おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第百二十二回 いただきヤスベエ/水島新司(原作・牛 次郎)

【うちの本棚】第百二十二回 いただきヤスベエ/水島新司(原作・牛 次郎)「うちの本棚」、今回も水島新司が野球漫画で知られるようになる以前の作品から『いただきヤスベエ』を取り上げます。戦国時代からの流れを組む「白銀(しろがね)一族」のヤスベエの活躍やいかに!?


  • 本作は、秋田書店の「少年チャンピオン」に1971年36号~1972年11号にかけて連載されたもので、単行本は朝日ソノラマの「サンコミックス」で刊行されたあと、講談社の「KCスペシャル」でも刊行されたようだ。

    初出の「少年チャンピオン」では、その後『ドカベン』が連載され水島の代表作となるわけで、野球漫画家というイメージとなる以前の作品といってもいいだろう。

    タイトルにもついてる「いただき」という言葉は、主人公とその周辺の登場人物たちがスリであるからだろう(本編ではただのスリではなく「かすみ者」という忍者のような流れを持つ一族という設定である)。とはいえ単にスリを主人公にした作品ということではなく、スリグループ同士の闘争がメインとなっている。主人公が属する白銀(しろがね)一族とかつては同じ一族だったが分派した黒十字組である。後半になるとさらに鬼政一家が加わり、3つのグループで東京・山手線のシマを奪い合うことになる。また3つのスリグループの中心人物、白銀一族のヤスベエに黒十字組の若、鬼政一家の鬼政に鬼刑事の異名を持つ立脇が登場し、スリの3人が立脇の警察手帳をスリ取るという勝負に挑む。

    原作の牛 次郎はビッグ錠とのコンビで『包丁人味平』や『釘師サブやん』などのヒット作があるが、突飛な設定や展開で楽しませてくれる原作者だ。本作でも影イタチという黒十字組のスリの武器が屁であったり、取り調べ中に容疑者を平気で殴り倒す鬼刑事だったりと、むちゃな展開でストーリーを盛り上げている。

    構成的には前半と後半の2部構成になっていて、前半はふたつのスリグループの埋蔵金をめぐる地図の奪い合いであり、後半は前述した通り縄張り争いである。ページ数的にも半々という分量になっていて、2巻の中程で後半となる。前半と後半のあいだでは数カ月の時間の経過があるのだが、その間にヤスベエは急激に成長していて、前半では子供っぽかった雰囲気が後半では青年のように描かれている。

    野球物以外の水島作品ということであまり話題になることは少ないが、エンタテインメントとしてよくできた作品でもあるので、読む機会があればぜひ手に取ってほしい。

    ※ヤスベエを逮捕しようと顔を会わせればヤスベエを追いかける定年間近の老刑事が登場するが、その名前は銭形。もちろん銭形平次の子孫という設定である。

    いただきヤスベエ 1巻 いただきヤスベエ 2巻 いただきヤスベエ 3巻

    書 名/いただきヤスベエ(全3巻)
    著者名/水島新司(原作・牛 次郎)
    出版元/朝日ソノラマ
    判 型/新書判
    定 価/各350円
    シリーズ名/サンコミックス
    初版発行日/第一巻・昭和49年10月7日、第二巻・昭和49年10月7日、第三巻・昭和49年10月7日
    収録作品/いただきヤスベエ

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 【うちの本棚】第百二十四回 男どアホウ甲子園/水島新司(原作・佐々木守)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十四回 男どアホウ甲子園/水島新司(原作・佐々木守)

  • 【うちの本棚】第百二十三回 銭っ子/水島新司(原作/花登 筺)
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十三回 銭っ子/水島新司(原作/花登 筺)

  • 【うちの本棚】第百二十一回 ゴキブリ旋風/水島新司
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十一回 ゴキブリ旋風/水島新司

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      徐々に寒さが増し、そろそろ温かい飲み物が恋しくなってくる季節。近ごろSNS上で、「ホットコーヒー缶に…
    2. イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      SNS「X(旧Twitter)」のオーナーであるイーロン・マスク氏が、日本時間10月27日深夜、自身…
    3. 目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      海外の映画やゲームが日本向けにローカライズされる際、タイトルも和訳されることもしばしばですが、「あま…

    編集部おすすめ

    1. 菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      10月14日、国産つまようじ製造を手掛ける「菊水産業株式会社」の公式Xアカウントが、同社代表取締役・末延秋恵さんのなりすましアカウントが出現…
    2. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    3. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    4. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    5. 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      株式会社Gakken(学研ホールディングスグループ)は、同作の映画公開40周年を記念して、劇中の「タイムサーキット」を再現した時計「バック・…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト