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「アトピーには標準治療を」河野防衛大臣も言及 適切な治療がとにかく肝心

 6月11日にアトピー性皮膚炎がツイッターのトレンドに上がった事を受けてか、河野太郎防衛大臣がアトピーについて言及しています。

 「ステロイドを使うななどといまだに言ってる人がいるが、アトピーの標準治療にはステロイドを使う。標準治療を拒否しておかしな療法でアトピーを悪くした人はごまんといる。気をつけよう」ツイッターでこう呼びかけた後、「標準治療というより最善治療とか呼んだ方がよいのかな。難しいな」とも。

  • ■ そもそもアトピー性皮膚炎はどうして起こるのか

     日本人の2人に1人は何らかのアレルギー性疾患を持つと言われていますが、アトピーは日本の若者全体の約10%にみられており、特に乳幼児期のアトピーは一番多く、乳幼児の30%以上になると言われています。年齢とともに軽快していくのですが、重度のアトピーは年齢を重ねても重度のままである人も多くいます。大人になるにつれて症状が軽くなる人もいれば、中高年期でも続く場合もあり、人によって様々です。

     アトピー性皮膚炎は、様々な要因が重なって発症する多病因性の疾患です。アトピー体質と、肌のバリア機能が弱くもろい状態等の原因となる、皮膚を含む臓器の過敏を背景に、様々な病因が複合的に関わる事でアトピー性皮膚炎の病態形成に関与すると考えられています。要するに、様々なアトピーを引き起こす内臓や体の過敏性が絡み合った結果、皮膚の炎症として現れるのです。

     花粉症に効く一番の薬は、炎症の抑制効果が高いステロイド剤の吸入薬や内服薬である事をご存じの方も多いと思います。同様に、アレルギー性疾患の一種であると言われているアトピー性皮膚炎も、ステロイド剤の適切な使用で症状を抑える効果が高いのです。

     金属やラテックスなどの皮膚アレルギーがベースにある人も、アトピー性皮膚炎の原因になりうるとも考えられています。河野大臣が竹製の腕時計を大切に使っているのも、腕時計に使われている金属に対する接触性アレルギーが元々あるため、という事です。

    ■ 標準治療とステロイド薬

     一時期、脱ステロイドという治療法が流行った事がありました。アトピー性皮膚炎以外にも、様々な疾患で使われる「ステロイド剤」。アレルギー性の疾患に効果が高く、免疫反応や炎症の抑制に多く使われています。アレルギー性疾患以外の強い炎症に対しても高い効果を発揮します。

     しかし、慢性的な使用は副作用を起こしやすく、内服薬では顔が真ん丸になる「ムーンフェイス」と呼ばれる状態や、体重増加、感染症になりやすいなどのほか、皮膚への慢性的な使用による皮膚の硬化、色素沈着などといった症状が出る場合があります。

     ステロイド剤はかなり広範囲の疾患に効果を発揮し、免疫系統が過剰反応することで起きるアレルギー症状を抑えたり、様々な疾患による炎症を抑えることに長けています。が、あまりにも広範囲に効果を発揮する一方で、効果の高い適切な使い方をしないと副作用も出てきます。

     過剰に副作用を恐れているあまり、ステロイド剤に頼らない治療法が流行った事もありましたが、結局ステロイド療法を代替するまでには至らず、今は廃れています。

     廃れている治療法というものは、結局「ごく一部には効果があった程度」であり、多くの人に効果が望める基本的な治療法、いわゆる標準治療とは言えないものとなるのです。

     ネットでアトピー性皮膚炎について検索すると、脱ステロイドで治しているといった内容のブログ、食生活の悪さや生活態度が起因していたなど、あらゆる情報があふれています。しかし、その中にある、本当に信頼できる情報を正しくキャッチできる人は、ネットを使っている中で果たしてどれくらいいるのでしょうか?

     個人が発信している「温泉水で治った」という情報や、「ステロイドをやめて×△クリーム(オイル)で肌がきれいになった」というのもよく見かけます。が、それは一個人の感想であり治療の話ではありません。特にアトピーは原因となる要素や症状の出方が人によって異なるため、その人がうまくいったからといって、他の人にも効果があるかは別問題なのです。

    ■ アトピー性皮膚炎の標準治療とは?

     アトピー性皮膚炎は、皮膚の湿疹、赤み、強いかゆみといった皮膚の炎症とともに、慢性的な皮膚の乾燥状態が半年以上続く事を指します。酷い状態になると、皮膚がボロボロと剥がれ、じゅくじゅくとした浸出液や、かゆみを原因とした掻き壊しでにじんだ血液が皮膚を刺激し、悪循環となるケースも多くみられます。この酷い状態が慢性化すると、患部の皮膚が分厚くなり、角質化して白っぽい苔の様な状態を引き起こしたり、こぶのようなものができる事があります。

     では、いわゆる「標準治療」とはどういった治療法を指すのか。この治療法は3つの基本から成り立っています。

    1.丁寧なスキンケア

     皮膚のカサカサしたものが張り付いていたり、浸出液が出ていると、それだけの刺激でアトピー性皮膚炎は悪化します。まずは、入浴やシャワーなどでふやかした皮膚の浮いた部分をキレイに落とし、刺激の少ないせっけんで丁寧に汚れを洗い落とします。

     アトピー性皮膚炎の皮膚は刺激に弱く、入浴時の温度が高温となると皮脂が過剰に洗い流されて乾燥に繋がりやすくもなるので、入浴時の適温は38度~40度くらいの、少しぬるい湯温を日本皮膚科学会は推奨しています。また、せっけんなどの洗浄料も、香料や添加されているものが刺激となり、アトピー性皮膚炎の悪化に繋がる恐れもあるとして、無香料・添加物の少ない洗浄料を推奨しています。

     入浴時、軟膏など外用薬が残ったままの状態で上がった場合、残った油分が薬剤や保湿剤の浸透を阻害してしまうので、特に多く薬を使っている部分は、せっけんで優しく丁寧に、残った油分をしっかりと落としてから保湿を行う事が大切です。洗浄料のすすぎ残しも皮膚への刺激となるので、洗い忘れがないかとともに、洗浄料の肌残りがない様にすすぐ事も大切な事です。

     皮膚の清潔を保つと同時に、乾燥しないようにしっかりと保湿を行います。皮膚科で出される保湿剤はアトピー性皮膚炎を悪化させないために必要なもの。アトピーで荒れている肌は、肌表面へ分泌される皮脂が少なく、乾燥状態に陥りがちとなります。そのため、乾燥が酷い部分にはワセリンなどの油分を補給するように塗るとともに、かさついている部分にもしっかりと保湿剤を塗る事が大事となります。

     アトピー性皮膚炎の治療には、このスキンケアを適切に行う事が何より大事。一番のベースとなるのです。

    2.炎症を抑える治療を適切に行う

     ごく軽度のアトピー性皮膚炎の場合、保湿のみで落ち着く事があります。しかし、皮膚がカサカサになって粉が浮いた状態から、湿疹が酷い、浸出液でベタベタになるなどの悪化がある時は、その皮膚の状況をみながら適切な治療薬を使う事になります。

     ここでかゆみを抑える外用薬や内服薬とともに、ステロイドが出てくるのですが、外用のステロイド剤は効果が強いものから弱いものまで様々あります。あまり酷くない皮膚炎に強いステロイドを使う事は、かえって患部への刺激となり副作用を引き起こす原因となります。

     逆に、酷い症状なのに弱めのステロイドを使い続けても効き目が薄いため良くなりません。ステロイド剤は、あくまでも「その部分の症状を抑える対症療法」的な治療薬です。皮膚の症状に応じて、重症のところと軽度なところで強いステロイド剤と弱いステロイド剤を使い分ける事で、健康な皮膚の状態に近づけていく治療法がステロイド剤による治療の基本です。

     悪化している部分には強めの薬を、強めの薬で緩和されたら一段階弱い薬に変えて徐々に炎症を抑え込んでいくのが王道的な治療法ですが、そのさじ加減は炎症を起こしている皮膚の状態をよく観察しながら、主治医と相談して適切な薬剤を選択していく事が大事となります。

     同じ怪我でも絆創膏で済むものもあれば、緊急手術をしないといけない程酷い怪我があるのと同様、皮膚の炎症状態によって治療に使う薬を使い分ける事が大事となるのです。

    3.悪化因子を探し、原因となるものを根本的に治療する

     しばしば、アトピー性皮膚炎の原因に内臓の疾患や外的因子がみられる事も。これは、血液検査やアレルギーテストなどで分かる事があります。

     乳幼児の場合、食物アレルギーの一つとして皮膚の炎症が出る事があります。これがアトピー性皮膚炎に繋がっていきます。また、ダニやハウスダスト、ペットなどの環境性アレルギーでアトピー性皮膚炎に繋がる場合も多くあります。

     これらの原因がはっきりした場合は、原因の除去を行う事がまず大事です。

     まれに、内分泌系の異常によりアトピー性皮膚炎に似た状態となる場合があります。原因がはっきりしない場合、体内で分泌されるホルモンの異常もあったという報告も出ていますので、長期にわたってこれらの治療が効果なく、重症度が高い場合は皮膚科医から他の医師に紹介してもらい、別の視点から病態を観察する必要があるかもしれません。目に見える「皮膚の炎症」というのは結果であって、どういう原因から症状が引き起こされるか、その道筋は一つではないのです。

     そして一番大事なのは、ストレスを避ける事。ストレスは全身の免疫やホルモンのバランスを悪くし、かゆみの悪化を感じる原因に繋がりやすくなります。また、かゆみによってストレスを増大させる事で悪循環ともなり得ます。

     また、周囲の目が気になる事もストレスをさらに強めます。誰だって好き好んで病気になる人なんていません。しかし、皮膚炎の症状で悩んでいる人に対して、見た目から「肌が汚い」「何かキモイ」という心無い言葉を投げかけてくる人は依然として多いのが現状。こうした周囲の無理解は、アトピー性皮膚炎を持っているその人自身を追い詰めてしまう事になります。絶対にこういった見た目に対しての心無い言葉を投げかけないでください。

     この様なストレスの場合、適切な薬物療法に加え、リラクゼーション訓練や認知行動療法などのストレス免疫訓練、体を掻いてしまう事が癖となってしまっている習慣性搔破行動を止める行動療法などで、ストレスに対するコントロール法を身につけていくのも治療の一つとなります。

     皮膚のバリア力を高める事は、アトピー性皮膚炎を緩和させるには重要です。その為にも、ビタミンA、C、Eが多く含まれている緑黄色野菜を充分に摂るバランスの良い食生活、そしてよく眠る事を意識しましょう。眠っている時間帯が、健康な皮膚を生み出すターンオーバーの時間帯でもあります。

     一言で言ってしまえば、アトピー性皮膚炎に必要なのは健康な生活習慣と適切な治療。体だけでなく、心の不健康がアトピー性皮膚炎を悪化させる場合があるという事、アトピーがない人もよく覚えておいてくださいね。

    <引用>
    河野太郎大臣ツイッター(@konotarogomame)

    <参考・引用>
    厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 アレルギー疾患の現状等(平成28年)
    アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018 – 日本皮膚科学会(PDF)
    アトピー性皮膚炎 | 国立成育医療研究センター
    アトピーの治療|標準治療|特定非営利活動法人日本アトピー協会
    ほか

    (梓川みいな/正看護師)

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  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

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    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

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