おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

わずか1年で成し遂げた「全種類コンプ」 とあるどんぐりクラスタの奇跡の物語

 人それぞれ夢中になる何かがありますが、Twitterユーザーのどんぐりの人さんは、ハンドルネームの通り「どんぐり」に魅了された人物。

 その「矛先」は、日本国内に自生する種を収集することに向けられるようになり、なんと2022年の1シーズンで国内産全種類コンプリートを達成しました。

 様々な協力者のもとで成し遂げたそれは、運をも味方につけた奇跡の冒険譚となっています。

  •  幼少の頃から、様々な造形物を好んでいたというどんぐりの人さん。特に形のはっきりしたものが好みだったそうです。

     社会人になり疎遠となっていく中で、大きな転機となったのが3年前。子どもと行った「どんぐり拾い」でした。

     「元々同じ樹種のどんぐりでも、大小様々であることは知っていましたが、同じ形状や大きさのどんぐりは、1つの木が落とす範囲でもある半径数メートルほどの範囲で、まとまって落ちていることに気づきました」

     以前より、自然界に存在するものにも興味を持っていたどんぐりの人さん。ふとした気づきから、現地での観察やネットなどでブナ科の「樹木」について詳しく調べるようになり、その結果、同種でも木によって実らせるどんぐりの形態が異なることを知ります。

     「それからもっと色々な種類や個体差も見たいと思うようになり、観察していく中で、どんぐりの奥深さ、美しさにも気づき、どんどん『どんぐり』の魅力に引き込まれていきました」

    ■ ググって歩いて教わってどんぐり採集

     俳句の季語にもなるほど、秋の季節では公園などで目にする機会の多い「どんぐり」。一方、種類によってはなかなかお目にかかれないものも存在します。

     「そういったものは、大型の公園などで公開されている『どんぐりマップ』や、どんぐりについて活動している方のブログなどで情報収集して、私の観察眼を養っていきました。また、Twitterのフォロワーさん達からもどんぐりに関する様々な知識を教わりました」

     これにより、未訪問だった公園の他に、神社や里山にも足を運んで“どん活”に勤しんだどんぐりの人さん。なお、日本では22種ものどんぐりが分布しているそうですが、先の情報をもとに収集活動を行った結果、なんと20種まで採集が出来ました。

     その中には、「絶滅危惧種」に認定されている「ハナガガシ」も。加えてこの種は、四国と九州の一部にしか生育していないのですが、偶然近くで植栽されていることを知り採集にいたったそう。

    絶滅危惧種に認定されている「ハナガガシ」も採集。

     「いつかはコンプリートしたいとは思ってはいましたが、特に目標にしたわけではありませんでした」

     「完全制覇」が視野に入ったこともあり、折角ならと挑戦してみることにしたどんぐりの人さん。ところが、残る2種は先のハナガガシに匹敵、あるいはそれ以上の「難敵」だったのです。

    ■ 運も味方にした「年間制覇」

     この時点で、どんぐりの人さんが未採集だったのは、「イヌブナ」「オキナワウラジロガシ」という種。まず獲得を目指したのが「イヌブナ」ですが、ある特徴を有していました。

     「イヌブナは、『豊作』の周期が5~7年などんぐりなんですが、『不作』の周期に入ると、徹底的に実を付けないものでもあるんです。実はこれまで実物を見たことがありませんでした」

     しかし、ここで強運を発揮したどんぐりの人さん。念願の採集が叶ったのが2022年秋でした。ついに残すのは、「オキナワウラジロガシ」ただ1つ。

    5~7年の豊作周期でしか実のならないイヌブナ。

     「ここまでくれば1シーズンでの制覇を意識するようになりました」

     運も味方につけたどんぐりの人さんですが、最後に待ち受ける「ラスボス」にはさらなる高いハードルがありました。

     「オキナワウラジロガシ」という名前の通り、この種が生育するのは沖縄県。もしくは、「大和浜のオキナワウラジロガシ林」が国の天然記念物に指定されている鹿児島県奄美地方に存在するのですが、どんぐりの人さんはいずれの住民ではありません。

     もはやこれまでか……12月に入ろうとするタイミングもあり、半ばあきらめかけていたところである「秘策」を打ち出します。

     「家族旅行で沖縄に向かうことにしたんです。近場の温泉にでも……と言っていた話を思い切って変更しました」

     さらに、家族の了承を経て「単独行動」の許しも得たどんぐりの人さん。自身の趣味は、ついに一家を巻き込む壮大なプロジェクトとなりました。

     とはいえ、与えられた時間はわずか「1日」。さらに、オキナワウラジロガシというのは、沖縄でも奥地でしか生育しておらず、現地の人でもそう簡単にお目にかかれません。

     「正直、限られた時間で見つけられるかは不安でした」と語る中、どんぐりの人さんを強力にサポートしたのがTwitter。自身と同じ「沼」の住人たちに、沖縄在住のフォロワーからアドバイスを受け、たった1度のチャンスに全てを賭けます。そして……

