おみくじ引いてくかニャン?───透明なおみくじ箱の中に猫が手を入れて、まるでおみくじを引かんとばかりチャレンジする動画が注目されていました。
たまたま通りがかった猫がそんなサプライズをしてくれたのかと思いきや、この猫ちゃんが住まうお寺は、数年前から“猫寺”という異名を持つほど猫好きには広く知られるお寺。福井県越前市にある曹洞宗「御誕生寺」の日常風景だったんです。
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動画撮影者の彩夏さん(@aya_0814_)に話を聞いてみたところ、観光で訪れた際に話題のお寺だったため足を運んだとのことで、動画の猫はお茶目で人懐っこかったとご満悦。
■「猫寺」副住職に話を聞いてみた
猫寺……何やら猫好きな編集部の食指がビンビン反応する話題。
そこで、今度は御誕生寺の猪苗代副住職に詳しい話を聞いてみました。
御誕生寺は平成になってから建立された新しいお寺だそうです。建設中に4匹の猫が住み着いてしまい、可哀想に感じた住職が飼いはじめたのがことの始まりなんだとか。
以来、10匹20匹と増えていき、多いときでは80匹以上、現在は30数匹の猫が御誕生寺で暮らしています。
猫達はお寺で平和に暮らしているものの、繁殖しないよう全てに避妊手術をしているそうです。
また、それぞれの猫の里親を探すという活動を「ぬこブログ」はじめFacebookなどで行っており、現在までに御誕生寺が結んだ里親のご縁は約300匹にも上ります。
■誤ったまま流れる情報に困り顔
しかし一方で話題になったからこそ生じる問題も。
当編集部では彩夏さんの動画をもとに記事化をすすめていたのですが、取材の時話を聞いているとどうやらこの数日、別で投稿された同じ猫ちゃんの写真がネットで話題となり、誤った内容を含んだ記事が配信されて困ることが起きているそうです。言われてみて調べてみると確かに話題になってた……。
まず、おみくじの値段について。多くの記事では「200円」と伝えられていますが、動画をよくよく見てみると「200円以上」になっていることが確認できます。また、中には「猫グッズの販売もしている寺」とも紹介されているそうで、これもお寺としては非常に困ってしまう誤りだと漏らしていました。
まねき猫おみくじや猫グッズは、あくまでお寺への寄付をしていただいたお礼としての「おしるし」だそうです。それゆえに「○○円“以上”」「○○円“から”」との記述がされています。そのため「○○円」という価格の売り物として報道されていることには副住職も困り顔。
■話題になったことで猫を捨てにくる人が後を絶たない
また、猫寺として知れ渡ったことで、お寺に猫を捨てていく人が後を絶たないとも仰っていました。この頃に限ったことではありませんが、話題になればなるほど増えるのが現状。
そうなると自ずと問題になるのが台所事情。同寺ではFacebookなどを駆使して広く里親募集もかけていますが猫が増えれば増えるほど追いつかなくなる。特に医療費は頭の痛い問題です。かといって病気になった猫を医者に診せないわけにも行きません。またこういうことを言うと6月に発売された御誕生寺のエッセイ写真集「寺ねこDAYS ねこはなやまニャい」なんて出すからだ!という声も聞こえてきそうですが、あの本は御誕生寺の日常を記したものでこの辺のお寺の苦悩もしっかり紹介されています。
「昔は猫が生まれたら川や山に捨てるのが一般化していました。けれど、時代が移り変わり法律も変わっていき、今では動物を捨てることは罪とされて罰則もあります。そういうことは親から子へと教えていかなければならないこと」と副住職。
さらに副住職はこう続けられました。
「よく、里親探しを続けてうちのお寺に猫がいなくなってしまうと話題にもならないし困るのでは? と言われますが、私はそれでいいと思っています。100年後200年後に、かつて猫で縁を繋いだお寺があった、と語り継がれることで命や縁の大切さの心も繋いでいけるのではないかと考えていますので」
猫が人と人の縁を結ぶ猫寺は、きっと遥か遠い未来まで猫達の世界でも語り継がれていくことでしょう。もちろんその前には人間界でもそうなっていてほしいものですね。
それから当たり前のことですが、お寺で遊ばせていただく際は誰に言われるでもなく、まずご本尊に手を合わせてからにしてくださいね。猫ちゃん目当てに一直線、手も合わせず遊ぶだけ遊んで帰るのは失礼ですよ。手を合わせるとは宗教心からのことだけではありません、ご挨拶の意味もあるのです。
訪れた際にはまずご本尊様にご挨拶。あとこちらはお寺なので、間違えても柏手は打たないでくださいね。たまーにお寺さんに行くと見かけますが、柏手は神社、手を合わせるのがお寺です!お間違えなく!
(文:大路実歩子)