1月10日 シリーズ名/ゴラク・コミックス |
■ライター紹介
【猫目ユウ】
フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。