     「ついに!」

    1日だけ得たチャンスで積年の想いどんぐりと邂逅。

     2022年12月12日午後3時過ぎ。自身の掌を写した投稿にあったのは、「オキナワウラジロガシ」の姿。

     「憧れのどんぐりだけあり、初めて出会った時は感動でした。Twitterのフォロワーの皆さん、そして何より私の道楽を許してくれた家族に感謝です」

     たった1年で成し遂げたどんぐりの人さんの「国内産どんぐりフルコンプリート」。周囲の理解とサポートと、運も味方につけての「奇跡」でした。

    ■ 実は結構違う「どんぐりの背比べ」

     自身の「どんぐり道」に一定の道筋をつけたどんぐりの人さん。しかし、「まだ見ぬどんぐりの木の住処を開拓したい!」と探求心が尽きることはありません。

     ところで、「どんぐりの背比べ」なんて言葉があるほど、「代わり映えしない」の代名詞で捉えられがちなどんぐりですが、実のところは意外と大きさの違いがあります。

    実は大きさの違いは様々などんぐり。

     フルコンプリートにあたり、どんぐりの人さんは、亜種変種等の4種を含めた26ものどんぐりを紹介。その中には、指先でつまめるものもあれば、「日本最大のどんぐり」とも称され、今回“ラスボス”として立ちはだかった「オキナワウラジロガシ」のように、ゴルフボール大まで育つものも存在します。

    亜種4種も含め、日本国内に生育する26ものどんぐり。

     しかも今回採集できたそれは、曰く「標準サイズ」とのこと。どんぐりは日本国外で生育する種も存在し、寧ろここからが、「どんぐりGO」のスタートラインといってもいいのかもしれません。

     「今回は限られた時間でしたので、まだまだ探索し足りない気持ちはあります。最大級のどんぐりを求めて、またいつか奥地を訪れてみたいです」

    <記事化協力>
    どんぐりの人さん(@donguribito)

    (向山純平)

    あわせて読みたい関連記事
  • 散歩中足を引きずりだしたワンちゃん 肉球に挟まっていたのはまさかのどんぐり
    インターネット, おもしろ

    散歩中足を引きずりだしたワンちゃん 肉球に挟まっていたのはまさかのどんぐり

  • 3歳息子に渡されたお弁当はまさかのどんぐり でも実は……心のこもった贈り物
    インターネット, 感動・ほのぼの

    3歳息子に渡されたお弁当はまさかのどんぐり でも実は……心のこもった贈り物

  • 画像提供:奈良市ボランティアインフォメーションセンター
    インターネット, 社会・物議

    ご不要になった「どんぐり」は当施設へ持ち込み下さい 奈良市ボランティアインフォメ…

  • 小さい頃のどんぐり集めには注意点が(るしこさん提供)
    インターネット, おもしろ

    子どもが好きなどんぐり集め その後の悲劇を描いた4コマが話題

  • インターネット, おもしろ

    ほぼ実物大!?かわいいドングリ型のUSBドングル

  • インターネット, 感動・ほのぼの

    コミケ87で同人誌の「ドングリ払い」が成立→「ほんわかする」と話題

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる
    エンタメ, 映画

    「ウォーキング・デッド」特化オークションが初開催 総額3億円超の落札集まる

  • ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設
    企業・サービス, 経済

    ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

  • 嵐・四宮社長が偽アカウント多発に注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定もなし」
    エンタメ, 芸能人

    嵐・四宮社長が偽アカウント多発で注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定も現…

  • カレーシチューに、フレンチサラダ、本当にまずかった脱脂粉乳他(2300円)
    イベント・キャンペーン, 経済

    昭和の“たのしい給食”が期間限定で復活 脱脂粉乳まで再現した「絶滅危惧食フェア」…

  • 新商品「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ>」
    商品・物販, 経済

    焼きあごの香ばしさと細カタ麺の共演 「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ…

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • トピックス

    1. 汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      屋内と屋外で寒暖差が大きく、着る服に悩みがちなこの季節、SNS上で「エアリズムの上にヒートテックを着…
    2. 「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      2025年11月12日午前7時に配信された「State of Play 日本」にて、「ドラゴンクエス…
    3. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…

    編集部おすすめ

    1. 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      頭をぐりぐり動かしながら、床の上を滑っていく1匹のワンちゃん。飼い主さんが「モップ機能つき生ルンバ」と呼ぶビションフリーゼ・せとくんの動画が…
    2. 工場労働者2138人、1万時間の作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場労働者2138人、1万時間の手作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場向け自動化ロボットの研究開発を行うテクノロジー企業、Build AIが、工場労働者2138人による合計1万時間の作業映像をオープンソース…
    3. お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      「解体しながら飲む」が合言葉。童話でお馴染みの「お菓子の家」を、そのまま大人向けに置き換えたような、その名も「つまみの家」がXに登場しました…
    4. 作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業中に「猫」と「たき火」の癒やしを感じながら集中できる……そんな新感覚のゲーム「たき火と猫」のSteamストアページが公開されました。本作…
    5. アカウント1の投稿

      【後編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ※この記事は前編からの続きです。前編では、Temuを名乗る複数のアカウントを調査する中で見えてきた構図をお伝えしました。ここからは、Temu…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト