おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

「中国ウルトラマン」問題の複雑な事情 中国での新作映画製作に円谷プロ抗議

2017年7月10日、中国の北京で、映像プロダクション広州藍弧文化伝播公司による2017年10月公開予定の新作映画『鋼鐡飛龍之再見奧特曼(ドラゴン・フォース さらばウルトラマン)』製作発表会が行われました。

『鋼鉄飛龍(ドラゴン・フォース)』は、全編3DCGで製作されている中国の人気アニメーションシリーズ。主人公たちは警察の特務部隊という設定で、あえていうなら日本で1990年代に放送された『機甲警察メタルジャック』のような作品。変形シーンなどは『勇者警察ジェイデッカー』のようなロボットアニメ的な演出もあります。

  • ここで公開された予告映像を見ると、過去のウルトラマン作品からの映像や、バンド「科楽特奏隊」のPV映像が「歴史資料」として切り貼りされ、本編を思わせる映像は最後の30秒程度という感じ。

    また、特番としてテレビ放送された製作発表会では、元々作品がCGで製作されているために着ぐるみが存在しないウルトラマンが、ボディペインティングにマスクをつけた状態(この姿で映画に登場する訳ではなく、マスクの造形については「単に出来が悪かった」だけでしょう)で登場。その様子が紹介された日本に衝撃を与えました。

    これに対し、円谷プロダクションはプレスリリースを発表。当作品について円谷プロダクションは一切関知しておらず、製作発表を行った企業及び、制作に関与しているものに対し法的措置を含む断固たる対応を取ることを明らかにしました。

    ところで、海外でのウルトラマンに関しては、色々と複雑な事情がある……というのは特撮ファンには知られた話。1970年代に、当時の円谷プロダクション社長、円谷皐氏(故人)がタイのソムポート・セーンドゥアンチャーイ氏に「日本国外でのウルトラマンに関する権利」を譲渡した、という話を巡って、ソムポート氏のチャイヨー・プロダクション(のちに日本のユーエム株式会社に権利を譲渡)と円谷プロダクションは、各国の裁判所で争っているのです。

    中国においては、最高人民法院(最高裁)において2013年9月29日付で円谷プロダクションが敗訴しており、『ウルトラマンタロウ』以前に製作されたウルトラマン作品、そして『ジャンボーグA』に関しては、チャイヨー・プロダクションから権利を譲渡された日本のユーエム社が映像化権や商品化権などの利用権を有していると認定されました(日本でも同様の結果が出ています)。この件に関しては「ウルトラマンと著作権 -海外利用権・円谷プロ・ソムポート・ユーエム社」(青山社)という本が2014年に出版されています(訴訟の資料そのままなので、読み解くにはかなりの法律知識が必要になります)。

    著作権自体は譲渡できる権利ではないので(著作権のうち「財産権」は譲渡できます)、プレスリリースにある通り、ウルトラマンシリーズの著作権を保有しているのは円谷プロダクションです。また「新作」に関しても、権利は円谷プロダクションが有しています。

    ここで問題となるのは、この作品に出てくる「ウルトラマン」は、はたしてどのようなウルトラマンなのか、という点です。ウルトラマンの中国語表記は、今回の作品に示された、音をそのまま写した「奧特曼」のほか、内容を翻訳した「鹹蛋超人」という表記もあります。ウルトラマンシリーズだと「鹹蛋超人系列」となります。小中和哉監督によって映画化された『ULTRAMAN』(2004年)は、中国語で「鹹蛋超人奧特曼」と訳されているので、「奧特曼」は、特に初代ウルトラマンを指す場合に使われているようです。

    となると、今回問題となった『鋼鐡飛龍之再見奧特曼』に登場するのは、初代ウルトラマンということなのかもしれません。そうであれば、中国での確定判決もあり、円谷プロダクションと広州藍弧文化伝播公司との間に見解の相違が生じ、事態は複雑化します。もともと『鋼鐡飛龍』シリーズは人気作品であり、わざわざリスクを冒してウルトラマンを無断で使用する必要もないように思えるので、広州藍弧文化伝播公司に対し、中国での権利を有するユーエム社、その海外エージェントとなっている香港のTIGA Entertainment社がウルトラマンの使用を許諾した可能性があるからです。

    現在のところ、ユーエム社、および香港のTIGA Entertainment社はこの件についてなんの反応も示しておらず、詳細は判らないままです。

    映画の公開予定は2017年10月。CGアニメーション作品なので、現段階でもスタジオではかなり制作が進んでいることが考えられます。円谷プロダクションが中国において法的手段に訴えても、公開日までに差し止めが間に合わない可能性もあり、場合によっては「中国における権利を円谷プロダクションは有していない」として、請求が棄却されることも考えられます。

    現在のところはっきりしているのは、予告編に使用された映像の一部に『ウルトラマンタロウ』以前のウルトラマン作品だけでない映像が使用されていること、そして科楽特奏隊のPVが無断使用されている点です。これについては円谷プロダクション、科楽特奏隊が権利侵害を主張し、使用差し止めや損害賠償の請求は可能でしょう。

    しかし映画本編での「ウルトラマン」については、一概に無断使用と中国の司法当局に認められるかは、過去の判例もあり、先行きは不透明です。円谷プロダクションにとっては、また新たな訴訟に頭を悩ませることになりそうです。

    ※画像は株式会社円谷プロダクション2017年7月19日発表のプレスリリース画面のスクリーンショットです。

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 「ダイドードリンコ×ガシャポン」コラボ第2弾
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    「復刻堂 ウルトラマンシリーズ」がガシャポンで再登場、全7種のミニチュアチャーム…

  • 1/6特撮シリーズ ウルトラマンジャック ウルトラディフェンダー ハイグレード Ver.
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    スノーゴン戦の衝撃が蘇る……ウルトラマンジャック×ウルトラディフェンダー、究極造…

  • 「癒スラッガー」税込8800円
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    ウルトラセブンの「アイスラッガー」が癒やしの武器に!マッサージアイテム「癒スラッ…

  • 「怪獣酒場 川崎」が11年の歴史に幕、ウルトラマンたちの調査で安全確保困難
    企業・サービス, 経済

    「怪獣酒場 川崎」が11年の歴史に幕、ウルトラマンたちの調査で安全確保困難

  • ウルトラマンたちと秘密の作戦会議?1歳の女の子が毎朝行っているルーティン
    インターネット, おもしろ

    ウルトラマンたちと秘密の作戦会議?1歳の女の子が毎朝行っているルーティン

  • コンセントの守護神現る
    インターネット, おもしろ

    コンセントの守護神現る!子どものいたずら回避術に「参考になる」の声

  • 解体パズルFANTASY ゼットン
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    「ゼットン」内部が見られる解体パズル発売 骨や内臓など40パーツ入り

  • 画像はつるの剛士さんの公式Twitterのスクリーンショットです
    エンタメ, 芸能人

    つるの剛士がSUPERGUTS集合写真を投稿 ウルトラマンダイナファンが歓喜!

  • 「空想焚火シリーズ ウルトラマン篇」01
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    ウルトラマンOPの影絵を焚き火で再現!「 空想焚火シリーズ ウルトラマン篇」が発…

  • 私の好きな製法です。木彫りで「メフィラス」を再現。
    エンタメ, 映画

    木彫りにて生まれし上位存在「メフィラス」 ファンが「崇める用」を制作

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる
    エンタメ, 映画

    「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる

  • ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設
    企業・サービス, 経済

    ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

  • 嵐・四宮社長が偽アカウント多発に注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定もなし」
    エンタメ, 芸能人

    嵐・四宮社長が偽アカウント多発で注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定も現…

  • カレーシチューに、フレンチサラダ、本当にまずかった脱脂粉乳他(2300円)
    イベント・キャンペーン, 経済

    昭和の“たのしい給食”が期間限定で復活 脱脂粉乳まで再現した「絶滅危惧食フェア」…

  • 新商品「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ>」
    商品・物販, 経済

    焼きあごの香ばしさと細カタ麺の共演 「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ…

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • トピックス

    1. 汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      屋内と屋外で寒暖差が大きく、着る服に悩みがちなこの季節、SNS上で「エアリズムの上にヒートテックを着…
    2. 「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      2025年11月12日午前7時に配信された「State of Play 日本」にて、「ドラゴンクエス…
    3. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…

    編集部おすすめ

    1. 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      頭をぐりぐり動かしながら、床の上を滑っていく1匹のワンちゃん。飼い主さんが「モップ機能つき生ルンバ」と呼ぶビションフリーゼ・せとくんの動画が…
    2. 工場労働者2138人、1万時間の作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場労働者2138人、1万時間の手作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場向け自動化ロボットの研究開発を行うテクノロジー企業、Build AIが、工場労働者2138人による合計1万時間の作業映像をオープンソース…
    3. お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      「解体しながら飲む」が合言葉。童話でお馴染みの「お菓子の家」を、そのまま大人向けに置き換えたような、その名も「つまみの家」がXに登場しました…
    4. 作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業中に「猫」と「たき火」の癒やしを感じながら集中できる……そんな新感覚のゲーム「たき火と猫」のSteamストアページが公開されました。本作…
    5. アカウント1の投稿

      【後編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ※この記事は前編からの続きです。前編では、Temuを名乗る複数のアカウントを調査する中で見えてきた構図をお伝えしました。ここからは、Temu…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト