【おたく温故知新】第三回 戦隊ヒーローのルーツごぶさたしております。のんびり、まったりとしたペースで、現在のおたく表現に関するルーツ等に考察を加える「おたく温故知新」、3回目にしてようやくタイトル画像が登場です。例によって自作ですが、お気に召したら幸いです。

さて今回は、2月に第35作記念作と銘打って、まるで『仮面ライダーディケイド』のように歴代戦隊が登場する新シリーズ『海賊戦隊ゴーカイジャー』が始まった「スーパー戦隊シリーズ」、ひいてはいわゆる「戦隊ヒーロー」のルーツを探っていきたいと思います。


スーパー戦隊シリーズの原型を作った作品としては1975(昭和50)年の『秘密戦隊ゴレンジャー』ということになります。色分けなどでキャラ属性が設定された5人のヒーローが、指揮官(普段、直接戦闘には参加しない)のもと、力を合わせて敵と戦う……というもの。5人組のヒーローが個性を活かして戦う設定は、これに先立つタツノコプロのアニメ『科学忍者隊ガッチャマン』が、その元祖的存在ではないか、と、以前氷川竜介さんが言及されていたことがあります。これに対し、じゃあその元ネタはどこにあるのか……というのが、今回のキモです。氷川さんのコラムが発表された頃から「もっと古い、DNAに刻まれた作品があるんだよなぁ」と感じていたので、ここでようやくご披露できる次第です(^^;

平安時代に編まれた説話集『今昔物語』と、鎌倉時代に編まれた説話集『宇治拾遺物語』。ここに稀代のヒーローが登場します。源頼光を中心とした「頼光四天王」。源頼光に従う渡辺綱(わたなべのつな)・坂田金時(さかたのきんとき)・ト部季武(うらべのすえたけ)・碓氷貞光(うすいのさだみつ)の4人で、たとえば大江山の酒呑童子や、土蜘蛛退治などの話が書かれています。渡辺綱の場合、一人でも「羅生門の鬼」のエピソードで活躍していますね。この四天王に「一人武者」として平井保昌を加え、この説話集におけるヒーローたちと位置づける向きもあります。

さてこの頼光四天王、特に坂田金時は「金太郎」として時代を超えて人気を保っているのはご存知のとおり。となると、彼らを主人公にした、いわば『今昔物語』などのエピソードに想をとった、二次創作が生まれるようにもなってきます。

江戸時代に入り、浄瑠璃の世界で和泉太夫という人が創作し、語りだした作品に「金平浄瑠璃」と称される一連のシリーズがあります。源頼光らは歴史上に実在した人物(坂田金時の存在は結構あやふやですが)なので、新エピソードを創作する……という点では、あまりとっぴなものを作る訳にはいかず、おのずと制限がかかってしまいます。そこで「源頼光の甥、源頼義(実在しません)のもと、頼光四天王の子供たちが集結した!」という完全にフィクションの世界を作り、そこでの活躍を活写するという形で、様々なエピソードができあがりました。今でいう『十兵衛ちゃん』とか、ちょっと違うけど『ルパン三世』とかの、有名人の子孫というキャラが活躍する作品の元祖、とも言えるかもしれません。

元祖頼光四天王に対し「子四天王」と称された彼ら。こんな面々です。

坂田金時の息子、坂田金平
渡辺綱の息子、渡辺竹綱
碓氷貞光の息子、碓井定景
ト部季武の息子、卜部季宗
平井保昌の息子、平井一丸(保春、鬼同丸とも)

という5人。一人武者の平井保昌もメンバーに加わり、そして頼光四天王では筆頭だった渡辺綱に代わって、人気のある「金太郎」の息子である坂田金平がグループのリーダーとなります。また、頼光四天王では、主君の源頼光も自ら四天王と共に戦っていますが、子四天王の場合は源頼義が率先して戦うわけではなく、もっぱら子四天王が戦う設定になっています。つまり「指揮官」と「戦うヒーロー」という役割分担がなされているんですね。戦う敵は、頼光四天王での化物のたぐいではなく、源氏の世を脅かす者が設定されています。これは江戸時代になり、ちょっとリアルな「敵」を設定した方がウケが良い、ということだったのかもしれません。

なぜメンバーが5人になったのかというと、まず主君である源頼義が戦闘に参加しないので、単純に活躍するヒーローの人数が少なくなったこと、そして陰陽五行説に基づいて、人数を陽の数である5人に揃えたかった事が考えられます。

この子四天王(5人いるのに「四天王」って、なんかチャンバラトリオみたいですね)ですが、エンターテイメント作品らしく、各人のキャラが立ってるというか、個性あふれるキャラクター造形がなされています。坂田金平は熱血で直情径行型、父親と違ってナンバー2に甘んじた(?)渡辺竹綱はクール(金平と作戦を巡って対立することもあるライバル)、怪力自慢の碓井定景、一見すると女性にも見える優男の卜部季宗……ここまで読むと、皆さんお判りだと思います。そう、既にこの時点で、5人ヒーローのキャラ原型ができあがっていたのに驚かされます。これも、五行を構成する5つのエレメント(火・木・土・水・金)の性質をキャラクター化したもの、と捉えることもできますね。

金平浄瑠璃シリーズは当時大当たりし、次々と新作が作られました。……が、あまりに新作が供給されすぎると、だんだんマンネリ化が指摘されるのもまた事実。いつしか飽きられ人気が落ちて、金平浄瑠璃はパッタリ上演されなくなってしまいました。作品自体も多くが失われてしまい、現在は「きんぴらごぼう」の元ネタ……として語られるだけの存在となっています。

ただ、やはり山ほど作品が量産された金平浄瑠璃は、以降の物語の中にDNAを残していきました。キャラクター造形です。

キャラ属性が単純化されたんで、他の作品でも記号的に導入しやすかったのかもしれませんね。第一回でご紹介した『南総里見八犬伝』も、人数は異なるものの(これは水滸伝を元ネタにしてるんで、人数が中国の吉数である8人になっている)同じような属性のキャラが登場します。最も判りやすいフォロワーは、河竹黙阿弥による歌舞伎『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』。俗に「白浪五人男」として知られる作品です。この5人も様々な人物やキャラを元ネタにしたものになっており、金平浄瑠璃以来の伝統が生きているといっていいでしょう。

そしてこの白浪五人男から、その後の「5人組の集団ヒーロー」へとつながっていく訳です。いまや歴史の奥底で忘れ去られた存在になっている金平浄瑠璃、現代におけるエンターテイメントの礎となっていることを知っていただけたら……と思います。

■ライター紹介
【咲村 珠樹】

某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
人生のモットーは「息抜きの合間に人生」
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