「うちの本棚」、今回は水島新司を「野球漫画の」というイメージに決定づけたともいえる『男どアホウ甲子園』を取り上げます。剛球一直線の野球どアホウの生きざまを爽快に描いた野球漫画の代表的な作品のひとつです。
「野球漫画の水島新司」最初のヒット作と言っていい作品であり、5年におよぶ連載期間、新書判単行本にして28巻という分量も、その後の水島新司作品の長期連載、大長編作品の最初のものとなっている。またアニメ化された水島新司作品としても最初のものである。また、原作者である脚本家の佐々木 守にとっても、漫画原作の代表作である。
野球狂の祖父によって「甲子園」と名付けられ、幼いころから野球好きとして育てられた主人公、藤村甲子園が、剛球投手として高校野球、大学野球そしてプロ野球でさまざまなライバルたちを相手に活躍していくのがストーリーの基本。このあたりは他のスポコン漫画とも共通するところと言っていいが、なんといっても主人公の突き抜けた性格が本作の一番の特徴となっているのは事実だろう。自ら「野球どアホウ」と言い、「野球以外に能がない」という、そして投げる球は直球のみというばか正直で一本気、そこ抜けに明るく邪心のないところは作品の爽快感にもつながっている。
とはいえ、その主人公の生きざまを貫き通す影には、実のところ周囲の人々にかなりの犠牲が伴っていたりして、その責任をどうとるんですかと、真面目に突っ込んでみたくなったりもする。
主人公が投手であるため、ライバルはバッターだろうと単純に考えてしまうところだが、意外にもその多くは同じピッチャーだったりする。最初に登場するのが池畑という中学から高校にかけてのライバルで、高校野球・甲子園大会では投手戦を展開する。
直球、剛球が武器の甲子園は、とにかく相手に打たせないことが自慢であり、バッターとは力と力の勝負という図式になり、特別な打法や攻略法がなかなか出にくいということも投手同士の投げ合いという展開になったのかもしれない。また、高校野球がそうであるように、投手であっても打撃力も要求されるので、甲子園自身打撃もチームの中では優れていたりする。そこでライバルともお互いに投げ、打つ勝負が展開されている。
作画面でも水島新司の力の入れ要は画面から充分伝わってくるもので、特に試合中の球場の臨場感は流石と言っていい。もっとも投球フォームなどは川崎のぼるの『巨人の星』の方が印象的だったかもしれないが(『巨人の星』は投球フォーム自体に特徴を持たせていたせいもあるだろう)。
本作の続編として、水島新司のオリジナルで『一球さん』が描かれ、また『大甲子園』にも藤村甲子園が登場している。
同じ水島作品の『野球大将ゲンちゃん』でも、本作同様、野球狂によって物心がつく以前から野球に接し、少年野球で活躍するのだが、これは本作において主人公の誕生から高校入学までの成長過程がある意味とばされていたことで、少年時代、リトルリーグなどを改めて描こうとしたのではないかと思われる。その意味で『~ゲンちゃん』はもうひとつの『男どアホウ甲子園』と言ってもいいのかもしれない。
・秋田サンデーコミックス刊行データ
1・昭和45年7月5日、2・昭和46年4月5日、3・昭和47年2月5日、4・昭和47年8月10日、5・昭和48年5月30日、6・昭和48年8月20日、7・昭和48年12月10日、8・昭和49年5月10日、9・昭和49年7月30日、10・昭和49年9月10日、11・昭和49年10月10日、12・昭和49年11月10日、13・昭和49年12月10日、14・昭和49年12月25日、15・昭和50年2月10日、16・昭和50年3月20日17・昭和50年4月10日、18・昭和50年5月10日、19・昭和50年6月30日、20・昭和50年7月31日、21・昭和50年8月10日、22・昭和50年9月20日、23・昭和50年10月15日、24・昭和50年11月15日、25・昭和50年12月20日、26・昭和51年1月20日、27・昭和51年2月15日、28・昭和51年3月10日
初出/小学館・週刊少年サンデー(1970年8号~1975年9号、1999年36・37合併号)
書誌/秋田書店・秋田サンデーコミックス(全28巻)
〃 ・秋田漫画文庫(全18巻)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)