【うちの本棚】第百二十一回 ゴキブリ旋風/水島新司「うちの本棚」、今回ご紹介するのは野球漫画で知られる水島新司の『ゴキブリ旋風』です。スポーツ万能で暴れん坊の主人公は、ちばてつやの『ハリスの旋風』を意識したとも思える作品です。


本作は1970年に秋田書店の『冒険王』に連載されたもの。単行本はひばり書房の「ひばりコミックス」から全2巻で刊行されている(水島作品を紹介したサイトには単行本の発行を78年としているところもあるが、例によってひばりコミックスの奥付表記の問題であり、初版がいつかハッキリしない)。

主人公は貧しい家の中学生男子で、その強靱な生命力からゴキブリとあだ名されている。そのゴキブリを目の敵にしているのが、PTA副会長の息子で風紀委員の座間。彼はカマキリと呼ばれている。1話はそんなゴキブリとカマキリの争いの中で、ゴキブリの生活する周辺の人間模様や、クラスメイトたちとの交流が描かれる。2話では怪我をし、瀕死の父親をゴキブリが子供の頃助けられた医院に担ぎ込み、いまは酒びたりとなっている院長の手術によって一命を取り留めるのだが、院長がのめり込んでいるボクシングの世界にゴキブリも飛び込むというもの(実は1話でもゴキブリの父は怪我をするのだが、2話ではその怪我の原因が違っているフシがある)。3話はゴキブリが同じ中学の女子バレーボールチームのコーチになって、一度も試合に勝ったことのないチームを大会で優勝させるというもの。ゴキブリのキャラクター自体は変わっていないと思うのだが、1話と比べるとまったく世界観の違う展開となっている。全3話ではあるが、同じゴキブリという少年を主人公にした独立したオムニバス作品という形で読むこともできる印象だ。

2巻の巻末には『闘魂』というボクシング漫画が収録されているが、こちらの初出はわからなかった。

水島新司といえば『ドカベン』や『野球狂の詩』といった野球漫画の印象が強いが、それらの作品を手がける前には本作のような青春ものや、スリを描いた『いただきヤスベエ(原作・牛 次郎)』そして『銭っ子(原作・花登 筐)』などの野球以外の作品がある。

※第1話にはバナナの叩き売り、見世物小屋や「へび女」などが登場し、風俗文化を知る一面もある。

ゴキブリ旋風・1 ゴキブリ旋風・2

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/